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サブカル大蔵経780松本清張『ゼロの焦点』(新潮文庫)

ずっと得体の知れない迫力が続く。
その要因は、北陸の空気と、語り手である禎子の執拗な洞察力と異様な行動力。

金沢の旅館を拠点に鉄道とバスを駆使して、警察や探偵に頼らず、禎子は何のために捜査をしたのでしょうか。みうらじゅんさんも『清張地獄八景』で訪れています。

禎子は、夫への愛情や安心の為ではなく、自分の推理を証明するため、これから自分で生きていくための存在意義を見出すために動いているように思えました。

そしてやはり松本清張と柳沢きみおの共通点を感じます。警察に頼らない自力の捜査、北の海岸、秘密の情事と犯罪。

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禎子はこの番頭によって、自分が人生の岐路に突きやられたように思った。p.15

 新婚旅行で早くも発揮される直感。

「君の唇は柔らかいね。マシマロみたいだ」p.27

 いきなり〈きみお語〉。どうして憲一はお見合いしたのだろうか。

禎子は夫の本棚をあけた。p.36

 RPGだといきなりの重要な分岐点。

(これが北の国だった)禎子は目が覚めたように思った。p.50

 別世界へ。北海道ではなく、この頃は、北陸こそが〈北の国〉だった。

昨夜は、汽車の中で、よくお寝みになれなかったでしょう?p.53

 東京から金沢へは夜行で。一晩かかる。

禎子はそのバスに乗った。p.142

 ひとりで断崖の赤住へ。坂田靖子のマーガレット奥さんを想起させる行動力。

この金沢から南の方、山岳地帯へ私鉄が出ておりまして、白山下というのが終点になっております。その途中に、鶴来という町がございます。p.219

 初めて金沢に行った時、この鉄道に乗って鶴来に行き、菊姫酒造を訪れました。

それは、夜の女の使う米語、つまり、パンパン米語なんですな?p.269

 清張作品における方言の情報量。

つまり、これは憲一の住んでいた"家"なのだ。これは禎子の直感であった。p.313

 読者を代弁するように、読者は禎子の直感と推理をひたすら聞かされていく。それは読者と併走していく。それがこの小説の独特のリズムと臨場感に繋がる。

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