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サブカル大蔵経730栗原康『村に火をつけ、白痴になれ』(河出文庫)

思想と愛欲。その両立は成り立つのか?

とにかく伊藤野枝の文章はすごい。びっくりしました。

それをひたすら応援しながら紹介していく栗原康さんもすごい。他の人では伊藤野枝は総スカンのヒールになりそう。栗原さんだからこそ、伊藤野枝は現代に甦った。

今日YouTubeで水道橋博士と田原総一朗の対談を観ました。田原は戦後に教育や常識がひっくり返ったので、学校も政党も国も信じないアナキストになったと。そして就職してドキュメントを撮る中でAV男優のようなこともしたと語っていました。実は田原は、大杉や野枝の後継者なのか。

あっという間に大逆事件で殺された野枝。

伊藤野枝の呪いってまだ日本にかかってるのではないか?

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お寺の住職に「国賊でしょう」とかいわれて納骨をことわられてしまった。p.ⅳ

 大杉と野枝の墓。静岡県今宿。

「私は自分がわがままだといわれるくらいに自分の思うことをずんずんとやる代りに、人のわがままの邪魔をしません」p.50

 合理的なような、厄介なような。

「道徳だ、道徳が悪い」p.54

 道徳に殺された人たちがいる。同時に何のために道徳があるのかを考える。

「何人でも執着を持ってはいけません。ただ自身に対してだけは全ての執着を集めて、からみつけて置きなさい」p.58

 執着という元気玉

「〈賤業〉という迷信にとらわれて可愛そうな子女を人間から除外しようとしている。それだけでも彼女たちの身のほど知らずな高慢は憎むべきだ。」p.88

 進歩的とされる女性たちの差別意識。

朝、家を出るとき、辻が「元気でな」と声をかけると、野枝は半泣きになりながら「うん」と言ったそうだ。p.104

 一番不思議な辻と野枝の関係。

らいてうは、野枝の見た目もいけすかなくなったようで、髪をゆっておしゃれをしてきた野枝をみて、昔みたいに野性味がなくなってしまった、と回想している。p.114

 女性の嫉妬。『大泉』でも萩尾望都は相手の外見のことばかり書いていました。

しかし宮嶋がすごいのは、血まみれになった野枝が、大杉の胸に顔を当てて泣いていると、そこにまたなぐりこんできて、野枝を蹴りとばしたことだ。/この宮嶋の行為は、大杉周辺の社会主義者たちのおもいを代弁したといわれている。p.119

 葉山日陰茶屋事件。社会主義という世間へのアピールは二人のせいでだいなしになった。

「もう子どもなんて産みやしない。家庭を、人間をストライキしてやるんだ。」p.170

 子供を生産しない。人間をストライキ!

こんなに面白くていいんだろうか。面白すぎる声で騙されちゃってるんじゃないか。私はそれぐらい魅力のある恐ろしい本でもある。p.250

 雨宮まみのこの書評を引用した巻末のブレイディみかこの解説も良かった。野枝のいい加減さとしなやかさと可能性。経典。

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