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サブカル大蔵経967中尾真理『英国式庭園』(講談社選書メチエ)

アニメ「赤毛のアン」で、アンとダイアナが契りを交わす庭が幾何学的な正方形なのが気になりました。あれは…何か象徴的な形なのか、、

松本侑子さんの『赤毛のアン』の訳註に、アンのカスバート家はスコットランド系、ダイアナのバリー家はアイルランド系とありました。あの庭はダイアナの家の庭だから、アイリッシュガーデンなのか?

本書では、庭と人間の密接な関係が窺い知れました。特に、紆余曲折を経て編み出された英国式・風景式庭園は、人間が自然を演出した庭園。自然の征服よりも再現というところに、当時の英国の力を感じます。庭と、国家、子供、散歩、労働。英国とヨーロッパ各国の歴史も勉強になりました。

〈神の庭〉という言葉があります。ギリシャ神話で人間界は、神の庭。アイヌでも、山々は神の庭。では、人間の庭とは?

庭園の様式や園芸のあり方は時代と共
に変わってきたが、身近なところに地上の楽園を作り出そうという人間の願いは、今も昔も変わらない。p.254

インド文献にも、庭がよく出てきたので、調べてレポートを書いたことがあります。階段のある正方形な池がインドの特徴で、それが仏典でも描かれています。浄土とは〈仏の庭〉なのかもしれません。本書ではインドのことは記述がなかったのですが、英国にインドの影響はなかったのかな?

あと、中野美代子先生の著書で、英国の中国趣味とピクチャレスク庭園のことを読んだ記憶があります。本書でもキューガーデンのパゴダや、ピクチャレスクに触れていますが、英国式庭園の中国からの影響は否定されていました。。

アンとダイアナの契りの庭園は、英国式庭園ではなかったかもしれませんが、グリーン・ゲイブルズの周りのアンが名前をつけた小径や池こそ英国式庭園だったのかもしれません。アンが初回あれだけ興奮した理由は英国庭園好きDNA由来だったのかな。

ちなみに、「◯◯式」という言葉は、プロレス技を想念するので大好物です。

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まったく自然に見える光景も、実はみな人工的にこしらえたものである。p.20

 〈風景式〉の特徴。ナチュラルメイク。

イタリアの庭は露壇(テラス)式といって、いくつかの庭を階段状に並べたかたちをとる。/大フランス様式は、イギリス人の趣味には合わなかったようである。p.87.97

 地形や社会構造の違い。しかし庭園は、後塵を拝していた英国の唯一の趣味となりナショナリズムにも繋がっていくのかも。

風景式庭園はこれまでの庭を秩序づけていた「規則性」をも捨て去った。「自然は直線を嫌う」と言って曲線を好み、植物を左右対称に植えることもやめてしまった。p.113

 囲みも壁も秩序も破壊した英国式。

風景式庭園の最大の欠点は、花壇を排除したこと。p.146

 併立しない風景式と花壇。

豪華な熱帯の楽園を象徴するパイナップルは、/楽園の夢の名残である。p.174

 温室と大英帝国コロニアル。

演出された田舎家。p.204

コティジ・ガーデン。日本だと水車式か?

樹木や果樹は男性の領域だが、花壇の花は、花を好む女性たちの意向を汲むことにしよう。ただし、実際の作業は庭師が行うものと考えていたようだ。/イギリスの家には前庭と後庭があり、それぞれが性格が異なっている。p.227.233

性別と公私の共存と対立。園芸家の本領は後庭。ゴミ捨場は裏庭「バックヤード」。

かつて庭は子供の生活には欠かせないものと考えられていた。児童文学は庭園とは特別なつながりを持っている。p.242

アリスもピーターラビットもプーさんも。庭園は閉じられた安全な場でありながら、冒険の異界の入り口か。庭文学。庭の梵我一如。今はスマホが庭か?本書では現代の庭の代替えとして公園を挙げられている。公園の謎がひとつ解けました。


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