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サブカル大蔵経231団鬼六『牡丹』(幻冬舎アウトロー文庫)

SMのイメージしかなかった団鬼六が著した『真剣師小池重明』を読んでみて、こんな世界があったのかと驚嘆してから幻冬舎アウトロー文庫所収のエッセイを読むようになり、本書の吉野家エッセイに出逢いました。

その筆致がとにかく鮮烈すぎて、せんべろブームが起こった時、まず団先生の顔が浮かびました。吉野家やチェーン店を全く下に見ない姿勢はここから学びました。以来、偉大なる先駆者として尊崇しています。カッコいいです。

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何時頃から吉野家の牛丼が好きになったのだろうか、はっきりわからない。初めてこの牛丼屋に入ったのは引退棋士の大友昇九段と一緒だった事だけは覚えている。横浜、桜木町の駅前通りをところかまわず二人で飲み廻り、へべれけになって何やら妙に電灯の明るい店へ足を踏み入れたなと感じたが、それがこの牛丼屋、吉野家であった。アルバイトらしい若い店員に、ここはメシ屋か、と聞くと、ビールや酒も置いている、と言う。それで助かった気分になり制限時間いっぱいまで私たちは腰を据えて飲みだした。p.168

深夜の盛り場での牛丼屋のありがたさ。わたしも以前、深夜の新宿2丁目でへべれけになりながら、すき家に入った時の安堵感ったらなかったです。

この庶民に愛されている牛丼屋で一人、飲む事を覚えてからこの店はなかなか捨て難い味わいのある事を知った。ここへ出入りする人々のむき出しにした生々しい食欲を見廻しながらチビリ、チビリと酒を飲む気分はこれこそ粋人の飲み方だと感じることがある。それまで私は一人、静かに飲む時はホテル・ニューグランドとかブリーズベイホテルの酒場などで年配のバーテンを話し相手にし、オールドパーのストレートをチビリ、チビリであった。バーテンに紹介された外人の泊まり客に下手な英語で語りかけ、面白くないのにキヤッキヤッと笑ったりしていたが、そういうのは全く気障で哀れな飲み方だと吉野家に出入りするようになって思い知るようになったのである。p.169

 チビリ、チビリ^_^

私が何時も注文するのは三百円の牛皿の並と九十円のおしんこ、それからお銚子、これは制限本数の三本を最初から注文しておく。p.169

 この後、林葉直子似の少女との交流、森安九段を偲ぶ展開となります。国語の教科書に載せてほしいです。

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