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エアコンをつけたまま寝ると「朝だるい」理由

深夜帯の睡眠障害~健康被害額は3億4千万円(℃/日、東京23区)にも


夜間に気温が25℃を下回らない「熱帯夜」の季節がやってきました。
東京23区で実施されたアンケート調査では、25℃を下回らない熱帯夜になると睡眠障害の人が増加し、特に暑さの厳しい都心や内陸部では、30%近くにもなります(図)。
この調査では、熱帯夜の睡眠障害による健康被害額の算定をおこなった結果、夜間の最低気温が25℃から1℃上回るごとに1日あたり3億4千万円(東京23区)にのぼると推定されました。


エアコンをつけたままにしたがらない理由


一昔前ならば、エアコンは寝つくときだけつけておき、寝ついたところの時間でオフになるようにタイマーをセットしておくのが一般的でしたが、昨今の暑さでは、エアコンが切れればたまらず目覚めてしまいます。
そこで、寒くなりすぎないようにやや高めの温度に設定して、一晩中エアコンをつけておくという考え方が、最近では主流です。
ただ、「エアコンつけっぱなしで寝ると、次の朝だるいんですよね」 と言う人も多いようです。
なぜ、つけっぱなしだと次の朝、からだがだるいのでしょうか。この、「エアコンつけっぱなし問題」については、きちんとした検証が必要ですね。


最初のコア睡眠期は、エアコンを確実につけておく~深部体温が下がらないと寝つきが悪い


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皮膚表面温度と深部体温が下がると眠りやすくなります。暑い夜に「氷枕」がすすめられるのは、頸部を通る頸動脈が冷やされることにより、深部体温が下がるためです。
そして、人間にとって重要な成長ホルモン(幼少期はからだの成長、大人になってからは新陳代謝を促進)の分泌がさかんになるノンレム睡眠は、睡眠前半にみられます。
高温多湿な寝室での睡眠実験によると、睡眠の前半にエアコンをつけておかないとノンレム睡眠もレム睡眠も減少し、本来深い睡眠が少ないはずの睡眠後半にずれて出現し、朝が来ても眠りが深いため、起床しづらくなります 。
このように、高温多湿な寝室では深部の熱が放熱できず、睡眠の質が悪化してしまうのです。
寝付きはエアコンをつけることは必須として、問題は「朝までつけておくか、それとも途中でオフにするか」、ですね。


朝だるいのは「冷えすぎ」~覚睡時に低体温では起きづらい


エアコンの温度設定が低すぎるとことで必要以上に体温が下がってしまうことが、だるさの要因として考えられます。
また、目覚める頃には深部体温はもっとも低下し、逆に皮膚温度は深部からの熱発散で上昇しています。
ところが朝方にあまりに涼しいと、皮膚温度が下がってしまい、覚醒度も低下します。
目覚める前の冷えすぎも、だるさの一因となります。

 
扇風機は睡眠を悪くする


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熱帯夜の快眠対策では、扇風機についてもさまざまな情報が出回っています。
暑いなか覚醒しているときに風を感じれば快適ですが、睡眠中に強い風をずっと浴びていては皮膚体温が奪われてしまい、身体への負担は大きいと考えられます。
間歇的な風も、余計な皮膚への冷感刺激となり、睡眠が妨げられてしまいます。
昨年、風速 0.14m/s(一般的なエアコンの風速) の風でも心拍数が上昇し、覚醒頻度が多くなり、結果的に睡眠の質が悪くなったという論文が発表されました。
扇風機の風ははるかに強力ですから、長時間の使用は要注意です。

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朝、冷えすぎない対策を


タイマーをセットするならば、寝つきだけのわずかな時間だけでなく、冷房時間を十分にとることをおすすめします。
時間で言えばノンレムとレム睡眠が2サイクル含まれる入眠後3時間程度はほしいところです。

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とはいえ、エアコンがオフになるとたちまち他の部屋からの湿気が入り込み(水蒸気は拡散性が強くて湿度の高いところから低いところへの移動も速い)、さらに壁や家具からの輻射熱によって、不快度が一気に上昇してしまいます。
この結果、タイマーが切れて汗だくで起きてエアコンをまたつけて寝るということを繰り返していると、心拍変動も大きくなります。
さらに、汗が冷やされ蒸発し、体温が奪われるなど身体への負担が増え、朝のだるさの原因となってしまいます。
オン・オフの繰り返しでは電気代もかえって高くなってしまうことを考えると、やはりやや高めの温度、26~28℃で一晩中つけていた方がよいですね。
それでも朝だるいならば、温度設定が低いことによる朝の冷えすぎが考えられます。
女性や高齢者は特に冷えを感じやすいので、自分に合うように冷房温度を調整する必要があります。


ボーダーラインは26~27℃…希望設定温度にくっきりと男女差

エアコンの温度設定については心地よいと感じる温度には個人差があります。同じ部屋で一緒に寝ている人それぞれの希望温度を調べてみました。

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男性の結果で希望する設定温度で最も多かったのは「26℃」19.7%、次いで「25℃」17.7%、「28℃」17.3%の順です。
女性では「28℃」が28.3%で最も多く、「27℃」19.9%、「26℃」18.1%という結果で、男性の希望設定温度が低く、女性のほうが高い傾向にありました。
男女差に注目すると、「26℃」以下の回答では男性の占める割合が高く、
「27℃」以上では女性が男性を上回り、その境界線は26℃~27℃と明確です。この男女の体感温度の境界線は、越えがたいものがありそうです。


実際のエアコン設定温度で決定権を握っているのは女性?

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それでは、実際の設定温度はどうしているのでしょうか?

調査の結果、
「自分の希望に近い」が 37.9%、
「相手や家族の希望に近い」が 28.4%、
「お互いの中間の温度」が 20.3%。
自分の希望を通す人、相手に譲る人、互いの妥協点を探る人。
…暑い夜、設定温度をめぐる静かなバトルが繰り広げられていそうです。

さらに男女別に見ると、
「自分の希望に近い」は、男性が36.2%、女性が39.4%。
「お互いの中間の温度」も、男性17.5%、女性23.0%と、女性のほうが高くなっていました。

就寝時、女性はなかなか設定温度を譲らず、男性のほうが耐えているケースが多いのかもしれません。
女性のほうが粘り強く主張を押し通していると考えられます。


熱帯夜にまつわるエピソードや睡眠対策


日用品情報を提供する(株)プラネット(東京都)がエアコンと熱帯夜にまつわるエピソードを聞いたところ、たくさんの「睡眠対策」が寄せられました。多かったのは、ひんやりする「冷感寝具」を絶賛する声です。
そのほか、入浴時の対策法もありました。家電製品には頼りたくないエコ派の人は、試してみる価値がありそうですね。


【エアコン設定温度バトルの実態】 

●主人とは室温の感じ方に差があり、主人には気持ちよいドライ状態でも私には寒くて目が覚めてしまうため、別々に寝るようになりました。(女性・60代) ●夫が寝た後で温度を上げ、タイマーをかけて寝ます。(女性・30代)

【おススメ!冷感グッズ】  

●シーツをクール素材にしている。(女性・70代上)
●アイスノンがいちばん効果あり。(女性・50代)

【まだある!睡眠対策】 

●お風呂にハッカを入れて入ります。(男性・60代)  ●メントール系のボディーシャンプーを使用すると、さっぱりして体温が下がる。(女性・50代)


エアコンの効く家づくり ~ 住宅性能の改善は、気密→断熱→これからは熱容量(蓄熱・蓄冷)に注目


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昔ながらの家づくりでは隙間も多く、断熱も不十分なうえ熱容量も小さくて、エアコンを切った途端に暖かい外気と湿気が侵入してきます。
この結果、エアコン温度を下げすぎることとなり、健康被害の原因となっています。
最近の高性能な家づくりでは、気密性能や断熱性能への配慮が見られます。
しかし、熱容量(蓄熱性能)の重要性にはまだまだ気がついていないようです。
日中の遮熱に配慮することを前提に夜間冷気を蓄冷できれば、昔の蔵やトンネルのような空間が実現し、エアコンの負荷を最小限におさえることが可能になります。
グラフは、アクアレイヤー(水蓄熱)による夏の涼房効果を実測したデータです。


接触冷感の生地は何故冷たいの?


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寝具がひんやりしていれば夏の寝苦しさも軽減するということで開発されたのが、接触冷感の寝具です。
接触冷感の寝具は敷きパッドを中心に色んな商品がありますが、肌に触れているとひんやりして気持ちが良いです。
ただ、触れた瞬間は冷たくて気持ちが良いものの、ずっと肌に触れていると暖かくなります。
しかし接触冷感のメリットはもう一つあり、寝返りをするなど体勢を変えたときにまたひんやり感を味わえることです。
そうすると皮膚表面の温度は低下し、寝具内の温度も下がりますので、寝苦しさが和らぎます。
そもそも接触冷感の生地を冷たく感じるのは何故でしょうか。

触れた瞬間に冷たいと感じる生地は色々ありますが、共通しているのは「熱伝導性」が良いことです。
熱伝導が良いとはつまり、熱が移動しやすいことを意味し、熱は温度の低い方へ移動する習性があります。
鉄を触ると冷たく感じるのは熱伝導が高いためで、触れた瞬間に皮膚の熱が奪われて、ひんやり冷たく感じるのです。
また繊維の中に水分を多く含むシルクや硬くシャリ感のある麻も触ったときに冷たく感じる、接触冷感素材といえます。
なお、接触冷感素材として使われるのはレーヨン、キュプラ、ポリエステルなどの天然繊維から作られた化学繊維であることが多いです。
代表的な接触冷感衣類のユニクロ・エアリズムも主原料はポリエステルです。

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