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キラーストレス~それは突然、「死因」に変わる

今年の6月、NHK総合テレビ「NHKスペシャル」で『キラーストレス~最新科学で迫る対処法~』が放送されました。
衝撃的な内容で大きな反響があったようです。今回はその内容をわかりやすく紹介します。


あなたは大丈夫?命を奪うストレスの脅威

キラーストレスとは、命にかかわる過剰なストレスのことです。
現代においては、すべてのストレスが「キラー」になり得るのです。
キラーストレスは遺伝子を操り、がんのメカニズムにも割り込んで私達を蝕もうとします。
そもそも、ストレスを受けた時、体の中でどんな反応が起こるのでしょうか?
ワシントン大学ではストレスの体への影響を調べるため実験を行っています。
ストレスを受けた時に反応するのは扁桃体と呼ばれる場所です。
扁桃体は脳の中央に近い場所にあるアーモンドのような形をした部分で、恐怖や不安を感じた時に活動する場所です。
「ストレスを受けた時、最初に反応するのは脳にある扁桃体です。恐怖や不安を感じたことをきっかけに、扁桃体から始まった反応が体全体に広がっていきます」(ワシントン大学准教授ライアン・ボグダンさん)
ひとたび扁桃体が働くと、体の複数の場所が活発に活動し始めます。

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扁桃体からの指令を受けた副腎はストレスホルモン(コレチゾール)と呼ばれるホルモンを分泌し始めます。
ストレスホルモンには心拍数を増やす働きがあります。また、血液を固まりやすくするなどの作用もあります。もう一つ、扁桃体からの指令で活発に動き始めるのが自律神経です。自律神経は興奮すると血管をぎゅっと締め上げ、血圧を上昇させます。
このようにストレスを受けた時、扁桃体が働くのをきっかけに全身で起こる様々な体の反応が、いわゆるストレス反応です。


死を招くストレス その時何が起こるのか

単なるストレスがどのようにして人の命を奪うストレスになるのでしょうか?
例えば、仕事の忙しさなどに加え、睡眠不足、親戚の葬儀と複数のストレスがかかった時、脳出血のリスクが増大します。
ストレスがかかっても一つの原因だけなら、ストレス反応はすぐにおさまります。しかし、複数のストレスが重なると副腎から分泌されるストレスホルモンがとめどなくあふれ、体の中に大量に蓄積されます。
すると、心拍数が増加。血圧が異常に高い状態に陥ります。血圧の上昇に耐えられず、もし大動脈が破裂すれば死に直結します。血管の破裂が脳で起こると脳出血に陥るのです。
「ストレスは警告なしに心臓発作を引き起こし、心不全を招きます。複数のストレスが重なったときストレス反応の暴走がおこり、体は破綻してしまうのです」(エモリー大学教授ヴィオラ・バッカリノさん)

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「がん」や「突然死」の原因はストレス?!

キラーストレスが人の命を奪うのは心臓の脳の病気だけではありません。
ストレスがかかった時、がんが急速に進行するメカニズムが初めて明らかになってきました。
オハイオ州立大学のソンウィン・ハイ教授が注目したのはストレスホルモンによって働き始めるATF3遺伝子という、免疫にかかわる遺伝子です。
乳がんの患者で、ATF3遺伝子と生存率を調べました。
その結果、ATF3遺伝子が働いていない人たちでは1年後の生存率は85%でしたが、ATF3遺伝子が働いている人たちの生存率は45%でした。
ATF3遺伝子は、ストレスホルモンが増えるとスイッチが入り、免疫細胞によるがん細胞への攻撃をやめてしまいます。逆に、ストレスホルモンが減ればATF3遺伝子のスイッチが切れ、再びがんを攻撃してくれます。
「慢性的にストレスを抱えていると免疫そのものを変えてがんを悪化させる引き金となるのです」(オハイオ州立大学教授ソンウィン・ハイさん)

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あなたは大丈夫?ストレス危険度チェック

ストレス反応を引き起こす扁桃体は不安や恐怖に反応するだけでなく、周りのささいな環境の変化にも影響を受けます。それが喜びを感じる出来事であったとしても環境の変化に繋がればストレス反応が起こる可能性があるのです。
以下の表は、一年間に経験したイベント(出来事)を合計して、どれくらいストレスが蓄積しているかを把握する方法です。大阪樟蔭女子大学の夏目誠さんたちのグループが、日本でおこなった調査を基に点数を定めました。

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【合計点】 260点以上:ストレスが多い要注意の段階  
300点以上:病気を引き起こす可能性があるほどストレスが溜まっている可能性がある段階
(点数は目安です。自分自身がどんなストレスにさらされているか、客観的に見つめることが大切です)


ストレス対策 世界最先端からの報告

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今注目されているのが、アメリカ心理学会が推奨する5つのストレス対策です。
1.ストレスの原因を避ける  2.笑う  3.サポートを得る 
4.運動する  5.マインドフルネス です。
このうち運動については、ウェスタンオンタリオ大学での研究で、運動をするとストレスの暴走の引き金となる自律神経の興奮がおさまることが分かったのです。ウェスタンオンタリオ大学の運動のポイントは息が少し上がる程度の速さで歩き、体に少し負荷をかけることです。30分間、週3回行いました。
そして、運動と並んで今世界各国で注目されているストレス対策が「マインドフルネス」です。マインドフルネスとは瞑想をベースにしたプログラムです。


ストレス対策で大注目 マインドフルネス(Mindfulness)

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「マインドフルネス・ストレス低減法」と呼ばれる、世界で広く使われているプログラムを開発したのはマサチューセッツ大学医学部です。このプログラムは瞑想の医学的効果を研究する中から生まれました。
最初は、10~15分を目安に始めます。


(1)背筋を伸ばして、両肩を結ぶ線がまっすぐになるように座り、目を閉じる
脚を組んでも、正座でも、椅子に座っても良いです。「背筋が伸びてその他の体の力は抜けている」楽な姿勢を見つけて下さい。


(2)呼吸をあるがままに感じる
呼吸をコントロールしないで、身体がそうしたいようにさせます。そして呼吸に伴ってお腹や胸がふくらんだり縮んだりする感覚に注意を向け、その感覚の変化を気づきが追いかけていくようにします。
例えば、お腹や胸に感じる感覚が変化する様子を、心の中で、「ふくらみ、ふくらみ、縮み、縮み」などと実況すると感じやすくなります。


(3)わいてくる雑念や感情にとらわれない
単純な作業なので、「メールの返事しなくちゃ」「ゴミ捨て忘れちゃった」など雑念が浮かんできます。
そうしたら「雑念、雑念」と心の中でつぶやき、考えを切り上げ、「戻ります」と唱えて、呼吸に注意を戻します。
「あいつには負けたくない」など考えてしまっている場合には、感情が動き始めています。「怒り、怒り」などと心の中でつぶやき、「戻ります」と唱えて、呼吸に注意を戻します。


(4)身体全体で呼吸するようにする
次に、注意のフォーカスを広げて、「今の瞬間」の現実を幅広く捉えるようにしていきます。
最初は、身体全体で呼吸をするように、吸った息が手足の先まで流れ込んでいくように、吐く息が身体の隅々から流れ出ていくように感じながら、「ふくらみ、ふくらみ、縮み、縮み」と実況を続けていきます。


(5)身体の外にまで注意のフォーカスを広げていく
さらに、自分の周りの空間の隅々に気を配り、そこで気づくことのできる現実の全てを見守るようにしていきます。
自分を取り巻く部屋の空気の動き、温度、広さなどを感じ、さらに外側の空間にも(部屋の外の音などに対しても)気を配っていきます。それと同時に「ふくらみ、ふくらみ、縮み、縮み」と実況は続けますが、そちらに向ける注意は弱くなり、何か雑念が出てきても、その辺りに漂わせておくようにして(「戻ります」とはせずに)、消えていくのを見届けます。


(6)瞑想を終了する
まぶたの裏に注意を向け、そっと目を開けていきます。伸びをしたり、身体をさすったりして、普段の自分に戻ります。

マインドフルネスは8週間のプログラムですが、プログラムを終えると体の不調は約35%、心の不調は約40%軽減されることが研究から分かったと言います。
米国のグーグルやP&Gが社内研修で取り入れ、TIME誌も特集するほど注目されています。

でも、なぜ今に注意を向けることでストレスを減らすことができるのでしょうか?
上司に叱られた過去を思い出してくよくよしたり、また叱られるかもと想像したり、そのたびにストレスが脳の中で再生産され、ストレスホルモンのコルチゾールが分泌されていました。
マインドフルネスでは今に注意を向けることで、この連鎖を止めます。さらに、マインドフルネスを行った人は海馬の一部で増加が確認されたのです。
ストレスに蝕まれ萎縮した海馬が回復する可能性が見えてきたのです。

そもそもストレス反応は太古の昔、私たちの祖先が厳しい自然の中で生き残るために身に着けたものでした。
生命の危機に直面した時、心拍数を上げるなどの反応を起こすことで体を動かしやすくします。そして緊急事態が去った後、ストレスホルモンの分泌は止まります。ところが現代では緊急事態が次々と発生し、絶え間なくストレスに晒されます。
マインドフルネスでストレスの連鎖を断ち切ることができれば、誰でも心の健康を取り戻すことができるので

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