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金沢茶会の須藤玲子さんと伊東史子さん|光と影の茶会

  金沢時代は僕にとって大切な時代だった。そして楽しい時代でもあった。金沢美術工芸大学では月に一回、金沢サロンを開催していた。僕の友人たちはそれぞれ素晴らしい仕事をする人たちだったから、金沢へ招いてこのサロンで講演をお願いしていた。元ソニーのクリエイティブ本部長だった渡辺英夫さんもいたし、まだ売出し中のネンドの佐藤さんもいた。会場はもちろん金美の教室。聴衆は金沢市民で金沢21世紀美術館のキュレーターもいた。始めの一年は講演をお願いした講師の所属する企業から交通費を出していただいていたのだが次の年からは予算がついた。でもその夜のご馳走は僕が招待する、そんな内容だった。
 
僕は教育者としてはあまり情熱を持っていなかったのだがこうして、デザイナーや市民などが学ぶチャンスをつくってはいた。要するに、デザインは教育など出来るものではないと思っていたのである。僕の背中を見て学びなさいという姿勢だった。だから、様々なチャンスをつくって好奇心を育て、意欲を起こさせることだけを考えていた。
 島根県での伝統産業の活性化プロジェクトにアーティストの崔在銀さんやインテリアデザイナーの内田繁君、プロダクトデザイナーの喜多俊之君を巻き込んだり、あるアルミニューム企業の生活関連プロジェクトに倉俣史朗、喜多俊之を招いて「アルミニュームの美を見つけるプロジェクト」をやり、三つの3K展を開催したりもした。10年近く続けた参加自由、会費なしのK塾ではたくさんの若い人たちを勇気づけることができたと思っている。今も年四回、「モノラボ」を開催しているし、プロダクト企業のデザイン部の人たちのために「物学研究会」を開催している。
 
 そんな意識で僕は金沢にテキスタイルデザイナーの須藤玲子さんとジュエリーなど彫金作家でもある伊東史子さんを招いた。刺激をしてもらおうというのである。このプロジェクトは金沢市と地元の若手事業家たちが開いた金沢城址での茶会だった。会場の設計を僕がして、料理や茶菓などに関連した道具を伊東さんにお願いし、会場の演出を須藤さんが活躍してくれた。
 これも仕事であり遊びであり、文化活動でもある・・・という恵まれた活動だった。勿論、お酒は福光酒造、和菓子は柴舟小出、料理は銭屋だった。
 
 会場は白木と和紙でつくった椅子やテーブルで立礼の茶会にした。ちょっとしたおつまみを出すためのキッチンとお酒のサービスがあって、お酒を
出していいのかという議論があったが、会場を適度に仕切りながら中を暗示するためのスクリーンを須藤玲子さんがお得意の布でつくってくれた。立礼のテーブルはニューヨークで発表した「蛍」を原型にして展開している。

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 なによりも楽しいのは仕事だけではなく、仕事の後の金沢での夜の時間である。金沢市の夜景を見下ろすあのカフェバーはどうなっているだろう。金沢の寿司も美味しい。小松弥助は寿司の天才だし、光川も僕は大好きだ。
 
 美とは「反抗と遊戯」である、とつい最近の本に書いたところである。もっと正確には、反抗して、力のなさに諦めて悟り、飛躍して遊びの境地に至ることで美は生まれる。遊びとは車のハンドルやボルト穴にもあるのだが実は人生にも非常に大切であり創造的な活動に欠かせない空間なのである。絵画の「余白」も遊びであろうし、話術や音楽の「間」もこの「遊び」の一つの形である。美とは自然や時代の大きな流れに流されながらも抗い、諦めたかのように見えるのだが、悟り、そこにとどまって、余白や間のように目的を持たない遊びでしかない遊びに身を委ねることのようなのだ。
九鬼周造は「いきの構造」で「婀娜(あだ)っぽい、かろらかな微笑の裏に、真摯な熱い涙のほのかな痕跡を見詰めたときに、はじめて「いき」の深層を把握し得たのである。」 と書いている。遊郭の悲しい宿命に生きる花魁に見た「いき」なのだろうけれど、現代でもそのまま「いき」がある。僕ふうに言えば「「苦しみをもつままにそれを諦め悟りきって生命を輝かせることであり、抑制したエロティシズムでこそ表現される」のだろう。
 
 現代の美をつくるこの二人の女性たちにしても、僕自身にしても、確かになにかの大きな流れに流されながら抗っている。反抗しているのだが大きく受け入れてもいる。受け入れて描くのは遊びの心である。目的に答えてはいるのだけれど、大切なのはそれではない。その周りに漂う遊びなのだ。福光屋の福光さんの日常生活もそうに違いないなと感じている。事業だって同じなのだ。 


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《黒川 雅之》
愛知県名古屋市生まれの建築家・プロダクトデザイナー。
早稲田大学理工科大学院修士課程卒業、博士課程修了。
卒業後、黒川雅之建築設計事務所を設立。
建築設計から工業化建築、プロダクトデザイン、インテリアデザインと広い領域を総合的に考える立場を一貫してとり続け、現在は日本と中国を拠点に活動する。
日本のデザイン企業のリーダーが集う交流と研究の場 物学研究会 主宰。

〈主な受賞歴〉1976年インテリアデザイン協会賞。1979年GOMシリーズがニューヨーク近代美術館永久コレクションに選定。1986年毎日デザイン賞。他、グッドデザイン賞、IFFT賞など多数。

クレジット
タイトル写真:金沢茶会 会場(撮影:黒川雅之 Masayuki Kurokawa)
 

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