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小さいクジラと海賊船【短編小説第1話】

クジラを題材にした小説の短編集です。

メイン小説「小さいクジラと海賊船」のあらすじ

カズ君とるいちゃんの兄妹は、普段は近づけない恐ろし気な洞窟に足を踏み入れると、そこには小さな帆船と小さな人間たちがいた。
カズ君とるいちゃんは、彼らがクジラに閉じ込められて困っていることを知り、クジラを捕まえて、助けてあげることにしたのですが、実は彼らは悪い海賊だった。
カズ君とるいちゃんは、魔法で小さくなってしまったクジラをもとに戻し、海賊をやっつけることができるという、不思議な石を探した。

   以上、小さいクジラと海賊船のあらすじ

小さいクジラと海賊船 1


海に行ってきます!
カズ君とるいちゃんの兄妹は、麦わら帽子をかぶって、魚取りの網とバケツを持って叫んだ。

気をつけて行くのよ。
岩場の手前で遊ぶのよ。
海に入ったらだめよ
ママが、仕事部屋からパソコンの手を止めて叫んだ。

わかってるわかってる。
今多分潮引いてるから、いっぱい潮溜りができてるはずだから!

二人はそう言って、元気いっぱい出かけて行った。
季節はまだ春だったが、日差しは強そうだ。

カズ君は4年生。るいちゃんは2年生になったばかり。
二人は海が大好きで、暇さえあれば、家から1キロもない海に遊びに行っていた。
その海は、広い岩場が広がって、引き潮になるとたくさんの潮だまりができた。
カズ君とるいちゃんは、そこで潮だまりに取り残された小さな魚や、小さなカニを捕まえたり、イソギンチャクを触ったりして遊ぶのが好きだった。
時々ヒトデや、珍しい生き物、綺麗な貝を見つけた時など、大興奮してはしゃぎまくった。

今日はどんな生き物に出会えるだろう、
ワクワクしながら海に着いた二人は、思わず
うわっ
と声を上げた。

海は今まで見たことがないくらい潮が引いていて、普段見えない岩までも出ている。

海賊の洞窟まで行けちゃいそうだよ。
るいちゃんが言う。

昔パパが、
あそこの洞窟、海賊の隠れ家みたいな洞窟だろう?
と言っていたので、二人は海賊の洞窟と呼んでいた。

海賊の洞窟は、いつも二人が遊ぶ岩場から、陸伝いに行った先の断崖にあった。
沖の方に行かないと、そこに洞窟があることがわからないが、昔はパパと岩場の先っぽの方に行った時に、そのパックリ空いた洞窟を見たことがあった。

洞窟の前は、普段は深い海となっていて、
その入り口には波が激しく当たり、大きな波飛沫をあげている。
舟でも容易には近づけないような場所だった。

しかしその日は、比較的波が穏やかで、断崖と海の間に、人一人通れそうな幅の岩場が顔を出していた。

るいちゃんが、洞窟の方に向かって歩き出した。

だめだよ。
もし、本当に海賊がいたらどうするんだよう。
パパが、あの洞窟には近づかない方がいいって言っただろう。
それに、ここの場所は、海は深くなっていて、波も荒いから危ないって。

慎重なカズ君が言う。

大丈夫だよ。
行けるところまで行ってみようよ。行けなかったら戻ればいいんだし、
洞窟まで行けたら、ちょっと覗くだけだから。

好奇心旺盛で活発なるいちゃんが言う。

カズ君も、そう言いながら本心は洞窟を見てみたいという気持ちもある。
じゃあ、ちょっとだけ

岩が転がったガタガタの道を、るいちゃんはカニさん歩きでずんずん進む。カズ君は、そんなるいちゃんの後を、こわごわ慎重に進んだ。

二人は洞窟の前まで来ると、そっと中をのぞいた。
暗くてよく見えない。
ただ洞窟の中は思ったより広く、三分の一位は陸になっていた。
しかし、水が溜まっているところは、かなり深そうだ。

中は静まり返っている。

洞窟に入ろうとしたるいちゃんの手を、カズ君はかるく引いた。
大丈夫、ちょっとだけ、ちょっとだけ。
るいちゃんは、いたずらっぽい顔で振り返って、二ッと笑った。
二人は手をつないだまま、おそるおそる洞窟に入った。
目が慣れてきて、中の様子が見えてきた二人は思わず
あっ
と声を上げた。

そこには、るいちゃんが両手で持てるくらいの大きさの船があった。帆はたたんであるが、帆船のようだ。
その周りには、10センチほどの人間が数十人いて、二人を見つめていた。

大きい人間だぞ!
大丈夫だ、人間の子供だ。
俺たちが見えるみたいだぞ!

誰かがそう叫ぶ声が聞こえたと同時に、彼らは急にワイワイガヤガヤ喋り出した。

二人は唖然として立ち尽くしていた。

するとその中の一人、大きな髭を蓄えたおじさんがやってきて言った。

ようこそ、我が砦へ。
私はこの船の船長のクラーブだ。

私たちが見える人間がここに来たのは、30年ぶりかな?40年ぶりかな?
ずいぶん久しぶりだ。
あれもたしか君くらいの男の子だったなあ。

船長は、カズ君を見ながら言った。

ここへは何をしに来たのかね?

洞窟の中がどうなってるのか見てみたくて…
とカズ君がこわごわ言うと

おお!
君は探検家だね。
私も昔は七つの海を探検して回ったものさ。

と嬉しそうに言った。
まあ、ゆっくりしていきたまえ。
どうだ、この船見事だろう!
船長は、少しお酒を飲んでいるのか、顔が赤かった。

それからヨーロッパやアラブ、アフリカの港など世界の話をしてくれた。
カズ君とるいちゃんは、目をキラキラさせながら、船長の話に聞き入った。

上機嫌だった船長だったが、ふと暗い口調で、
でも今は、この洞窟の入り口付近にいるクジラに閉じ込められていて、ここから出ることができないんだよ。
だから、我々は、この洞窟内で小魚を捕まえたり、海藻を取ったり、時には洞窟を出て山の植物をとったりして、細々と暮らしているんだ。
広い海が恋しいよ。
と、辛そうに言った。

あのクジラさえいなくなれば…

るいちゃんが目を輝かせた。
クジラがいるの?
うわあ、クジラ見たい!

でも、大きなクジラなんて、見かけなかったよ。
カズ君が言った。

入り口付近にいただろう。
君たちにとっては、大きくはなかったかもしれないが・・・

そうだ、君達が持っている網なら簡単に捕まえられるはずだ。

え?
この網で捕まえられるクジラ?
そんなに小さいクジラがいるの?

船長は、二人を洞窟の入り口近くの深みに連れて行った。
二人が目を凝らして水の中を見ると、そこにはなんと、20センチほどのクジラが泳いでいた。

うわあ、ちっちゃいクジラ可愛い。
るいちゃんは、そこで泳ぐクジラをしゃがんで覗き込んでいる。

そうか、僕らにとっては小さいけど、手のひらほどの彼らにとっては、大きいよなあ…

われらを助けてもらいたい。あの暗い洞窟から出て、また明るい広い海に出たいんだ。

船長さんたち、かわいそうだね、助けてあげようよ。
るいちゃんが言った。
カズ君は、あの小さなクジラを捕まえてみたいとも思った。

カズ君とるいちゃんは、船長さん達を助けてあげることにした。

このクジラがいなくなったら、又外の海に出られるんだね。

そうだ。
このクジラを捕まえてくれ。
助けてくれるなら、君たちにご褒美を差し上げよう!
それから、捕まえたくじらは好きにしていい。
飼っても、食っちまっても・・・。

二人は、クジラを飼うことが出来るなんて!
とワクワクした。
クジラは暴れて逃げようとしたけれど、潮が引いていて普段より浅くなっていた為、二人の大きな網で数分で捕まえることができた。

船長は、その様子を嬉しそうに見ていた。

二人は持っていたバケツに小さなクジラを入れた。
小さいとはいえ、バケツの幅ぎりぎりで、クジラには狭そうだった。

船長は、お礼だ
と言って、キラキラと七色に光るきれいな貝殻をくれた。
わあ、綺麗!
るいちゃんは、目を輝かせた。

さあ、出航だ!

気が付くと船長と数十人の乗組員は、早くも船に乗り込み、出航しようとしていた。
たたまれていた帆船の帆はきれいに広がっていて、その姿はとても美しかった。
わあ、すごい!かっこいいなあ!
思わず二人は歓声を上げた。

帆船のようだったけれど、エンジンも付いているのか、かなりの速さで洞窟を出ていこうとしている。
太陽の光が船を照らした瞬間、小さな帆船は、むくむくと大きくなり、普通の帆船の大きさになり、船長や船員たちも普通の大人の大きさになった。

驚く二人に船長は、
ありがとうよ、ぼうず、お嬢ちゃん
と叫んだ。
しかしそう言った船上の船長の顔からは、それまでの優しそうな笑顔が消え、そこには意地悪そうな、ちょっと怖い顔があった。

それにしてもいまいましいクジラめ!
大きくなった船長は、バケツの中の小さいクジラに向かって指を向けた。
その指先からは、何かあやしい光が出ようとしていた。

とっさにるいちゃんが
だめー!!とバケツを抱え込んだ。
かず君は、そのるいちゃんの前に立ちはだかった。
その時、ほわん と何か優しい光が二人とバケツの中のクジラを包み、船長の指から出た光を跳ね返した。

船長は、一瞬驚き、悔しそうな顔をしたが、まあいいか、とつぶやいて、にやりとした。
自由になったからには、こっちのもんだ!

船長を載せた船は、その数秒のうちに姿を消した。

消えた?

二人は呆然として立ちすくんでいたが、バケツの中の小さなクジラだけが、夢じゃなかったことを示していた。
ただ、るいちゃんの手のひらの中の、船長がくれた光る貝殻は、どこにでも落ちているただの貝殻のかけらに変わっていた。

二人は、そのまま小さいクジラを家に持って帰った。

ママは、その20センチほどの小さいクジラを見て、
うわあ、なかなか大きい魚ね。
見たことない魚だわ
と言った。

魚じゃないよ、クジラだよ。
二人が同時に言った。

クジラなわけないじゃないの。
クジラは赤ちゃんでも、確か4m位あるはずよ。
そんな小さいクジラなんていないわよ。

その時、バケツの中の小さいクジラが、弱々しく潮を吹いた。

ね、クジラでしょ?

ママは、
うーん、わからないけど、育てるのよね。
何を食べるの?
と聞いた。

二人は顔を見合わせた。
何を食べるんだろう…

二人は、廊下に小さなクジラを入れたバケツを置いて、両側から覗くようにして小さいクジラを眺めていた。

すると突然
なんてことをしてくれたんだ!
と声がきこえた。
このクジラが喋った?
二人は顔を見合わせた。

なんてことしてくれたんだ!
小さいクジラはもう一度言った。

クジラ君、喋れるの?
るいちゃんが、目を見開いて訪ねた。

なぜかわからないけど、この家に来たら、喋れるようになったみたいだ。
小さいクジラは言った。

なんてことしてくれたんだって、どういう意味?
カズ君が訪ねた。

せっかく悪い海賊達を洞窟に閉じ込めていたのに、逃してしまったじゃないか!

え?海賊?
本当に海賊だったの?
海賊っているんだ…
でも、全然海賊っぽくなかったよ。

二人は、海賊といえば、あの人気アニメのキャラクターのようなものだと思っていた。

でも、最後は怖かったね。
クジラ君を殺そうとしたのかな?
悪い人だとは思わなかったのに。

すぐにわかるよ。
小さいクジラは言った。

それにしても、なぜこの子達はあの洞窟に入っても、小さくならなかったのだろう…
小さいクジラは不思議そうに呟いた。


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