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いいことも悪いことも、ちゃんと人生の土台になっていく。

先日、音楽のお仕事で新潟へ出張した際、帰りの新幹線で素敵なおばあさまと、隣の席になりました。


「新幹線に乗るの、十数年ぶりでね」
「昔は仕事で、あちこち行ったものだけれど」


もう70歳を過ぎていると聞き「おばあさま」と表現はしたものの、見た目は実年齢より10歳以上若く見えました。

茶色いチェックのジャケットを着こなしてお肌はツヤツヤ、にっこり笑ってハキハキと話す姿は、「お上品なお母さん」といった印象。

「帰りの新幹線では執筆を進めよう」とPCを取り出していましたが、そのおばあさまとのお話が楽しくて。
すぐにPCは片付けて、初対面にも関わらず私が大宮駅で降りるまでの1時間半、色々な話をしました。


昔は呉服店で働いていて、全国を飛び回っていたこと。
(担当エリアではトップの売上だったらしい)

旦那さまに早くに先立たれてしまい、ひとり暮らしだということ。

猫が大好きで、過去には7匹もの猫と暮らしたことがあるということ。

お姑さんと上手くいかなくて苦労したけど、最後は仲良くなれたこと。



色々なことを聞かせてくれて、私の話もたくさん聞いてくれました。

家事が苦手で、部屋が汚いこと。
ご飯はほぼ夫に任せてしまうこと。
私も猫が大好きなこと。
子供は作る予定がないこと。

どんな話も笑って聞いてくれて


「うちの娘も、お掃除が苦手なのよ」

「旦那さんがやってくれるならいいじゃない。無理に作らなくても、美味しいものもたくさん売ってるしね 」

「子供がいるのがいいってわけじゃないからね、猫と暮らすのもいいわよね」


そんなふうに、全部「いいじゃない!」と肯定してくれる。
温かい気持ちの中に、なんだか少し不思議な気分になりました。
こんなふうに「いいじゃない、いいじゃない」と話を聞いてくれて、なにも否定せず、「こうあるべきよ」を押し付けられないって、あまりない味わったことのない経験かもしれない。


ーやりたいことがあるって本当に素敵なことよ。

おばあさまのお仕事のお話を聞いていると「あなたはどんなお仕事をされているの?」と。

正直、フリーランスとか複業ワーカーとかの話をしても、頭にはてなマークを浮かべられることが多いのでいつもは適当に濁してしまうことが多いです。

けど、そのおばあさまには濁さずに話すことができました。

「メインの職はライターなんですけど、ほかにも色々やってて。今日は音楽のお仕事で、新潟に行ってて。会社とかには入っていなくて、個人でやってるんです。」

そう話すと「すごいわね、頑張ってて本当に偉い」と、否定するわけでも不思議そうな顔するわけでもなく、たくさん褒めてくれたんです。


やりたいことを見つけられて、それに向かって「全部自分でやる!」って決めて、ちゃんと努力ができるって、簡単なことじゃないのよ。

一生懸命になれることがあるって、本当に素敵なことよ。


春に会社を辞めて、フリーランスとしても仕事が増えて嬉しい反面、最近は「いつかこの仕事がなくなってしまったら」「もうコイツいいやって、見限られてしまったら」と考えることが増えました。

会社に守ってもらわず「全部自分でやる」と決めた責任感の方が大きくて、小さな失敗が続くたびに「自分なんにもできてないな」って罪悪感が募って。

だからこそ「自分で全部やる」っていう覚悟そのものを肯定してもらえたことが、すごくすごく嬉しかったんです。


ーいいことも悪いことも、ちゃんと全部、人生の土台になっていくよ。

今日のnoteのタイトルは、実はおばあさまからもらった言葉です。

「苦労したぶん強くなれる」とか「辛い経験をした人は、他人に優しくできる」って言葉が、私はあまり好きではなくて。

でも、「人生の土台になる」っていう考え方は、すごく好きだなぁと感じました。

そのおばあさまも、お姑さんに意地悪をされたり、旦那さまに若くして先立たれてしまったり、仕事が忙しくてご飯も食べる暇がなかったり、たくさん大変な思いをされてきたそう。

それでもお姑さんとも亡くなる前には和解ができたし、今は近所に助けてくれる人がいたり、自分の子供たちが気にかけてくれたり、「大変なことがたくさんあったけど、今はすごく幸せ」と笑っていました。


私ね、自分の子どもたちにもよく言ってるの。

いいことも悪いことも、全部ちゃんと人生の土台になっていくから、色んな経験をしなさいって。
若いうちから、色んなことを経験して色んなものを見た方がいいよって。

もちろん、みんなが皆、上手くいくわけではないかもしれないけれど。


苦労したから上手くいく、傷ついたから優しくなれるとか、そこは決してイコールではないかもしれない。

でも「あのとき頑張ってよかったな」とか「こういうやり方はよくないんだな」とか、自分の土台として経験が積み上がっていくのは、きっと本当です。

今の私は小さいことでクヨクヨ悩んで落ち込んでいるときも多いけど、おばあさまと同じくらいの歳になる頃には「あの頃はたくさん悩んだけど、すごく幸せだよ」と笑っているかもしれません。



呉服のお仕事で、たくさん人と接し、たくさんのお客さんに助けられてきたというおばあさま。

「たくさんの人と関わってきたから思うのだけど、人の人生って顔に出てくるのよ」と話していました。

1時半の新幹線の旅、私が大宮駅で降りる頃、こんな言葉をかけてくれました。


初対面なのに、お話してくれてありがとう。
あなたはとってもいい表情をしているから、きっと大丈夫よ。


もしかしたら私は、おばあさまに声をかけられるまで、なにか思い詰めた顔をしていたのだろうか。
だから、声を掛けてくれたのだろうか。


真相は分からないけど、お別れをする頃にはとても温かくて明るい気持ちになっていて。

予定していた執筆は進まなかったけれど、そんなことはどうでもよくなるくらい、元気をもらったひとときでした。


たった一度きりの不思議な出会い。
お互いの名前も知らないけれど、なぜだか、またどこかで会えそうな気がしています。

そのときまで、おばあさまとの素敵な出会いを忘れないよう、noteに残しておきます。

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