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歯科矯正業界に価格破壊を起こした注目すべきD2Cスタートアップ

海外の歯科矯正D2Cプレイヤー6社をご紹介。各社の成長戦略を徹底考察。Oh my teethの専門領域なので気合いをいれて書きます。

Smile Direct Club

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Smile Direct Club(以下、SDC)は、現CEOであるJordan KatzmanとAlex Fenkellによって、2014年に創業されました。SDCがアメリカ市場に浸透する前は、Align Technology(アライン・テクノロジー)社のマウスピース矯正「インビザライン」が矯正の治療方法として主流でした。

では、SDCはどのようにして顧客獲得に成功したのでしょうか
SDCは、それまで一般的だった歯科医院に通院しながらの治療ではなく、自宅で矯正ができる矯正キットの販売を開始しました。まさにD2Cであるこのモデルでで歯科医院を通さず、中間マージンを取ることなく、歯科矯正を低価格でおこなうことに成功したのです。

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インビザラインの一般的な費用が6,000~8,000ドルに対して、SDCは1,895ドルで治療を可能にし、矯正には興味関心はあったが、高価格で治療することができなかった層の掘り起こしに成功しました。

SDCのマウスピース作成までのステップはとてもシンプルです
まずは、「SmileShop(歯型3Dスキャニングステーション)」もしくは「セルフ歯型とりキット」のいずれかで歯型をとります、その後、歯科医師によるレビューを経て、自宅に矯正キットが届くシステムです。(ちなみに、「セルフ歯型とりキット」はOh my teethでも2018年ごろから散々トライしてきましたが、印象精度に限界があることから諦めたという背景があります。)
虫歯の治療など矯正の事前処置が必要な場合は、提携クリニックに紹介されるようで、スキャン体験と、歯科治療を受ける場所を切り分けています。これはOh my teethも同様です。

SDCのGrowthは、軍人コミュニティに支えられています
軍には3,700万人のメンバーがおり、購買力は1兆ドルです。基地間の異動が多く、クリニックに通いづらいため、SDCのコンセプトが刺さっているのでしょう。(軍人は平均的な家族の倍の頻度で引っ越しするようです)軍人とその家族向けの様々な特別オファーが、ロイヤリティ、コンバージョン率を高め、口コミを誘発させ、良いループを生みだしています。Growthの鉱脈を探り当てたといってよいでしょう。

今後も提供能力を拡大していくでしょう
SDCは2019.9に23ドルでIPOしたのですが、2020.3には4ドル近くまで落ちる悲惨な状況となっていました。現在はコロナの影響か、8ドル弱まで上がっています。これまで矯正学会からの反発、訴訟や、悪評が漏れないよう返金の代わりにNDAを結ばせていたなど醜聞が絶えませんでした。ただ依然として、アメリカにおける歯科矯正D2CマーケットはSDCの一強であることは変わりません。SDCは店舗数300店舗、他の競合は多くて十数店舗です。SDCはウォルマートとも提携し、提供能力を拡大していくでしょう。
一方、特定の州で歯科医師立ち合いでのCT義務化の動きも出てきており、ちょっとしたゲームチェンジが起きるかもしれません。SDCは現在スキャン非歯科医のスタッフ(アルバイトメイン)で運営されており、CTは一台2,3000万円しますから、プロセスに大幅な変更が必要になります。

Candid

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2014年に創業したSDCの後発になりますが、3年後の2017年にCandidがニューヨークで創業。CandidもSDC同様、歯科通院モデルではなく、Candidが顧客に直接的に歯科矯正を提供するサービスになっています。
矯正を開始するにあたって、歯形をスキャンするために、近くのCandid Studioに一度だけ訪問します。診療に関しては無料です。SDCはスキャン用の店舗を300以上も所有していますが、Candidは10店舗以上所有となっており、SDCの方が遥かに店舗数を所有しています。
また、Candidの歯科矯正の価格は2400ドルとSDCと比較すると少々高いですが、矯正治療後のリテーナー提供はCandidでは無料、SDCでは99ドルの費用が発生します。

対SDC戦略の主軸は「矯正専門医のみと提携」
平均20年以上の経験ある矯正専門医としか提携しないことを押し出しています。歯科医師には、虫歯治療などをおこなう一般歯科と、矯正専門のドクターの二種類に大きく分類されますが、一般歯科医でも資格上、矯正を提供できてしまいます。これは日本でも同じで、一般歯科医が矯正に手を出して火傷するといった話はよく聞きます。

最近は、専用デバイスを使ったリモートモニタリング推し

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Dental Monitoring社のScanBoxというデバイスの提供をはじめました。アプリはDental Monitoring社のものをそのまま提供しているようで、CandidのAppと連携しているわけではなさそう。マウスピースを交換して良いかを精確に判断しようとしています。

あとはCandidはなんといってもオシャレ

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パッケージやマウスピースケース、販促品…どれをとってもオシャレ。店舗もオシャレ。(実際にスキャンしてきた体験記事はいつか書きます)
クリエイティブにいけてるデザインファームを起用しています。

Uniform Teeth

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Uniform Teethは2015年にサンフランシスコにて創業

SDCとCandidとの大きな違いは360°X線(CT)を使用していること

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X線後は3Dスキャンをおこない、歯の根元まで再現した3Dモデルを作成することで、歯の正確な動きが予測可能になります。歯根位置を特定できないと、より緻密、効率的な歯の移動はできないよねという訳です。

SDCやCandidと比較しても幅広い症例に対応できます
価格は軽度~重度の症状ランクに応じて、2,500ドル~4,975ドル以上かかりますが、症例の99%が処置可能であり、SDCやCandidと比較しても幅広い症例に対応できます。重度も可能ということは、アタッチメント(矯正移動を促進するための歯への接着物)を前提としているはずなので、クリニックへの訪問回数は複数回なのでしょう。
また、Uniform Teeth独自のモバイルアプリで矯正歯科医からの診療が可能となり、各患者の進行状況と問題把握を定期的におこない、患者の直接診療を減らしています。CTと矯正シミュレーションソフトの結合までは未だ実現できていないのか打ち出してはいないようです。デンツプライシロナ社は実現できているので、優位性無くなっていくんじゃないかな。

Byte(バイト)

歯をつける

Byte社はQCDのうち、Deliveryを短期化することを特徴に打ち出しています
Hyperbyteと呼ばれるデバイスがキットに含まれており、高頻度振動を歯根や周辺の骨に与えることで、2倍のスピードで矯正治療を完了させられるというものです。他社が平均6か月とうたっているのを平均3か月で出来たら素晴らしいですよね。Oh my teethはこのデバイスにはいまだ懐疑的ですが、実験はおこなっていきたいと考えています。

もう一点他社と違うのは、Lifetime guaranteeというもの
矯正治療完了後、リテーナーという保定装置を一定期間着用していないと、また歯はズレていきます。ユーザーはそのような場合でも、追加費用なしで再度サービスを受けることができるようです。これは凄い。
価格はSDCと同じ1,895ドルです。ただこの中に、HyperbyteやLifetime guaranteeが含まれおり、半分の期間で矯正ができると考えると、多くのSDC検討ユーザーはこちらに流れるかもしれません

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コロナにより、2020年第2四半期の売上1億ドル(約108億円)。凄まじいですね。

▷歯列矯正装置のbyteが絶好調、2020年の売上高は108億円を予想 | TechCrunch Japan

Straight Teeth Direct

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ヨーロッパ発の矯正D2Cサービスです。歴史は長く2009年設立。歯科クリニックがD2Cを始めて成功した珍しい例です。多くの歯科クリニックではデジタル化は進んでおらず、進んでいるところでも他社開発のシステムを利用しています。業務支援系システムを自社開発などと酔狂な真似はしません。彼らも最初は何の変哲もない矯正クリニックから始まっているのですが、年を追うごとにデジタル能力を獲得していきました。
2009年からの最初の8年は、天井にモニターが設置されたハイテククリニック(ハイテク?)。2014年からの3年はオンライン予約や矯正シミュレーションのレビューなどクリニック内オペレーションの自動化。そして2015年からは、矯正シミュレーションレビューシステムを最先端の3Dプリンティングテクノロジーと統合してD2Cモデル開始。そして2017年にネイティブアプリのリリース。価格は1350ユーロ(16万円強 2020.5現在)で、アメリカ競合より安いですね。

アメリカほど競争は起きていないのか、既存の歯科クリニックとの対比を多く打ち出しています。クリニック発なので、歯の研磨処置やアタッチメントも普通におこなうのでしょう。
特徴的なサービスは、Eコンサルティングでしょうか。5枚の写真をアップロードし、いくつかの質問に答えると、対象症例かを歯科医が判断してくれます。

私たちOh my teethもリリース初期にこれをトライしてAIに学習させていましたが、良いユーザー体験につながり辛く、一旦止めました。AIが賢くなったら再開するかもしれません。

Oh my teethは、UX最重視 & スケーラビリティある矯正クリニックの基幹システムを構築したという点で割とこのサービスに近いかもしれません。日本では、「3D Printerを持ってる技工所とクリニックをつなげて間接販売でどうぞ!マーケティングに特化します!」といった矯正サービスが出てきていますが、クリニックや技工所の取り分を削っているだけです。価格というマーケットの大問題にチャレンジするのはまず良いと思いますが、ごそっと取り分を削るから安いのではなく、テクノロジー(3D Printerみたいなコモディティ化しているもの導入ではなく)にベットしてプロセス効率、ひいては健全なマーケットを作る世界を一緒に目指したいなーと思っています。

The Whole Smile Lab

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中には事業ストップしてしまったところも…。顧客獲得競争に負けたのでしょう。ラボ事業に専念するとのことです。サイトを覗いてみるとテックドリブンな歯科技工所になろうとしているのかな。ゴールドラッシュにつるはし売り、それもまた良い戦略かもしれません。ただし歯科矯正の技工領域ではArchFormが伸びていたり、院内技工所のデジタル化を後押しするサービスも増えている、またSDCのように自社製造に切り替えるD2Cサービスも増えていくので、つるはしの供給過多にならないかなとも思っています。

まとめ

海外の歯科矯正D2Cプレイヤーを紹介してきました。日本と比べてアメリカはマーケットの大きさも桁違いなので、(SDCを目の敵にした)激しい競争が繰り広げられています。各社の戦略も明確ですよね。
日本人は、歯並びは重要と認識しているものの、歯科矯正に対してはネガティブな印象を抱いています。(勿体ない!) Oh my teethは、歯科業界におけるD2Cブランドとして、歯科矯正の「通院」「価格」「孤独」の「不」を解消するために、従来とはまったく新しい歯科体験を提供しています。

興味のある方、ぜひ私たちと一緒に未来の歯科体験をつくりませんか?


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