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マーケティング部がリード獲得部になってしまう理由

事業会社でマーケティングをしています。今回noteを書こうと思い立った背景として、マーケティングは時に”デジタルマーケティング”と同義に解釈され、それによってマーケティング部(ひいては企業全体)のマーケティングに対する解釈が狭まっていると感じたためです。

これによってマーケティング部はリード獲得部として機能し、他部署の巻き込み力を徐々に失い、マーケティングの持つポテンシャルを最大限に発揮できていないと考えています。

今回のnoteは、企業にとってはマーケティング思考の教科書のような役割になれば良いと考えていますし、個人にとってはマーケティングに対する解釈を見直すきっかけにしていただければ幸いです。

本noteは「新卒一年目で私が理解しておきたかったこと」を思い出しながら書いております。

また、”マーケティング”はマーケターだけではなく、営業職をはじめとする様々な職種の方が持ち合わせているべきだと考えておりますので、ぜひそのような方々にも読んでいただきたいです。

1 マーケティングとはそもそも何か(What is Marketing)

7P of service marketing

今回の内容をお話しする前提として、マーケティングがそもそもどのように定義されているかや、マーケティングが内包している機能についてお話しする必要があります。

マーケティングの定義をどう解釈するべきか


研究者達はマーケティングに対して下記のような定義をしています。

Marketing is a social process by which individuals and groups obtain what they need and want through creating, offering, and freely exchanging products and services of value with others.
“マーケティングとは、顧客の創造、維持を目的とする企業が、その目的を満たすような交換を顧客とのあいだに生み出すために、アイデアや財やサービスの考案から、価格設定、プロモーション、流通に至るまでを計画し実行するプロセスです。”

The aim of marketing is to know and understand the customer so well the product or service fits him and sells itself.Ideally,marketing should result in a consumer who is ready to buy.
『マーケティングの目的はセリング(単純販売活動)を余分な状態にすることである。そして、マーケティングは購入する準備ができている消費者をもたらすはずである。』

上記の内容は皆さんも聞いたことがあると思います。解釈する方によって誤った解釈がなされるケースもありますが、『マーケティングは決してsellingを不要にするものではなく、ユーザーの購買に対して「売る」ための行為を余分なものにすること』であるという解釈が正しいです。

マーケティングの目的とは「購買する状態にある消費者を生み出す(ready to buy)」ことであり、決して売る活動を不要にするということではないということです。

マーケティングにおいて重要な点は”売る”ことではなく、特定のマーケットにおいて人々にサービスや商品を受け入れられるようにすることであり、ビジネスにおいては上記内容と利益を出す行為を両輪で走らせる必要がある点がポイントとして挙げられます。

マーケターの役割をどう解釈するべきか

社内ではよく「needsを作る」などと話している方を見かけますが、needs/wants/demandsを正しく理解してマーケティング活動を行う重要性に気付いているマーケターは少ないように思えます。

  • needs
    needsは人間の根源的な欲求であり、食べ物や水、生活環境、空気などの環境によって作られる要素となります。

  • wants
    wantsは人間の欲求が特定のobjectに対して向けられ、それを満たそうとする要素となります。

  • demands
    demandsは支払い能力(何かとの交換によって)によってそれを得たいという、具体的な商品やサービスに対して向けられる要素となります。

ここで重要となる点は『needsは環境によって生み出されるものでありマーケターがneedsを生み出すことは極めて困難である。マーケティングで実現できることは、needsに対してサービスや商品というwantsを形作り、消費者(ユーザー)が特定の方向へ進めるようにすることである。』といえます。

つまり、マーケターの役割はwantsを形作ることであると考えています。

Marketing Managementでは下記のように説明がなされています。

"Marketers, along with other social factors, influence wants"
『マーケターはその他さまざまな社会的要因と共にwantsに影響を与える』

また、後述しますが、マーケティングには3つのレベルが存在し、経営レベルなのか、Managementレベルなのか、operationレベルなのかの解釈が適切になされているかによって、企業におけるマーケティングの役割は大きく良い方向にも悪い方向にも変化してしまうと考えています。

商品やサービスをどう解釈するべきか

世の中にneedsがすでに存在しており、マーケターがwantsを形作るのであれば、その先にある商品やサービスは結果的に出力される『価値(アイデアや利便)を届けるためのプラットフォームである』と解釈することが適当であるのではないでしょうか。

つまり、流動的なマーケット=needsという入力に対して出力されるもの(商品やサービス)は常に変化していきますし、マーケットに対して常にプロダクトがフィットするようにサービスや商品を形作ることがマーケターに求められることだと考えることができます。

特にSaaSなどはシステムという買い切りの、本来そのものに価値が内在していたであろう形から、技術の進歩によりソフトウェアがサービスとしての解釈が可能になったことで、システムそのものからシステムを起点としてその周りに存在するあらゆる顧客との接点やコミュニケーション、システムの使用によるジョブの解消側に対して価値が外在しているといった解釈ができます。

つまり、ソフトウェアと考えたときには商品そのものに対する解釈のみを行えばよいが(goods dominant logic)、それがサービスとしての解釈を必要としたときには企業における経済活動全体をサービスとして捉えてマーケティング活動も行う必要があるということになります。(service dominant logic)

サービスは”消費”ではなく”利用”なので、消費者ではなくユーザーとなり、ユーザーがサービスを利用することで企業側の提案(value proposition※提案)が価値としてはじめて顧客によって創出されます。

下記では、これまで実務として行ってきたマーケティングはどう位置づけられる必要があるのかを説明しようと思います。

2 マーケティングに存在する3つのレベル

マーケティングに対する解釈に差異が生まれる理由

世の中にこれほど体系化された知識が存在していても、実務レベルで受け入れられないケースを何度も見てきました。これは解釈の差分による影響があるのではないでしょうか。

それには、それそのものに対しての有効性を懐疑的に感じていたり、使い方や内容がわからない能力の問題であったり、マーケティング部がリード獲得という機能に縮小解釈がなされ、経営や戦略の段階から他者を巻き込んでマーケティングを組み込む力を失ってしまったりと、様々な原因があるかもしれません。

明確に言えることとしては、各人が考えるマーケティングの解釈やレベルに乖離が起こることで、このような事象は発生してしまうと私は考えています。

ただ、短期的な成果を継続的に出す必要のある場合は、最低限のロジックをもって施策を進める必要があるため、大体は前提を最低限固めたうえで施策が動くような状態が実情であるのも事実です。あるいは戦略は語られずに、operationとしての業務のみが従業員に落とされるということもあるかもしれません。

新卒のタイミングでそのような環境で(且つ業務からのみの経験値としてインプットをするだけだと)業務をおこなうと、急激にマーケティングに対する考えが狭まり、またその経験をoutputする際は”個人の経験”の域を出ることはほぼありません。

マーケティングには3つのレベルが存在する

マーケティングには3つのレベルが存在し、それぞれ『経営レベルでのManegerial Marketing』『マーケティング部レベルでの Management』『日常業務レベルでのMaketing Operations』となります。

operationレベルでマーケティングを考えていれば、もちろんそれはリードの獲得やセミナーの開催などの集客という行為がマーケティングとイコール関係を持つことになりますが、Marketing Managementレベルでマーケティングを考えた際は、それは販売戦略であり価格戦略であり市場浸透戦略であり、企業活動全体に解釈が広がります。もちろんLogistics Managementなどもマーケティングの解釈の中に入ってくるので、『部を超えて他社を巻き込む』必要が生まれてきます。

ただ、マーケティングをMarketing operationの中だけで解釈している状態では、それは企業におけるマーケティング部の機能はリード獲得(集客)に帰着しますし、学問やフレーム/アイデアの必要性を説いたとしても、既存のチャネルで既存の手法を用いてoperationを遂行するレベルに収まってしまうわけであると考えます。

上記のようなMarketing operationのみから得る経験だけですと、得られるものも手法論で留まります。つまり、大きなマーケティングの中の「リード獲得の戦術」にとどまり、「自社のサービスって市場に対して適切な形で適切な場所に配荷されてるんだっけ」とか「ユーザーはどのような意思決定プロセス/基準によって購買を決定しているんだっけ」とか「価格戦略/販売戦略はどのような戦略を採用しているんだっけ」などを考える機会が極端に少なくなります。

問題の根幹には、マーケティングの縮小解釈と、企業のマーケティングに対する理解が適切になされていないことによるマーケティング部の役割が狭まっているということがあるのでしょう。

また、「既存の手法である程度の成果を出すことができてしまう」状態も、企業が学問的なマーケティングを受け入れることが困難な理由の一つだと考えています。

実際に戦略を描かずに戦術から入った場合でも、ある程度の成果を出すことは可能です。しかし、「本来はさらに最大化できたであろう」施策は存在するだろうし、企業活動に限界が来た場合に頼られるべきはやはり体系化されたマーケティングであることを私は信じて疑いません。

3 マーケティング施策は出力されるべきものである

マーケティングのwho what how

マーケティングは基本的には「誰に」「何を」「どのように」を考えることだと一般的には言われています。

しかし、「誰に」「何を」を省いて「どのように」から施策が始まってしまうケースを私は部内で頻繁に見てきました。基本的に上記の3つはセットで考えられているべきだと考えます。

ターゲットを決めることは施策のパフォーマンスを最大化するために必要不可欠です。

ターゲットが決まっていなければ、届けるものも本来決まらないはずですし、ターゲットがどこにいるのかが不明のため、「どのように」は定まらないはずです。

つまり、戦略や戦略を定めるためのターゲットや提供価値が定まっていて施策は策定されるべきですし、それを定めるためにマーケティングのあらゆるフレームや体系化された知識などは使用されているべきです。

数学的な構造でこれを考える場合、下記のような式が成り立ちます。

戦略×リソース=施策

リソースを考える必要のない場合は戦略を必要としないため、リソースに対しては∞が入力され、すべての施策に対してフルリソースを投下することになり、リソースを考えなければならない場合は、戦略を必要とするため、出力される施策は戦略とリソースの特定の変数によって導き出されるべきです。

デジタルマーケティング然り、それは前提としてターゲットの購買行動やライフスタイル、技術の進歩などによって「WEB上」でのマーケティング施策がより効果的なマーケティング手法であるからデジタルマーケティングを行うのであって、前提が抜け落ちた手法はこれまでなかったアイデアや他に出力されるべき施策の可能性を存在しないものにしてしまうでしょう、

4 まとめ

マーケターは部外への働きかけを怠ってはならない

とかくリード獲得(集客)を目的とした部署だと誤認されがちなマーケティング部ですが、マーケターは他部署への働きかけを怠ってはなりません。

Marketing Managementのレベルでマーケティングを解釈したうえで、企業活動全体に対して常にマーケティングの必要性やマーケティング観点での進言を行うことが、マーケティング部全体のマーケティング理解への足掛かりとなり、ひいては企業全体へのマーケティング理解につながることは確かです。

そして、他部署を巻き込みマーケティングを考えることが可能になれば、それはマーケティング部の持つ機能がデジタルマーケティングからマーケティングへと変わることを意味するでしょう。

また、体系化されたマーケティングへの理解と同様に実践も重要視されるべきであり、理論と実践は両輪として理解されるべきであると考えています。

消費者やユーザーが最終的に接触できるものはクリエイティブであり施策であることは事実ですので、結局は実行されなければ机上の空論となってしまいます。

【本noteのまとめ】

  • ”デジタルマーケティング”ではなく”マーケティング”への理解が企業全体におけるマーケティング部の持つ機能や影響範囲への理解へと繋がる

  • 施策は出力されるもので、最低限のロジックを持って実行されるべきである。

  • 理論と実践は同様に重要視されるべきで、双方が企業活動においては明確に存在するべきである

  • マーケターはマーケティング部や企業へのマーケティング理解の努力を怠ってはならない


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