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美しい花の記録(SC2020 Spring顛末記)その四

"神よ あなたに伝えたい歌がある それは生きる喜びの歌
野を駆ける事がうれしかった私が いつしかそれを忘れ
兄弟に勝つために走る事を 喜びと覚えぬよう
その果てしなき争いに 身を沈めぬよう
私に勝つための力を与えてください
グレートスピリッツ
大自然たるあなたと共に あり続けられますように"
『シャーマンキング』武井宏之

何を置いても告知から。中止となったC98にて頒布が予定されていたガールズ ラジオ デイズ合同本『___・ラジオ・デイズ』の予約販売が開始となりました。いわゆる #エアコミケ です。

参加者32名! イラストやSSはもとより評論やエッセイなど、三十二者三十二様の視点が詰まった大バーリトゥード本です。タイトルから天才。絶対に面白い。読んでほしいし、読みたい。私も末席でSSを書いております。よろしくお願いします。

さてエアコミケは規定や舞台が統一されていない混沌の企画です。元来の自然発生的意味が保たれているためですが、反面、即売会としての実用性は非常に乏しく、本と偶発的に出会う機会が無いという黎明期の電子書籍販売と同種の問題が露呈しています。

ひとまずの対処法は常のとおり、信頼できる情報筋からのレコメンドということになるでしょうか。私は『碧空戦士アマガサ』(「制作本舗ていたらく」によるオリジナルヒーロー小説)の新刊を購入しました。

君もエア握手だ!


サンシャインクリエイション2020 Spring
顛末記 その四 実戦編

その一 その二 その三 と来て、私の刊行物も無事にBOOTHでの通販が始まりました。

いろいろあったり無くなったり形が変わったりしましたが、ともかく頒布に至れたことで一安心。次善手段のありがたみ。購入いただいた方には率直に感謝の念をお伝えしたいです。何度でもありがとうございます。
通販が始まり、商品の到着もある程度は確認できました。折良く月も変わったということで、今回は戦況の報告、取りこぼしたなんやかんやの記録をやっていきます。

 印刷について
まず前回触れなかった制作物の雑感など。すでに書いたとおり、今回の制作物は同人誌印刷るるる様で配布されているテンプレート(フォント、文字サイズ、字間、ページ設定、表紙の配置、何もかも)をほぼそのまま使用しました。そうして実際に印刷された物が、こう。

画像1

ハヤカワ文庫は比較物として不適切では? 本自体は収まりの良いサイズですが、背タイトルは大きすぎた。表紙の文字サイズにはテンプレートがないので試行錯誤しかない。

画像2

中身。右は同じく『疾走! 千マイル急行・上』(小川一水)。十分、というか全然良い。もちろんここを凝るのも同人誌の面白み。
こちらを参考に文章の調整も試みました。読みやすいという感想を頂けた(めちゃくちゃ嬉しい)ので甲斐があったのかも知れません。なかったかも知れません。


 通販について
本稿は記録なので、恥も外聞も無く結果発表をします。マジで明け透けにやるのでそういう話が好みでない人は見逃してください。

4月11日から30日までの数字
印刷:38部(申し込み分30+印刷余部8)
倉庫保管:34部
販売数(注文+発送完了):21部 / 在庫:13部
印刷費:16510円
売り上げ:15763円
(800(販売価格)×96.4%(倉庫発送での受取分)-26(倉庫発送手数料))×21+118(BOOSTいわゆる投げ銭の受取分)※小数点以下切り下げ

はい。

印刷部数、価格、売り上げは同人誌制作において頻繁に取り沙汰される話題です。そして当然ながら個々の語り手やケースによって、制作体制や道義的な姿勢、信条に差異があるため、かくあるべしという絶対的な基準や心構えは存在し得ません。
「利益が出ている制作者はごく一部で、ほとんどは趣味としてやっている」という言説には真実味があります。それでもやるなら「欲してくれる人に届く数を用意し、予測される赤字を許容できる価格で売る」という設定方法が無難なものとして語られる一方、「マイナーとか予防線張ってないで黒字を目指す努力はするべき」「一次創作ならともかく二次創作で利益を求めるべきではない」などの考え方にも説得力がありますね。誰も信じるな。こいつらはお前の事情など何も知らない。お前はお前の好きにやれ。

それはそれとして、私には今回の設定が適切だったのかを検証して遊ぶ権利があるはずです。やっていきましょう。なお先述したエアコミケなどの機運によって5月に入ってからも注文があり、5月3日時点では販売数:25部/在庫:9部/売り上げ:18743円となりました。


 設定の検証
BOOTHの倉庫利用は月間の売り上げが保管在庫の20%を下回ると保管料が発生するため、このラインを超えたことがまず安堵のポイントです。また広く言われる「欲してくれる人に届く数」という点から見ても、部数の約2/3の販売というのは妥当だったように思われます。全くの偶然ながら採算ラインも丁度良かった。しかしながら――

・本来は即売会での直接販売であったため、イベントによる購買意欲の増加と、同原作のサークル(glrd_2019)との隣接による狐假虎威効果を期待していた。甘い目論見は吹き飛んだ。
・エアコミケのみならず多くのイベントが中止になったことで、同人作品の通販が流行。結果としてBOOTH倉庫販売の遅延に繋がるも、一般的に買い手の心理的ハードルは下がった。
・SNSで頒布物の感想をいただいた際に販売数が伸びた=一発勝負の即売会では発生し得なかった宣伝があった(なので今後も同人誌の感想が世間で増えると思う。俺も書く)。

などプラスマイナスもろもろの想定外がありました。つまり……何も分からない……。俺はいつでも人に助けられている。感想はやっぱり嬉しいです。

明確なデメリット、というか今後の対策も少々。
通販は通販なので、売り手と買い手が顔を合わせる機会がありません。売り手は声を出して宣伝したりお釣りを用意しなくて済み、買い手もすぐに立ち去れる(それ以上アピールしなくても売り手への応援が成立する)のでメリットは絶大ですが、SNSで自発的に発信していただけないと無事に届いたのかすら分からなくなるのは問題です。手応えがなく、不安になる。俺は弱い。検索性の高いタイトルをつける、告知段階で発信してもらいやすいハッシュタグを用意しておく、などが有効かと思います。


 未来へ
なにはともあれ「___・ラジオ・デイズ」「デイズ・バイ・デイズ」をよろしくお願いします。mktbn個人の製本記録としては今回で完結としますが、この先には「ヘッズ一次創作SFアンソロジー」の頒布が控えています。そちらも是非よしなに。楽しみが多いのは良いことです。

ありとあらゆる業界と同様に、変化を余儀なくされた同人界隈の今後は全く不透明で、偶然このタイミングで飛び込んだだけの私には何がどうなるやらさっぱりです。とはいえ製本は楽しかったですし、即売会そのものへの参加は結局果たせていないので、ここまでの記録を活かす機会を虎視眈々と狙っていこうと思います。以上です。



 以下は素人の雑感。読んだそばから忘れてください。
 購買イベントとしてのエアコミケ、冷静に考えて即売会でも何でもない(個々が通販ページを紹介しているだけなので展示会の方が近い)ので、SNSでのお楽しみ以上の成果を求めるのは難しそう。僕自身全然買っていない。面白そうな作品を探すのに適した場所が固まっていないのはやはり痛い。
 今後、商業イベントしての形を残すなら、同人通販サイトでの一斉販売(あるいは名目だけ残したセールのイベント化)とかに落ち着くのだろうか。しかし通販は買い手が物を直接確認できない分、売り手の「ちゃんとしなきゃ駄目か」という意識が強くなりそう(あとイベントがないと締め切りがなくなる)なので、作品制作のハードルを下げる動きが必要になると思う。僕にできたんだからみんなもやってほしい。
 イベントを残す路線ならバーチャル同人誌即売会と合流しそうにも思えるが、現時点では解像度と物理媒体の相性の悪さがどうしても気になる。ちゃんと追ってはいないので真に受けてはいけない。
 物理接触と比するデジタルデータの強みは、いつどこからでも触れられるアーカイブ能力が大きいはずだ。となると現実を真似た時限付きのイベントより、作品をザッピング的に触れられる恒常的な空間を作る方が面白いのではないか。当然検討されているだろうし、実現可能性は知らない。
 記事にもある「Music Unity 2020」は、ストリーミングフェスというVRより手前の手段で、音楽に疎い僕でも強烈に楽しく一体感を味わえる"空間"を確かに形成していた。リアルイベントも在宅イベントも、盛り上がるために人が踊り出す感情のうねりが不可欠なのは変わらない。
 過去の実績から一緒に踊るファンのいる作家であれば、新刊の発行は現状でも単独で一つのイベントになり得る。売れ行きに直結するし、売り手と買い手双方のモチベーションにもなる。では「たくさんの人が集まって好き勝手な作品を売ったり買ったりする」というみんなで踊るイベントを失ったとき、実績の無い作家はどのように動くか。通販同人世界でどうすれば同人誌製本の火が続くのか。分からない。分からないが。
 ひょっとして、少なくとも参加者は一斉に踊ることができる、大合同誌時代が来るのか。原義同人誌の復権。

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