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美しい花の記録(SC2020 Spring参戦記)その一

"美しい「花」がある、「花」の美しさという様なものはない"
"肉体の動きに則って観念の動きを修正するがいい、前者の動きは後者の動きより遙かに微妙で深淵だから" 『当麻』小林秀雄
"百合について語るな、百合をやれ" 「百合が俺を人間にしてくれた――宮澤伊織インタビュー」宮澤伊織

2020年3月8日、池袋サンシャインシティで開催されるサンシャインクリエイション2020 Springに参加します。初めての物理本です。スペースN23a、サークルQUICK FIX、頒布物は『ガールズ ラジオ デイズ』二次創作短編小説集。pixivに投稿した話の加筆修正物が9割、書き下ろし1割という構成です。たぶん一部1,000円。曲がりなりにも売り物にする以上は、という気分で書き下ろしとか言いましたが、その部分も後日投稿すると思います。読まれたいので。
さて本稿は頒布物の告知記事です。しかしお世辞にも大流行とは言えないコンテンツの二次創作物なのでそこまで宣伝する意味はなく、大それた数を刷るつもりもなくメイクマネーには程遠く、コロナとかあれなので気軽に遊びに来てくださいとも言えず……なんか悲しくなってきたな……そちらは程々に、事態の経緯などを書きます。というか、もし興味が湧いたのであれば『ガールズ ラジオ デイズ』本編に触れてみてください。筆者の頒布予定物と違って即座に無料で聞くことができます。何卒。
連載としてインプット・アウトプット・製本・実戦の全四部を予定しております。今回はインプット編、意識して摂取した作品の中から特に強い印象を受けた物の話をします。よろしくね。

サンシャインクリエイション2020 Spring
参戦記 その一 インプット編

時は2019年1月。世界には関係性の風が吹き荒れている。俺のアンテナはなまくらだった。

それから一年。
この度、二次創作とはいえ女性同士の関係性を描いた小説をイベントで頒布する機会を得た。自分でもよく分からないその過程を振り返りたい。だが花の美しさではなく、美しい花の話をする。数多の先人が言うとおり、そうするしかないことだけはよく分かったからだ。

一年程度模索したところで、百合とは何かと語りうる語彙を見つけることはできなかった。語りたくもない。烏滸がましい話だ。理解できているとも伝えきれるとも思えないし、自分の中で規定したいとも思っていない。百合という要素を加点対象として認識するようにはなったが、その一点で作品を全肯定できる域には至っていない。百合なんて言葉を使うことすら本当は嫌だ。とても危ない。俺は未だアレにも触れていないし、お前が思うソレにも参加していない不全の身だ。

だがMEXICOでは常にそうであるように、機会という刺客がお前の準備を待って訪れることはない。やれなくても、やるしかない。拡散の果てに意味を失ったスラングを使うことのダサさは理解している。拳銃から手を離してほしい。こちらも丸腰ではない。

アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー(2019/06/20発刊)
"世界初の百合SFアンソロジー"と銘打たれ見事に大きな話題を作った短編集。第一線のSF作家が結集した「花束」である本作は百合SFという一貫性と作家色の多様性を併せ持ち、めちゃくちゃに面白い。百合を志した年にこの本が出版されたことは大きな幸運であり、もちろん世相を鑑みれば必然だった。小川一水『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ』の人間への信頼とエンタメ力、陸秋槎『色のない緑』の情景描写の濃淡と技術性、寂しさがとても好き。

デンデラ(映画版、2011、日本)
あらすじ:豪雪の姥捨て山に置き去りにされた一人の老婆。村のためと死を覚悟し受け入れていた老婆だったが、捨てられ生き延びた老婆たちの共同体「デンデラ」に救い出される。村への復讐を目論み弓矢の訓練を積む老婆たち。だがデンデラは羆の襲撃を受ける。
関係性を意識して多少の作品に触れながら今ひとつ掴みきれずにいた俺は、この映画にぶちのめされた。明らかに百合である本作をそうとも気付かずに見始め、観賞の最中にようやく「百合だこれ……」と知覚する有様だった。習熟した受け手であれば上記あらすじの時点で要素を汲み取ることは可能で、つまり俺は「百合=見た目から可愛い女性同士の物」というしょうもない先入観を全く捨てられていなかったのだ。なんという狭量、無知蒙昧、唐変木、クソ雑魚ゴミムシ。本作は俺の無能を気付かせてくれた。
集落を仕切る老婆・草笛光子、彼女と対立しながらも運命共同体として強く信頼する老婆・倍賞美津子(隻眼)、集落に連れ込まれた新参の老婆・浅丘ルリ子……その関係性全てを壊す、羆! 豪雪! でんでらー!
途中からとはいえ百合を検知できたと言うことは、神経に文脈が根付き始めたことに他ならない。俺にも百合を受け取ることができる。分かり始めている。その忘れがたい喜びがあった。そういうことを脇に置いても楽しい映画。

僕らのラブライブ!(同人誌即売会)
自明の理として、世界に存在する創作物は商業レーンに乗っている物が全てではない。note、pixiv、各種投稿サイト、古き良き個人サイト、あるいは自費出版される広義の同人作品。商業作品が創作者以外の目を通過して受け手に届くため一定のクオリティを保っている(とまずまず信頼される)のに対し、創作者から受け手に直接渡る同人作品には精錬されないが故の剥き出しの感性が顕れると言える。いわば自生の花。野趣。
同人には自由がある、などと安直に礼賛するわけではない。技術的な表現の幅、あらゆるリソースの制限はむしろ商業よりよほど厳しい。だがそうして生まれる玉石混淆の狂気が、本当に楽しいと思う。
rontorl氏による一連の漫画作品はポップでライトな友情を凄まじい画力で描く。二次創作としての言動エミュレート精度が高く、それでいて過剰なギャグ漫画としてハチャメチャ面白い。そもそも作品として面白くなければ意味がないこと、関係性とは強く過激なものが全てではないことを思い出させてくれる。

『機動戦艦ナデシコ』『モーレツ宇宙海賊』のアニメーション監督、佐藤竜雄もこう言っている。大切な視点だ。

ガールズ ラジオ デイズ(2018/10/30以降現在も展開中)
サブリミナル的に組み込んできた本作については次回以降で大きく扱うことになるが、今回も最後に触れておく。日本各地に実在するSA・PAから配信されるラジオ番組、という設定で配信される入り組んだ構造のボイスドラマ『ガルラジ』に、俺は延々とやられ続けている。コンテンツに触れた当初は手の込んだ実在の演出に惹かれたわけで、そこが最大の面白みであるという認識は今も変わらない。しかし13人(後に14人)5チームの女の子がラジオ番組を制作し、その人気を競うという物語は言うまでもなく……そういうことだ。

次回はアウトプット編。

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