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怪作霊能力バトル映画『来る』の話

全国3億人の霊能力バトルを愛する皆さんこんにちは。本稿は2018年12月7日公開映画『来る』の鑑賞をお前に勧めるものだ。ネタバレは一応避け無粋な考察なども書かないが、完璧に防ぐことなどできるはずがない。だからそういうのは各自で気をつけて欲しい。俺はお前が『来る』を観さえすればそれでいいのだから……。

とはいえ。怖いかどうかは個人の感覚としても、血が出たりいろいろ出たりするPG12作品なのであまり声高に薦める気はありません。気分が悪くなるのを我慢してまで観るような映画は存在しないのです。趣味に合えば、という程度のオススメであることは筆者が正気のうちに断っておきます。


映画『来る』公式サイト


連載漫画めいたリズムを掴め

『来る』は紛うことなき霊能力バトル映画だが、全編にわたって血沸き肉躍る戦いが描かれるほど無骨な作品ではない。半分くらいだ。では霊能力バトル以外には何が描かれているのか? それは親戚や家族、職場の人間関係、そこに生まれる愛や喜び、体裁と本音、妬み、苦しみといった感情と生活、虚無……そしてそれらすべてを踏みにじる超常的な暴力だ。

つまり本作を構成する場面は「超常的暴力にさらされる人々」もしくは「霊能力バトル」二種類のどちらかしかない。実際、本編の流れは――

A.「超常的暴力にさらされる人々」
⇒ B.「霊能力バトル」
 ⇒ C.「超常的暴力にさらされる人々」
  ⇒ D.「霊能力バトル」

――という繰り返しの構造になっている。この連載漫画めいたリズムを掴めるかどうかが本作を楽しむカギになるだろう。

霊能力バトル映画としての主役たち

『来る』は死力を尽くす人間の物語だ。物語にかかわる全員がとにかく何かに必死だからこそ迫力があり、「シュールな笑い」としても成立する。その上で『来る』の霊能力バトル映画部分を扱う本稿では、登場人物の一部だけを紹介しておく。霊能力バトルの主役たち、霊媒師だ。

比嘉真琴(小松菜奈)"キャバ嬢霊媒師" ピンクの人。能力は控えめだがフットワークが軽く実戦的。とてつもない根性とずば抜けた度胸があり、振る舞いは不器用だが人がいい。頼もしい。

比嘉琴子(松たか子)"日本最強の霊媒師" パンツスーツの人。比嘉真琴の姉。業界の大物であり日々大きな案件を対処しているためフットワークが重いが、とにかく強い。人脈が広く、根性もあるのでやるとなったら徹底的にやる。たまにお茶目。とても頼もしい。

逢坂セツ子(柴田理恵)"タレント霊媒師" 柴田理恵。肩書こそ胡乱だが語り口は優しく、すさまじい根性がある。アドバイスが的確でかなり頼もしい。

野崎和浩(岡田准一)"オカルトライター" 前髪が重い。霊媒師ではないが、ラウンドの始まりを告げるゴング……投げられる賽……黙示録に吹かれるラッパ……そのような流れを変える存在として現れる。悪ぶって登場するわりに人がいい。頼もしさは微妙。

沖縄から来た四人のユタ:結集した霊媒師の一組。何を言っているかはよく分からないが、たぶん人がよくきっと頼もしい。

祭器を持参した四人の神官:結集した霊媒師の一組。短い台詞に表れる強キャラ感がすごい。絶対に頼もしいし、強い人間は優しいのできっと人がいい。

他にもいろいろ、とにかくたくさんの霊媒師やら巫女やら専門家やらプロフェッショナルが無数に登場する。そして本編のクライマックス、お前はタガが外れた混沌を目撃することになる。

今は以上だ

オチには当然触れないし、映画の紹介記事でなにが『来る』のかなんて話をするほど筆者はあほではない。原作も買ったはいいが未読だ(追記:読みました。大筋は原作から外れませんが、中盤からかなり映画オリジナルの展開になります)。俺がお前に伝えたいのは、こんなキャラクターたちが繰り広げる霊能力バトルが今現在劇場で繰り広げられているという事実だけだ。観れるのに観ないというのは、ちょっともったいない映画なのだ。

もう一度書くが、血が出たりいろいろ出たりするPG12作品なので強くは薦めない。作品自体に露悪的な部分があり、「面白い」で片づけるには悪趣味すぎる話でもある。だがもしお前が、そういうのが大丈夫な人でエンターテイメントの外連味やパルプ感を面白がろうと作品に歩み寄れる人なら……きっと楽しめるはずだ。できれば、観るといい。

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