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会って話したい 君と

つぎはぎだらけの心が崩壊した。

展示には毎日在廊する、毎日おふろに入って、外に出るための形を整えて、BUMS(展示会場)でにこにこで過ごす。そう決めていたのに、5日目、金曜日、夜中からずっと泣いていて、ふるえが止まらなくて、くすりを多めに飲んで、4時間くらい寝て、泣きながら目が覚めて、またずっと泣いている。

展示に毎日行けたら、決まった時間に外に出て、決まった時間在廊して、にこにこお話ができたら、また「元」に戻れるんじゃないかって思っていた。

きょうお休みさせてもらうことにした。人前にでられる状態じゃない。ああ、わたしは「元」には戻れない。

展示している作品は、わたしの血と汗と涙といのちの結晶だ。

写真は、お金をかき集めてフィルムを買い、具合が悪い中外に写真を撮りに行き、行けないときは失われつづけるわたしの生活のようすを撮り、お金をかき集めてすきな写真屋さんに現像に出す。いとおしい一枚を、かがやかしい一枚を、何枚も選んだ。それを「貴族の遊びだ」と揶揄されるのがすごくくるしい。わたしはお金をかき集めてやっている。フィルムで撮る写真がすきだから。うつくしい瞬間を、心が動いた瞬間を、忘れたくないから。それは「貴族の遊び」なんだろうか。

映像は、ここ数年撮りためた動画を、パソコンが何度も止まりながら、ぶっ壊れながら、あたらしいパソコンを買いながら、いっしょうけんめい編集した。わたしが映っているカットがプロジェクタに投影されるたび、みていたひとが軒並み目を背けるのがおもしろかった。ああ、わたしは直視できない・みてられないいきものなのだと思った。じぶんがゴミに思えた。川と猫と妹が映っている映像ばかり使えばよかった。

音楽は、言葉にできない。
いちばんずっと近くにいてくれた。ぜんぶ大事な曲だ。一曲たりともどうでもいい曲など、惰性で作った曲などない。わたしには出したい音はない。でもすきな音ばかり入れた。きちんと役割のあるほしいフレーズを入れた。タイトルも歌詞もあいしている。すべてをあいしている。その音楽が蔑ろにされる瞬間を目にしてしまうと、ボコボコに殺される瞬間を目にしてしまうと、やりきれないきもちになるのだ。結局なにになりたいの?とか、むずかしいよねとか、上澄みだけぺろっと舐めて、良い曲ですね!とか、もうほんとうにしんどいのだ。どう思われても構わない。でもそれを言葉にされた瞬間、わたしは泣いてしまう。ノーミュージックノーライフという言葉はにがてだ。音楽なんかなくても生きていける。でも少なくともここ1年のわたしは、映画もドラマもラジオも本も摂取できなくなって、暗闇の中にいる、そんな中で唯一音楽だけはきけた、わたしにとって音楽は希望で、はかなくてはっきりした光源、そして北極星、あっちに向かっていけばいいんだとずっと心のつっかえぼうになってくれた。

物販は売れない。ポップを一生懸命書いたけどどこにどう貼っていいのかわからなくて貼れなかった。写真を買ってほしくてアルバム5冊分現像した。1枚も売れていないどころかアルバムを手に取ってくれてみてくれたひとすらいまだにいない。たぶん最終日までだれにも触れられることもなく、わたしがぜんぶ持って帰るのだろう。展示の目玉としてつくったZINEはお友だちが一冊買ってくれた。にがてなメールでのやりとりを何度も重ねて作ったロゴTシャツはきのうやっと一枚買ってもらえた。残りはわたしがぜんぶ持って帰るのだろう。せっせとうちへ持って帰る。

写真も映像編集も音楽もすきだ。グッズをあれこれ考えるのもすきだ。ぜんぶやりたい。ぜんぶやりたい。「結局なにになりたいの?」ときかれて、ああ、ぜんぶやりたいというきもちはどれだけ言葉を尽くしても理解してもらえないのだと思った。

とうとう耐えられなくなってお友だちに連絡したら1時間くらい電話で話をきいてくれた。解決方法をいくつも提案してくれたけどいまのわたしにできるものはなかった。ないと思った。「言いたいことはたくさんあるけどまたにするね」と言わせてしまった。電話の向こうでわたしにほとほとあきれられている気がして、それも勝手にしんどくなって、ごめんなさいごめんなさいもう大丈夫です、と一方的に電話を切ってしまった。心配してくれたであろうに、わたしはまた大事なお友だちを失ったかもしれない。もう近づくのがこわい。「また」がきませんように。もうわたしはあなたの言葉で勝手に傷つきたくない。地の底まで落ち込みたくない。

わたしにはもうなにもできない。申し訳ない。こんなクソゴミマインドの人間の展示にきてくれたひとも、土日にきてくれるひとも、場所を貸してくれたBUMSにも、申し訳ない。

すきなことを表現することならできると思った。心血注いで作った作品にふれてもらいたいと思った。それなら、いま、電車に乗れなくて、ねむれなくて、ひとのしゃべる声でパニックになって、めそめそ泣いているわたしでも、きっとできると思った。これしかできないと思った。でもできなかった。申し訳なさしかない。自信は消え失せた。ただただ消えたいきもちに支配されている。いつかこんなときがきたとき用に貯めているくすりの数は80錠くらいしかなくて、まだまだ足りない。

ここまで熱心に読んでくれるような奇特なひとはいないと思いますが、土日はちゃんと人間のフリをしてにこにこ過ごします。金曜日お休みしてごめんなさい。やりきれなくてごめんなさい。また残り2日がんばるぞ。がんばるぞ、がんばるぞ、がんばるぞ、

■閃きは彼方/カネコアヤノ

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