恋の病を科学する。恋に溺れる脳内ホルモンと神経伝達物質。
恋する日本語って美しいけれど、よく見たら字面が全部ヤバいですね。
恋とは、
対象を愛で、慈しみ、思い慕うこと。
そんなやさしい気持ちのはずなのに。コントロールできない高揚感、嫉妬や憎しみ、執着心までもが芽生えるのはなぜなのか。仕事も手につかないほどで、日常生活に支障をきたすことすらある。
夢だって分かってても起きられない悪夢みたいに、抜け出せない沼みたいに、心にあまりにも強力な作用をもたらしてくるのはどういうことなの?
もしかしてこれ、恋じゃなくて病気じゃない!?
はい、恋の病はもはや、疾患といってもさしつかえないのです。
恋している人の脳内では、報酬系がごりごりに働いていて、心拍数が上がり、判断力が低下し、他のものへの興味が削がれ、物事に対して正常な評価ができなくなっちゃう。
まさに恋は盲目。
生物的な本能。雌の猫が発情期に鳴いてフェロモンを撒き散らし、誘われた雄猫がやってくるように、人間も無意識のうちにそういう非言語的なコミュニケーションをとっている。
恋は、思考という理性的なものに基づいてるのではなく、情動という感覚的なものから始まります。感覚にあとから思考をくっつけてる感じですね。
わたしたちは、恋するきもちも含めて喜びや悲しみを「感情」と表現しますが、それは紐解けば実のところ【脳内ホルモン、神経伝達物質、自律神経、それに伴う身体活動の複雑な絡み合い】でもあるのです。
難しいことはわからないよぉ、奪われた心は返してもらいたいし、現実に戻りたいし、酔いをさまして、よく食べて眠りたいよぉ~~そんな迷える子羊たちよ、ぐるぐる悩んでいるのなら、少し脳の仕組みについて学んでみる?
\ メェ~~~~ /
人は恋をすると、脳内では様々なホルモンや神経伝達物質が分泌されます。その作用こそが恋のドキドキや切なさの正体。いわゆる脳内麻薬がドパドバ出て、一時的に知能が落ちます。
それなら、恋ってたーのしー!きもちいいーー!だけでいいじゃんね。
なんでわざわざやたらと不安になるんだろう、脳。アップダウンが激しすぎるよ。
それでは、恋愛に関わるホルモンや神経伝達物質について、耳にするであろう単語をさらっと説明していきましょう。
【ドーパミン】
脳の報酬系に関与し、情動、意欲、快楽などに関わる神経伝達物質です。手に入れたとき、報酬を得たとき、期待したときに分泌され、高揚感や達成感を与えてくれます。もっとも多く分泌されるのは、「もうちょっとで手に入りそうなとき」みたいなタイミング。
不足すると、意欲がなくなり、幸福感がなくなったりします。
一部の精神疾患において、幻覚・妄想にはドーパミンの過剰分泌が関与している、という仮説があったりもするので、分泌の過多/減少は本当に心身の疾患と関わっているわけですね。
【エンドルフィン】
多幸感、恍惚、鎮痛効果、ストレス解消、記憶力の増強などをもたらします。リラックスしているとき、心地よさを感じているとき、好きな音楽を聴いているときに分泌されるやつ。
負荷がかかったとき、苦しみや痛みを感じているときにも分泌されています。苦しみをやわらげよう、鎮痛しようとして出してるわけです。
ちなみに、ドーパミン×エンドルフィンが同時に分泌されると相乗効果を発揮します。ランナーズ・ハイもそのひとつで、得も言われぬ幸福感がもたらされているのでしょう。
【アドレナリン(エピネフリン)】
危険に直面したときに分泌される神経伝達物質です。交感神経を刺激し、心拍数や血圧を上げて身体を緊張させることで、身を守る。
「あっぶなっ!!」みたいなシチュエーションとか、寝てるときに地震でバッと目が覚めるとか、瞬発的に集中力や覚醒度が高まる感じ、分かりますよね。あれですね。ノルエピネフリンによって分泌が促進されます。
【ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)】
高揚感をもたらす興奮物質です。記憶を長期記憶として海馬に刻み付ける役割もしていて、分泌されすぎると、新しいことを覚えたり理性的な意思決定をすることが妨げられたりします。
眠れなくなったり、食欲が減退したりします。恋をすると女性はきれいになる、と言いますが、食欲がなくなって痩せたりしますからね。減少しすぎると今度は性欲が減退したり、落ち込んだりします。
【セロトニン】
幸せホルモン、なんて言われていますね。
恐怖などに関わる神経伝達物質のノルアドレナリンや、快楽に関わるドーパミンなどを「制御する役目」で、精神を安定させる働きがあります。男性のほうがいっぱい生産します。だから男は無駄に前向きなのかな。欠乏すると不安障害を引き起こしたりします。
【オキシトシン】
絆ホルモン、思いやりホルモンなどと称されます。
癒しを感じる。落ち着く。触れ合いや、ハグをしてるとき、誰かを助けたとき、ねぎらい、いたわっているときなどに分泌されます。落ち着いた幸福感を与えてくれるものです。ストレスを緩和する役割を担っており、不足すると不安になります。すーぐ不安になるよね。
【テストステロン】
いわゆる男性ホルモンですね。女性も少しは分泌しています。認識力の向上に関与し、不安がなくなり、やる気がわいてくる。この分泌が減ると、不安やイライラ、精力減退につながります。
男性が女性に比べてあまり不安にならないのは、テストステロンのおかげでもあるんでしょうね。筋トレはすべてを解決する、というのはあながち間違いでもない。
【フェニルエチルアミン】
向精神作用があり、緊張したとき、ドキドキしたときに分泌されます。
ドーパミンやノルアドレナリンの働きを上昇させます。
【バソプレシン】
何年か前に、ハタネズミの実験で「浮気防止ホルモン」として話題になりました。
バソプレシンの働きが盛んだと浮気をせず、決まったパートナーと行動を共にするようになる。逆に不十分だと、次々と相手を変える確率が高い、というものです。「一緒にいて楽しい」という記憶の生成に関わっているから、という説もあるのですが、このハタネズミの実験しか目につかないので、恋心との関係はまだまだ解明されていないようです。
そもそもパソプレシンは視床下部で作られて下垂体から分泌されるホルモンで、腎臓に到達し、体内への水分の再吸収を促す役割をしている「利尿ホルモン」なので……
尿と恋を司ってるのか??ってなりますね。
これを読むと、いかに脳と心と身体の機序が複雑に絡み合っているのか、なんとなく分かるのではないでしょうか。
迷える子羊が迷っているのは当然のことなのです。
とてもじゃないけれど、「不安にならないで」とか、「ほかのことを楽しもう」とかでは太刀打ちできない気がしますね。自力で制御できない脳内ホルモン、神経伝達物質、分かりやすく表現するなら、そのほとんどが……
多すぎるとハイになり、
不足するとだいたい不安になる。
我々にできることは、小手先のテクニックで脳を騙すことくらいしかありません。かの有名なつり橋効果を例にあげれば、好き……だからドキドキする、を疑似的に再現し、「ドキドキする!→じゃあ好きなんだ!」という、脳の騙されやすさを逆手に取ったテクニックとして存在しているわけですから、ヒーリング音楽を聴きましょうとか、辛い物や甘いものを食べて分泌させようとか、そういうちまちました戦い方をするしかないのです。
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