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簿記3級と不注意の26時間レポート

不注意は、山姥なんかよりずっと手ごわい。
山姥は三枚のお札があったら切り抜けられるし、豆にして食べちゃうこともできる。

不注意と共に過ごした26時間をお送りします。

◆試験開始時刻24h

1か月半勉強した簿記3級の、最後の仕上げが終わった。ソファに座って受験番号を確認したとき、とんでもないことに気が付いた。

持ち物「顔写真付きの本人確認証」

衝撃のあまり膝が崩れた。
だって、いいですか、驚いたんだ。自分に
わたしこの持ち物の欄を何回も見ているのに、今日までずっと「顔写真付き」をスルーしていたのだ。

うん、何回もこの受験票を見ている。
でも、ただ見ていただけなのかもしれない。とふと気が付く。目が見ていただけだったんだ。きっと。

受験票を見ていた時は、未収金と前受金のことしか考えられなかったし、0と00のボタンをどうしたら押し間違えないでいられるかの特訓ばかりしていた。
たしかに勉強は必死だった。

受験はすっぽり抜けたけど。

◆試験開始時刻20h

この世の終わりな時ほど、たぶんわたしは軽々しい。
出来るだけ軽くあっさりするように、起きてきた夫に白状した。

「おはよう!Uくん。わたし簿記、落ちたよ」
「え?試験、明日じゃなかった?」
「うん。。。顔写真付きの証明書が必要なの、、、
    今、知った、から…(ねっとり)」
「ああ、そういうこと」
(改めて文字にすると、このやり取りだけで全て察してくれる夫は本当にすごい)

「大丈夫じゃない?顔写真付きの証明書持ってない人なんてけっこういるんじゃない?」

Uくんはあっけらかんと笑いながら、いつものようにコーヒーを飲んだ。わたしはしばらく、そのぼさぼさ頭を見ていた。

◆試験開始時刻18h

落ち込んでいても簿記の勉強は楽しい。だからつらい。ペンだこが痛い。更につらい。
たまらなくなって夫に話しかけた。

「ねえUくん、あきれてる?」
「ぜんぜん、大丈夫だよ」
「そっか。わたしは、呆れてる」

つうつうと涙が出てくる。
「だいじょうぶだよ」と夫がまた言ってくれる。
大丈夫なもんか、とどこか思いながら、でももしかしたら、大丈夫かもしれないとも思った。
いまさら不注意になったわけじゃない。けど、ひとまずそれでも生きてこれたのを思い出したのだ。

「あほでも生きる」

よく考えなくても、成り代わり受験防止のために顔写真付き証明書が必要なのは、当然だ。
ペンだこが痛くてばんそうこうを2枚巻き、さらにシャーペンにもばんそうこうを巻き、3枚のばんそうこうに守られて山姥と(簿記)と戦ってきたけど、そこじゃなかったのだ。

ばんそうこうも大事だけど、もっと大事なことがある。でも、そんなこともうずっと知ってる。

つうっと出た涙をぐじぐじと拭いた。
それでも行こう。受験会場に行って聞こう。
もしダメでも、受けて帰ろう!
検定試験料は払っている!

簿記3級は、顔写写真付き本人確認証がなくても対処法がある。(2級以上はわからない)でもそのための救済措置を取ってくれる優しい商工会議所は、土日は開庁していない。気が付くべきリミットは昨日の16:59だったのだ。ただリミットを10時間以上オーバーする受験生でも、簿記を受験することだけはできる。

採点してもらえるかは、わからないけど。。。

◆試験開始時刻10h

試験会場に行くことを決めた。明日の用意として、とにかく使えるのではと思われるものをかき集める。

年金手帳とマイナンバーカードと通帳2つと雇用保険者証を、持っていこう。

もう今は落ち込んでる場合じゃない。もう簿記3級が今回受からなくてもダメであっても、明日の目標はもうそこじゃない。

このかき集めた個人情報の塊を、何があっても死守して持ち帰らねばならない。
明日だけは、置き忘れの定評は願い下げだ。
試験は家に帰るまでが試練なのだ。

◆試験開始時刻8h

寝ないといけないのに眠れない。ヨガをした。

◆試験開始時刻20m

試験会場でメロンパンスティックを数本もぐもぐしたら、落ち着いてきた。
もし駄目でも帰らずに受けよう。と、玉砕の覚悟で受付に相談したら、なんと受験できるのだそうだ。

よかった。
だけどもうこれまでの24時間で十分消耗しすぎて、受験できるのがうれしいのかどうかが、今まともにわからない。
いやよかったんだ。
今からは「受験資格がないとわかって絶望のあまり夕飯が作れなくなって寝つけなくて朝ごはんがのどを通らなかった」時間は、なかったことにしよう。

もうこの話は終わるかとお思いだろうか。
試験中までも不注意との戦いは続くのだ。

◆試験開始時刻+60分

なんとまさか解いたことのある問題ばかり出てきて、試験開始60分で解き終えた。とは言っても、最後の残高がすべてそろっても安心できないんだけどね。

貸方で50書き間違えて、借方で50計算間違いをすると、最期の残高はそろうのに不正解となる。

そんなミラクルはもう何度か起こしている。

◆試験開始時刻+80分

①計算ミス②書き写しミス③漢字ミスの、トリプルミスチェックが終わった。
終わるとなると途端に、他の人のことが気になりだしてウズウズしてくる。マズイ、止められない。部屋を出るしかない。

何もしないで座り続けることが出来ないだけなのを、カンニングだと思われたらマズイ。

せっかく得られた受験資格なのに。
それに一刻も早く家に帰りたい。
鞄の中のマズイもの(個人情報の塊)を、早く安全なところへ!!

早く!まだ人のいないうちに!

◆試験開始時刻+100分

無事に個人情報の塊を忘れずに持ち帰った。
解答速報を確認すると、少し心配だった箇所も大丈夫そうだ。「入」と「人」を間違えそうになった記憶があるから、たぶんわたしなら直している。直った後の文字を見た記憶は消えているけど、見た気はする。

ありがとう、右手のペンだこ。
ありがとう、夫、子ども。
ありがとう、応援してくれたみなさま。

簿記の勉強中には、憧れの経理職に就く自信は、見事にサラサラの砂つぶになった。よしんば取れたとする簿記3級が、どうにかできるような「不注意」じゃない。

不注意は、山姥なんかよりずっと手ごわい。
自分なんだけどさ。その手ごわいの。

わたしの不注意より、周りにいる人の方が、ずっとわたしに優しくしてくれる。あほでも生きようっておもえるほど。
こんな記事にタグをつけていいものか悩みますが、言葉は届けたいです。

ありがとうございました。励ましてくれて。