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折り紙600円いかがですか~の話

私が、フリースクールに勤めていたころ。
とても葛藤した、あるできごとがありました。

それは、小学3年生の男の子が
やりたいことをするための資金作りとして
お金稼ぎをしたいと言った話。

私は、もちろん「いいね!」と共感して
全力で応援することにしました。

「何を売るの??」と聞くと、彼は笑顔で「折り紙!」と言った。

(お、折り紙かぁ~~)
この時点で私の頭の中の常識がどんどん膨らんできていた。

「お、OK!!」 少し動揺しながらも、なんとかそう答えた。
折り紙の本を参考にしながら、意気揚々に折り紙を折り始める彼。

6つほどの作品ができた。一番複雑な作品は折り鶴だ。

さて、お金を稼ぐためには
これらをお客さんに買ってもらう必要がある。

決めなければいけないことは、とりあえずあと2つだ。

・どこで売るか ・いくらで売るか

「どこで売ろうか!」


私と彼はいつも遊んでいる大きな公園へ行くことにした。
この日は、祝日。人はたくさんいた。

「この辺りにしよう…」

彼は、少しシャイな性格だ。
折り紙を折っていたときの意気揚々な笑顔は
大勢の人を目の前に少しばかり消えていた。

悩んだ様子で、結局は彼は
1番人通りが多い場所から
少し離れた場所に拠点を構えることを選んだ。

お弁当箱包みの布を敷いて、その上に作品を並べる。

いくらで売るかは、この時点でまだ決めていなかった。
私は、内心ドキドキしてた。

彼のやりたいことの必要資金は
1000円以上必要だということは知っていたからだ。

紙(値札用)とペンを取り出し
いよいよ彼は値段を書き始めた。

300円、500円、600円…

(この時点で、私の心のドキドキはピークに達した。
少なくとも初めて好きな子に告白したときよりもだ)


(ろ、ろっぴゃくえん!!!)

驚きを隠しつつ、私は彼の選択を尊重することにした。

「これくらいでいいか~」

彼は値札を書いて、笑顔になっていた。
おそらく、すでに売れたような気持ちになっていたのだろう。

彼の人生初めての商売が始まった。

これも彼の成長のためだ!
じろじろ見られることに決して屈してはいけない。

子どもではなく、こういったシチュエーションでは
大人の私のほうが好奇な視線を浴びることを学んだ。

彼はとりわけ「いかがですか~」とかいう
声掛けはしない。

なるほど。職人のように待つスタイルだね。

何分経っただろうか。
私の体感としては、数時間ぐらい
その場にいたような気持ちだった。

彼は、目の前を過ぎていくだけの人たちを見て
この商売を半ばあきらめかけていた。


しばらくして、1人のおばさんが近づいてきた。

(お!買ってくれるのか!?)

何を話すわけでもなく、じろりと折り紙と値札を見る。

私と彼に、緊張感が走る。

「商売は甘くみたアカンで~」

ほほえみながら、そう言って立ち去っていった…
なんとも大阪のおばちゃんらしいひとこと…

私は苦笑いするしかなかった。

このひとことをきっかけに、彼は
「もう帰ろう」
寂し気につぶやいた。

「なんで1つも売れなかったんだろうなぁ~?」

私は、帰り道、振り返りの意味を込めて彼に聞いた。

「ん~~、場所が悪かったんだろうなぁ~」

!!!

「そっか!!!つ、次は、場所を変えてやってみような!」

(ば、ばしょかぁー!価格設定の話は、ぐっとこらえて私はそう言った)

子どもの成長に立ち会う際には
ときに、大きな試練が訪れるものだ。


mk

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