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悲しいかな、忖度ビール

1年間のイギリスでの大学院留学で見事にクラフトビール文化にはまり、修士論文もクラフトビールのマーケティングについて書きました。そんな自分が楽しみにしていたのは、日本に帰国してから日本のクラフトビールを味わうことでした。

しかし、仕事に復帰し1週間が経過しましたが、初日からフルスロットルで想像以上の忙しさ。まだ、ゆっくり日本のクラフトビールを楽しむことが出来ていません。そんな中、近所の酒屋さん売っていたKIRINさんの『GRAND KIRIN IPA』を飲んでみました。

自分はビール評論家でもなければ、舌に特別自信があるタイプでもありません。ただ、この1年で300種類以上のクラフトビールをイギリスで飲んできた経験を有するという自負だけはあります。そんな自分のあくまで個人的な感想ですが、正直、ガッカリでした。一口飲んだ時、少し苦味は感じたけれど、同時にマイルドでもあり肝心のホップはあまり感じられませんでした。IPAとは書いてあるけれど、アメリカやイギリスのIPAで感じた「ガツンと重いパンチ」のような強い香りとはほど遠いものでした。

自分がクラフトビールにはまった時も、周囲の友人にクラフトビールを飲ませた時も、ほとんどの場合の第一声は「え?これってビールなの!?」です。良くも悪くも(幸い今のところ全て良い方向ですが)「今まで飲んできたビールと全然ちがう」ことがクラフトビールのファーストインパクトです。なのですが、このグランドキリンIPAは、今まで飲んできた「いつもの」ビールがまずしっかりとあって、それよりも少し飲み口が苦め、少しホップの香りが強め、辛み・キレが弱め程度で「普通のビール」なんです。驚きが全然ないんです。

がっかりしたけど、納得もできます。結局、大手のキリンさんが出すからには大きな売り上げも確保しなくちゃいけないから冒険はできない。最大公約数からはみ出さずに、流行りの「クラフト」「IPA」なんて言葉をチラつかせた、いわゆる大企業の「忖度ビール」と自分は結論づけました。忖度ビールだと思うといろいろ合点がいきます。

例えば、大手ビールメイカーであるキリンが作っているビールを「クラフトビール 」と呼んで良いのか?というのは業界で世界的に議論されている大きなテーマの1つです。アメリカやイギリスのクラフトビール協会の規定では、味や手法がどうあれ大手メーカーが作っていては「クラフトビール」と呼ぶことはできません。そこで「KIRIN'S CRAFTMANSHIP」と「クラフト風」を表現することにとどめています。宣伝文句として「クラフト」とは言いたいでしょうから。しかし、これが本当にキリンの職人わざ(craftmanship)だとしたら残念です。

また、商品名の下には「ホップ愛香るインディア・ペールエール」とあります。よく意味が分からないことないですか?細かいこと気にしすぎなのは、クラフトビールへの強い愛と、広告業界出身の癖ゆえにご容赦ください。まず「愛香る」と言う日本語があるのかと思って検索しましたがなさそうです。これはおそらく「ホップ愛、香る」という区切りだと思います。そう「ホップが香る」わけじゃないんです。「ホップ愛が香る」んです。キリンさんの「ホップへの愛情」の香り、どんな香りか分かりませんが「ホップの香り」とは残念ながら別もののようです。商品パッケージもホップのイラスト満載でホップを推している風ですが「ホップ愛」です。

あまり人様を攻撃するようなnoteばかり書くのはどうかと思いますが、これに関しては結構ショックだったので言っておきたく書きました。例えば「クラフトビール」って流行ってるんだ?とどこかで耳にした方が、もっと言えばこの「クラフトビール天国」を読んで「飲んでみたい」と思った方が、簡単に手に入るからとコンビニの棚に並ぶこの商品を飲んで「あ、クラフトビールってこういうことか」と思われたら、それはクラフトビールにとって大きな損失だと思うのです。ちなみに「IPA」という種類も(苦味とホップの香りがガツンと効いたビール)、昨今のクラフトビールブームの中心的存在で、自分もいちばん好きな種類です。

自分は思うのです。日本の大手ビールメイカーの開発力、技術力、設備は素晴らしい。だから、彼らが本気で売り上げやコストや大量生産なんて気にしなくて良いからと本気で取り組んだら、きっと素晴らしいビールができると。問題は商品開発の部分ではなく、経営やマーケティング側にあると思っています。「忖度」ってホントなんか悲しいワードですよね。

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