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クリエイティブx 経営の話① -なぜCDがMBAを取得したのか-

<「クリエイティブ」x「ビジネス」を駆使した事業成長支援>をドメインに日々クライアントさんの事業成長をお手伝いしているクリエーティブ・ディレクター(CD)の北尾です。

昨日、このようなwebinarに登壇させていただきました。タイトルは「クリエイティブ経営2023」。普段のwebinarに比べてもたくさんの方が視聴くださったそうで、この分野への関心の高さが伺われます。

講演や登壇は機会をいただければ極力、受けるようにしていますが、今回のテーマの「クリエイティブ経営」には、当初、少し困りました。自分の事業ドメインでもあり困っている場合ではないのですが、人前で喋るからには意義のあるものにしなくてはなりません。でも「クリエイティブ経営」って実際なんだろう?と問われると、核心すぎて逆にうまく言語化することができていませんでした。

セミナーでは、「クリエイティブとは課題解決」のための思考法である。その思考法を経営に取り入れることが「クリエイティブ経営」。その実践においては、傑出した才能を持った個人が社内に存在する場合は良いが、多くのケースにおいては外部に信頼できるパートナーを見つけ伴走していくことであると結論づけました。

今回の投稿①では、なぜ自分がこの「クリエイティブ」x「ビジネス」というドメインに至ったのかの話を。次回の投稿②では、「クリエイティブ経営」をなぜこのような結論に至ったのかの話をという形で、長くなりそうなので2回に分けてお話しします。

社長としか仕事しないCD

実際に「クリエイティブ」x「ビジネス」を自分のドメインとして仕事をしているのはこの5年くらいの話です。まずは、そこに行き着くまでの話から。

新卒で電通に入社し、クリエイティブ局に配属。それ以来、来る日も来る日もひたすらCMを作り続けてきました。中でも圧倒的に多くの時間をさき自分の20代30代前半をほぼ捧げたクライアントさんが、任天堂さんでした。

長く担当していたこともあり、恵まれたことにゲームのCMを作るだけでなく社長と接して仕事をする機会が多くありました。当時の任天堂の社長は、岩田聡さん。はじめて接した社長があまりに偉大な方だったこともあり、社長という存在に魅了されました。しかし、残念なことに岩田さんは在職中にお亡くなりになられてしまいました。どんなに素敵な方だったかは是非、こちらの本をご覧ください。

自分が電通の任天堂担当のメイン・クリエイターとなったのは岩田さんが社長に就任される直前で、岩田さんの社長在職期間=自分の任天堂担当期間とほぼ同じだったこともあり、自分もそのタイミングで任天堂担当を外れることを決めました。

当時、いろいろあって任天堂さんの仕事をフルスイングでやるために子会社に転籍していたので、電通本社に戻ることにもなりました。すると、電通は「戻ってきたら何をしたいんだ?」と自分のやりたいことを聞いてくれました。「次のステップ、何をやりたいんだろう?」と思案すると出てくるのは岩田さんとの仕事の場面。「社長とのみ仕事をするCDというポジションはないでしょうか?」と聞いてみると、懐の広い電通さん「ないけど、面白そうだから作ってあげよう」ということで復籍を果たしました。

ちょうどタイミングよくスタートアップ企業が、調達した資金をTVCMなどのマス広告に積極的に使い始めた時期と重なり、スタートアップ企業であれば規模も小さくマーケティングの専任がいないことも多く社長と直接やれるし、機動性が求められるからピッタリだろうということで、1発目に作ったビズリーチさんのCMがうまく行ったこともありスタートアップ担当のような形にスポッとおさまりました。

クリエイティブとの訣別

次々とスタートアップ企業や、はじめてCMを打つ中小企業の仕事が決まり、約束通り「社長と直接仕事をするCD」のポジションを確立することができました。やっぱり社長はおもしろいなと思う反面で、不満もありました。

この頃の自分のドメインは、あたりまえですが完全に「クリエイティブ」です。クリエーティブ局に所属しているので「CMを作りたい」という依頼が営業入ってはじめて営業経由でお座敷に呼ばれます。本当は「CMをやるべきだろうか?」「他の手段はないか?」「やるならいつだろうか?」みたいなところから社長と議論したいのに、CMを作ることが決定した段階にしか呼ばれないのです。

この現状を打破したいと悩む中で、ふと名刺交換をした方の肩書きにMBAと言う記載がありました。ここでの発見は「MBAって名刺に書いて良いんだ!?」でした。自分の名刺にCDとMBAが両方書いてあれば、制作の話の前段階にも読んでもらえるのではなかろうか?と考えたのです。

思い立ったら即実行。MBA合格に必要なのは、英語力の証明と志望理由のエッセイと面接です。社会人になって以来まったく疎遠になっていた英語の勉強は相当タフでしたが、受験勉強を開始しました。はじめた当初は、行き詰まった状況を打破するためにMBAという肩書きが欲しかっただけで、さほどビジネスを学ぶことに興味があった訳ではありません。

しかし、それまで18年間クリエイティブしかやってこなかったこともあり、勉強していく中で、未知のあたらしい分野の知識にふれることがどんどん楽しくなっていきます。無事に合格する頃には「ビジネスを勉強したい!」「クリエイティブはもう卒業」と言うマインドになっていました。

「ビジネス」を勉強しにやって来ました!という感じを出すために、渡英する直前には髪を真っ黒に染め、授業初日はスーツを着て登校しました。クラスメイトへは、クリエイティブをやっていたことをやんわりと隠し、広告代理店に勤務していましたと、さもメディア戦略を考えたりメディアを売ってきた人かのような自己紹介しました。「ビジネス」を勉強したいのに「クリエイティブ」は邪魔だと考えたのです。

なつかしのかっこいいビジネススクールの校舎

クリエイティビティがなんだって?

大学院がはじまって最初の1週間はオリエンテーション。これからはじまる秋学期の4ヶ月にどういうことを勉強するのか、各科目の教授が概要を説明してくれます。

ここでいきなり面食らいます。イギリスのMBAにはイギリス人だけでなくヨーロッパを中心に世界中から先生が集まって来ているので、英語の発音も多種多様。ただでさえ不得意な英語なのに、さらに人それぞれ癖があって何の話をしているのかよく分からない。

必死にくらいついて、先生たちの発した言葉の中で聞き取れた単語や文章の断片をメモしていると、なぜか彼らが一様に"creativity"という単語を連発していることに気が付くのです。マーケティングや経営戦略だけでなく、経済学、統計学、リーダーシップや組織行動論まで、途中でどっきりか!?と笑ってしまうくらいにありとあらゆる教科で教授たちが"creativity"という単語を発していたのです。

ここで悔しくも残念なのが、英語力。creativityという単語は聴き取れても、なんとなくそれが大事だという文脈で話しているっぽい気配はあるが、本当にそうなのか、話の全体像がふんわりとしか分からない。なんで突然、creativityの話題になったんだろうか?など、なんだか悶々とした状態で1週間を過ごし、迎えた初週の最終日。勇気を出してMBAのdirectorに面談のアポを取り、部屋を訪ねてみました。

クリエイティブとビジネスの両立だ!

あらゆる教科の先生がオリエンテーションでcreativityの話をしているはなぜなのか?英語力の問題で理解しきれていないが、自分に何か活かせることはあるのか?と聞きました。入試の際の面接担当でもあるdirectorは、笑って言いました。これからの世の中、あらゆる分野でcreativityが大事だからに決まっているだろう。だからオマエみたいなCreative Directorを合格させたんだよと。

ガガガガーーーン!こんなことは人生でも初めてかも知れません。「漫画かっ!?」というくらいに脳天に稲妻が直撃し体が痺れました。

「これだ!!」と脳の回路が繋がったのが見えました。18年間やってきたクリエイティブを捨てる必要はない、クリエイティブとビジネスを2刀流でかけ合わせれば、それが自分の武器になるんだ!と。

その後、ゆっくりと分かりやすい英語でじっくりと話をしてくれました。曰く、今後のビジネスにおける障壁は2つある。1つ目がcommoditisation。日本語でもそのまま「コモディティ化」だ。人々の生活が豊かになりAIも機能していく中、どんどんサービスやプロダクトが均質化していき競合他社との差別化がむずかしくなっていく。そこで差を生みだすのがクリエイティビティだと。さらに重要なのがと教えてくれた2つ目がVUCAだ。その後、日本でも「VUCAの時代」というワードを頻繁に聞くようになったが、自分はこの時はじめて知った言葉だった。

VUCAとはVolatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字を並べた言葉で、要するに現代の社会やビジネスでは、この先に何が起きるのか未来を予測することが困難であるということだ。そして、突然やってくる巨大な困難を解決できるのは優れたクリエイティビティ以外にないという話だった。

1on1でのこの講義は、1年間の留学生活でのハイライトとも言える最高の時間でした。英語力の不安で、授業についていけるんだろうか?と凹んでいるところに、大きな勇気をもらいました。クリエイティブとビジネスの両立というもらったばかりのキーワードを胸に足取り軽く教授の部屋を出て、週末には地元の美容室に飛び込み、髪を真っ赤に染めました。

薬剤が違うのか発色がすごかったです

クリエイティブ x ビジネスの原体験

翌週から真っ赤な髪にパーカーで登校すると、いろいろなことが変わり始めました。クラスメイトたちはみんなビジネスのエリート、自分だけ出自がちがうけど、みんなでいっしょのことを学び議論する。

正直、英語力の壁はあったので、あたらしい発想で議論をリードできていたかどうかは怪しい。それでも、例えばプレゼンのスライドが圧倒的に見やすく分かりやすいとか、リサーチプロジェクトではプレゼンせずに、インタビューを撮影・編集した映像を作って流したり、マーケティングの課題ではキャッチコピーとビジュアルを考えて、広告ポスターのアウトプットイメージまで作ったりと、異彩を放った。

そうすることで、グループワークでは優秀な生徒たちがみんな自分と組みたがってくれ、ちょっとしたモテモテ状態になった。自分の役割と立ち位置が明確に見え、今へと続く原体験となりました。

1/100のかけ合わせ

留学から帰国すると、興味の幅がどんどん広がり、ベンチャーキャピタル(VC)に転職しました。起業家の責任の一部をリスクを背負って担ぐ投資という仕事に惹かれたことが転職のいちばんの理由だけれど、計算もありました。

よく100人に1人が持っている程度のスキルや能力であっても、それを2つかけ合わせれば10000人に1人に、3つかけ合わせれば100万人に1人の希少人材になれるよと言う話があります。

クリエイティブが出来て、ビジネスがわかって、投資もわかれば、まったくの独自のポジションを築けると考えたのです。実際にCDでMBAを取得している人は周囲に聞いたことはないし、その上でVC経験がある人は、ググった範囲内では世界中にまだ自分以外に観測できていません。もちろん、ビジネスや投資の部分では「プロ」と言えるレベルではまったくなく、クリエイティブという自信のある地盤があった上の掛け算であることは理解しているので過信はしないようにしています。

そうは言っても、今回のwebinarがこれだけ好評で「クリエイティブ経営」が今後もっと注目を集めていく分野だとすると、「クリエイティブ」x「ビジネス」を標榜するプレイヤーはクリエイティブサイドからも、また、ビジネスサイドからもおそらく今後どんどん出てくるでしょう。その中で切磋琢磨することは大前提ですが、自分はまたそれとは違う何かをかけ合わせて独自のポジションを築けたらなと、あたらしいことにも手を出しています。そんな話は、また別の機会に。

次回は、こんな経緯で「クリエイティブ」x「ビジネス」をドメインとすることになった自分が思う「クリエイティブ経営」についての話をしたいと思います。

お仕事のご依頼以外にも、気になることなどあればお気軽にご連絡ください。


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