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◤作業療法士◢ 「ありがとう」の言葉の重み。[#57]

新卒から丸9年。職場は変われど、作業療法という仕事に従事してきた。
そして、一旦仕事を離れて振り返ると、あんなにも「ありがとう」を言うことも、また、言われる場所はないのではないか、と自慢したくなった。

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以前の勤め先は、挨拶を重んじる職場だった。
朝の挨拶はもちろん、廊下ですれ違えば「お疲れ様です」、何かしていただいたら「ありがとうございます」(これは挨拶というより、お礼だけれど)。
挨拶をされて嫌な気分になる人は(おそらく)いないし、もし返されなくても何も失うものはない。そして、なによりタダ。何回やっても無料。

挨拶は職員同士だけでなく、職員と患者様とも交わされる。
約50名が入院している病棟。基本的には毎日全員離床することになっているので、50名の患者様と顔を合わせることになる。
送迎中にすれ違えば「おはようございます」、「こんにちは」、「お疲れ様でした」。
一日何度も顔を合わせても、合わせる度に挨拶を交わす。

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たくさん交わされる言葉のなかで、わたしが一番すきな言葉は「ありがとうございます」。
特に患者様から言われる「ありがとう」は、重みが違った。

リハビリの時間は、患者様にとって“身体を治す”時間ではあるけれど、わたしはそれだけに留めないように意識していた。
患者様に“楽しい時間”を提供しようと努めていた。

予期せぬ入院生活。コロナ禍で面会制限中。
高齢者は携帯電話を持っていないことも多く、家族様と会ったり声を聞く機会さえもない。
毎日顔を合わすのは、医師や看護師、セラピストである。

娯楽も少なく、ただただ過ぎていく毎日の、ほんの1時間だけでも患者様にとって「楽しい」と思っていただきたかった。
「この時間があるから、まだ頑張れる」。わたしの勝手かもしれないが、そんな風にモチベーションアップできる関わりをしていた。

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患者様は、毎日のリハビリでも退院の時も必ず「ありがとう」を言って帰っていかれる。
こんな若造の手を握りながら、泣いてお礼を言ってくださる方もいる。

「いろいろ話せてよかった。楽しかった。ありがとう」
この言葉を聞くと、「わたしのやってきたことは間違っていなかった」と、自分を認めてあげられた。

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「ありがとう」の言葉を掛けられるたび、わたしは原点に立ち返る。
自分は患者様の「ありがとう」に見合う仕事が出来ていたのか。毎日100%向き合っていただろうか。
その言葉はお礼と共に「初心を忘れないように」という喝と受け取っている。

こちらこそ「ありがとうございます」。

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