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スマホは聞いている【ショートショート】

彼女の明美と・・・というより、すでに籍は入れているので、妻の明美と来月に控えている結婚式の準備のために出かけていた。

「それでさぁ、お歳暮でもらったイクラがめちゃめちゃ美味しそうでさ~」
「へ~」

「500グラムってこんなに少ないの?って感じで、100グラムずつ5パックに分けられてたから家族4人で分けて、余った100グラムをジャンケンってことにしたの」

「へ~、それで誰が勝ったの?」
「それがさ~、みんな最初は美味しい美味しいって食べてたんだけど、途中から気持ち悪くなっちゃって」

「そうなの?」
「余った100グラム誰もいらないって」

「え~、もったいない!」
「だから、貴史にあげるよ」

「え?いいの?」
「みんなしばらくイクラ見たくないって」

「そこまでなる?」
「濃厚すぎて意外と食べれないもんだよ」

明美の実家の前に車を停めた。

「持ってくるから待ってて」
「うん、ありがと」

明美の家は決して裕福ではない。父親が仕事に恵まれなくて、幼い頃から厳しい生活をしていたと聞いた。
自分だって急にリストラされる可能性だってある。
その時自分に何が出来るだろうか。

式が近付くにつれ、今まで感じたことのないプレッシャーと不安を感じていた。

「はい、どうぞ。もう解凍してあるから、今日中に食べてね」
「やった、ありがとう」

「また明日ね」
「まだ準備が残ってるから、頑張ろうな」
「うん」

手を振る明美をバックミラーで確認して帰った。

帰る道中、これから先何十年と仕事を続けることが出来るか、また不安になった。
明美の父のように、転職を繰り返すことになっても、頑張ることが出来るのか。
その時、子供がいたら養っていけるのか・・・・

「はぁ~、とりあえず今の仕事を頑張るしかねえな。もし首になったら銀行強盗でもするか~」

貴史は自分のアパートに帰ると、明美からもらったイクラを眺めた。

「これで100グラムか、余裕で食べれそうだけど」

シャワーを浴びてから食べようと思い、冷蔵庫に入れた。
スマホに充電のケーブルを差し込み、何気にロックを解除すると、通販の広告が出ていた。

「・・・イクラ?・・・1万円!?500グラムで?たかっ!」

同等品だと、明美にもらった100グラムは2000円になる。

「いいやつは高いんだな~、ますます楽しみだ」

滅多に食べることのない高級イクラを楽しみにしながらシャワーを浴びた。


濡れた髪をタオルで拭きながらスマホを見ると、また違う記事が出ていた。

「銀行強盗・・・捕まる・・・?」

よく見ると外国の、しかも10年以上前の記事だった。

「なんだこれ・・・!?」

続けて見ると、他にも銀行強盗関連の記事がたくさん表示されていた。

気持ち悪く思って、YouTubeを開いて見ると、そこにも銀行強盗を取り上げた動画や、銀行強盗をネタにした芸人のコント動画などが出てきた。

まるで、

銀行強盗について何度も検索して、それに紐付いて出ているようだった。

貴史は、ふと友人に聞いた話を思い出した。

*****

「俺の後輩が飲酒運転で捕まったんだけどさ」
「そうなんだ」

「それが、普段飲まない奴だったんだよ」
「たまたま飲んだ時に限ってか?」

「もらった焼酎がもったいないからって飲んで、2時間くらいして数百メートル先のコンビニに運転して行ったんだって」
「それはダメだろ」

「でもな、まるで待ち受けてたように警察がいて、普段警察どころか人通りもない道路で捕まったんだって」
「そりゃ運が悪かったな」

「そいつが言うには、誰かが警察に漏らしたんじゃないかって・・・」
「誰かって?」

「・・・スマホ・・・だって」
「スマホ?」

「ああ、一人暮らしだし、そいつが酒を飲んでることはスマホしか知らないって」
「そんなバカなことあるか?」

「でもさ、何も検索してないような話の関連記事が突然出てくることってないか?」
「たまたまだろ」

「実は、すべてのスマホにそういう機能が付いてて、AIが管理して通報してたりとか・・・」
「そんな都市伝説みたいなの・・・」

「まあ、スマホの前で、変なワードは言わないことだな」


*****

変なワード・・・

銀行強盗・・・

たしかに車の中で言った。

それを聞いていたのは、

スマホだけだ・・・

今スマホに出ている関連記事や動画は、車の中で呟いた独り言に反応しているとしか思えない。

YouTubeを見ていると、他にもイクラの大食い動画なども混ざって出てきた。

「・・・そんな・・・まさか・・・」

銀行強盗同様、イクラという文字を打ったこともない。
まさか、明美と話していた内容を・・・

ブ、ブ、ブ、

明美から電話がかかってきた。

「ああ、明美か・・・」
『貴史?まだイクラ食べてないんでしょ?』

「シャワー浴びてから食べようと思って」
『解凍してるし、今日中に食べないと、明日になったら美味しくないからね』

「わかったよ。食べたら感想の電話するよ」
『それはいいから、明日も仕事なんだから早く寝ないとダメだよ』

「はいはい」

ピンポーン

「!?・・・誰?」

電話を切ったと同時にインターホンが鳴った。

ドンドンドン
○○署の者です
いませんか~?
ドンドンドン

「警察!?」

本当に・・・
スマホが・・・?

チュィーーンチュインチュイン

「ちょちょちょ、ちょっと!?」

玄関の扉を、サンダーでこじ開けようとしている。

「ちょっと待って!?銀行強盗なんかしないから!!」

チュイーーン
ガリガリガリ
バンッ

「入るぞ!!」
複数の警察が土足のまま入ってくる。

貴史はその場に座りこんで必死に訴えた。

「僕銀行強盗なんかしませんから!出来る訳ないじゃないですか!!ごめんなさいっ!絶対しません!」

警察達は叫ぶ貴史を無視して台所に向かった。

「ありました!イクラ確保!」
「よ~し、鑑識に回せ!」
「え?え?イクラ?」

警察は半泣き状態の貴史に、ビニール袋に入れたイクラを見せながら話しかけた。

「突然すみません。このイクラに毒物が入っている可能性がありますので回収させていただきます。食べる前で良かったです」
「毒物?イクラに?」
「はい。玄関の補修は後程手配させていただきます。よし!引き上げるぞ」
「ちょっと待ってください!どうしてそんなことが分かったんですか?」

警察は質問に応えず、軽く礼をして帰った。

貴史は明美の言葉を思い出した。

(まだイクラ食べてないんでしょ?)

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