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大規模怪異発生日記3

主な登場人物


万禮ばんらい久幸ひさゆきヒー、始祖:
かど凌司りゅうしのバンパイアにおける直系始祖。
かど凌司りゅうし、りゅーし:
万禮ばんらい久幸ひさゆきのバンパイアにおける直系係累。
左から
大空ひろたか久幸ひさゆきの実兄スカイの伴侶。鳥人。
千夜ゆきやす久幸ひさゆきの兄の子孫。久実ひさのりの母方の祖父。
久実ひさのり久幸ひさゆきの兄の子孫だが、
ヒューマン社会には久幸ひさゆきと共に
二卵性双生児と偽って生活している。 千夜ゆきやすの孫。
左から 西田にしだ絵理香えりか凌司りゅうしの元妻。朗正あきまさ華代かよの生母。
朗正あきまさ凌司りゅうし絵理香えりかの子。母と同居。
華代かよ凌司りゅうし絵理香えりかの子。幼少時に父方祖母の養子となる。
左から
ラン:久幸ひさゆきの友人。凌司りゅうしの恩人。
トゥ、師匠:久幸ひさゆきの友人。凌司りゅうしの魔術の師。
泰市たいち:ランとトゥの伴侶猫。

話中の万禮一家は、
メンバーシップ「夢了の皿」会員の万禮様のオリジナル・キャラクターで
設定その他は会員様御本人と話し合っております。
711号室出演者≒メンバーシップ会員様は常時募集中です♡

万禮様の偶さか日記も併せてお読みいただくと解像度とエモさが跳満です。


向き不向き


暗夜迷宮日記スクショ 第三更新分
20230308~20230305
テキストは以下


20230305

戦闘関連は私には向いてないかもしれない。
とうとう本日
精神感応念話は泳ぎながらでも
始祖になら返事できるようになったが、
桔梗院の戦闘訓練は丸きり駄目だった。
ヒーラーもタンクもアタッカーも駄目だった。
始祖は今回システムの様子が違うようだから
気にするなと言ってくれたが、
此処まで訓練ごときでボロボロになると
意欲が削がれる。
暫く休んで心機一転を図ろう。
ん?
そういえばバンパイアとして目覚めてから
休日らしい過ごし方をした日がなかったな。
明日は丸一日
呪符とも訓練とも離れて過ごしてみよう。

20230306

異界め、
どうせなら花粉も排斥してくれれば良いものを。
始祖の血の結界の外に出た途端に、
目の痒みに襲われて踵を返した。
不幸中の幸い、
マスクと点鼻薬は仕事してくれていたので
鼻炎は起きなかったが、
昨秋まで神業とも呼べる効果を発揮していた
抗アレルギー点眼薬が効いておらず、
始祖に場所を訊いて、
私は花粉対策眼鏡を掛けて走り、
バンパイア専門病院へ飛び込んだ。
古びた重厚な扉の内へ飛び込んだ瞬間に
究極の選択を迫られた。
目玉を取り出して束子で洗いたい衝動と戦いつつ
鼻を誤魔化すナニカを探しに行くか、
ひたすら悪臭に耐えるか。
臭い。
強烈な獣臭。
魔鳥肉を上回る獣臭。
いっそ鼻炎であった方が余程マシだったと
泣きそうな心持ちで外へ出ると、
先日の講師バンパイアが
私の名を連呼している精神感応を感知した。

…oO(ーん! リューシくーん! 
かどりゅーしくーん! きこえるかー!

扉の上部に設えてあった看板を確認して、
講師バンパイア、タケシさんの姿を思い浮かべて
精神感応で返事を試みる。

…oO(タケシさん、聞こえました。
圭凌司は此処です、病院の北東入口です。

「ああ、良かった。
すごいやん、返事できるようになったんやな! 
あかんあかん、コレやコレ。
中、クッサイやろ? 
大概みんな完全な肉食になってもうとるから
体臭キッツイんよな。
自分の嗅覚も鋭なっとるしな。このマスクしとき」

今背を向けたばかりの扉と私の間に現れた
タケシさんに差し出された
何の変哲もなさそうな
カーキ色のウレタンマスクを鼻に宛てがうと、
何の匂いもしないのに呼吸がすうっと深くなった。
恐る恐る再び魔境の扉をくぐる。
此度は嘘のように清潔な
病院らしい匂いだけがマスクをすり抜けた。

…oO(タケシさん、ありがとうございます。
普通の病院の匂いになりました。

…oO(うん、良かった良かった。ほな、またな。

私がお辞儀しようと振り向いた時には既に彼の姿は無かった。
疾風のように現れて疾風のように去っていくという
古い歌が脳裏に流れた。
なんの歌だったかは思い出せないが、
ヒーローの主題歌には違いなかろう。
有り難い。

「はい、圭凌司さんお待たせしました。
お、良いマスクしてるね。
それが必要になったって事は
知覚がまた更に鋭敏になったって事だね。
あと、花粉症?」

「はい、その通りです」

「じゃ、目玉洗おうね。
鼻炎は大丈夫そうだね……
うーん、でも何時までもつか分からないから
一応飲み薬出しとくね。
耳からもアレルゲンって入ってくるからね、
抗アレルギーに関しては飲んだ方が効率良いんだ。
長くても一年くらいかなぁ、
したら自律神経が慣れて
人間用の薬がまた効くようになるからね、
暫くは辛抱だね。
洗眼器と洗眼料処方するから
外出の前後に使ってね」

医師の話を聞きながら、
看護師から渡された洗眼器を
看護師の動作に倣って使い、
両目を洗う。
清涼感は全く無いが、
全ての目の違和感がすっきり無くなった。
実に有り難い。

「ところで、どう? 万禮さん。
悪い人じゃないでしょ?」

「ええ、かなり意外な程に良い人物で驚いてます」

「うん、ちょっと早とちりだけど
洞察力があるから直ぐ軌道修正できるし、
ちゃんと善い方に脳みそ使ってるから
言動は信頼して大丈夫だよ。
まぁ、同族化しちゃったくらいの早とちりは
アナタが初めてだけど」

「え、そうなんですか?」

「そうだよ、
しょっちゅうやらかしてたら
牢獄行きの前に破産しちゃうよ。
彼レベルの資産家だと二犯までは
一生何不自由なく後援する事で
償いましょうって決まりだからさ」

「そ、そうなんですか?」

「たぶん三犯で償いプラス無期懲役かな。
資産が無い者は最初から無期懲役ね。
金の有無に関わらず
ニンゲンの殺人は一犯で二百年幽閉。
バンパイア同士の殺人は事情次第でピンキリ。
その昔バンパイアハンターが決めた刑だからね、
バンパイアが減る分には万々歳って
感じが露骨なんだよね。
彼は毎回、
侵犯防衛でお咎め無しだけど、
確か三十年で二桁は始末してるかな」

「じゃあ、彼の弟分達は……」

「うん、彼が同族化したんじゃないね。
何人かは殺した相手の弁償対象だ。
彼はお人好しだと私が思う所以だよ」

「なるほど……」

「他は何か無い? 
私は肉体的な事だけじゃなくて
精神的な事も聴かせてもらうのが仕事だから、
時間は気にしないで」

「うーん……
怪異対抗組織の訓練についていけなくて……
少し参ってます」

「うんうん、アレ大変らしいね。
気にしなくって良いと思うよ。
訓練システムがまだ完全じゃあないんじゃないかな。
今回退魔師に志願した他のバンパイアにも
苦戦してる人がいるみたいだからね。
何かが合わないんだろう。
もしかしてスタートダッシュ決めたいタイプだった?」

「いえ、
同僚と息子の友人を見つけられるかもしれないから……
まだ気が逸ってるのかな……」

「そうか、それは焦りが消せなくても不思議はないよね。
うん、そうだな、今は先達を信用して時機を窺おう。
きっとアナタ達の能力が必要になる時が来るのでね、
それまで体力を取り戻して温存して、ね。
ああ、そうだ、始祖と係累は反映し合う事は覚えてってね」

「分かりました」

「他には?」

「ありがとうございます。他は今の処思い付きません」

「うん、何か有ったらメッセンジャー使ってくれて良いんだからね。
処方薬の袋に押してあるスタンプは
主治医である私宛の
メッセンジャーが立ち上がるコードだから。
ちょっとした事でも
我慢したり独りで悩んだりしないようにね。
移行期は極論まで思い詰めやすいから
絶対孤独にならないで」

「はい、よく覚えておきます」

会計で処方薬の受領も済ませ、
来た時と同じ北東口を出ると、
棒付き飴を咥えて
和便器座りしている始祖に出会した。

「久幸さん、不良少年役が似合いすぎるなぁ」

「知ってる」

「どうしたの?」

「凌司君を待ってたんだよ。臭くなりに行こうぜ」

「……意訳『肉食いに行こう』?」

「正解〜!」

常時通りスウェット上下にスリッポンの始祖に案内された
ドレスコードがギリギリ無い高級焼き肉店で、
促されるまま高級赤ワインと
高級和牛をたらふく御馳走になった。
うむ、良い休日だ。

20230307

喜劇は得意ではなかった筈なのだが、
喜劇としかたとえようのない
間抜けを天然で演じてしまった。
何とまぁ、
第三戦闘訓練は四名まで
同行者を依頼できたのだ。
二人では訓練三をクリアできないという
内容のアドバイスを残してくれていた
退魔師仲間のお蔭で気付いた。
有り難い。
「始祖と係累は反映し合う」
始祖は初めて私を同族化したというから、
直系係累の影響の強さを
彼も知らなかったのだろう。
私のパニックが
始祖を引きずってしまったに違いない。
ともあれ、
やっと訓練を修了し、
桔梗院によって
異界表層境界への路が開かれた。
「戦争は数」
何処かで聞いた台詞が脳裏にこだまする。
ファーストミッションは
四名の仲間のお蔭で攻略できた。
次の段階に備えて
同期の皆と交流を図るべく、
メッセージアプリNYINEをインストールした。
くッ、けしからん名前とアイコンだ。
端末の設定を見直したので、
通知が鳴らなければメッセージは無いというのに
猫のアイコン可愛さに
思わず何度も見てしまうではないか。

20230308

昨夜は深夜まで眠れず
桔梗院やかみな組合の
案内を眺めていて見つけた
退魔師のSNSにも登録した。
登録した途端に
睡魔が現れたので眠ってしまったが。
今日は朝から地理把握の為に
市内を歩いているが
妙にぼんやりする。
処方薬が強いのか、
全く別の要因か。
バンパイア化以前から
ぼんやりしている時は不思議と
美味い食い物屋を見つけられるので
文句は無いが。




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