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254.20220822:フレデリックの回:辺境伯

フレデリック

結局昨夜は、
夕静ゆうせいとハイドが一時頃、
竹晴チー君が三時頃に離脱して
(シャウのチー君呼びが定着してしまった)、
シャウと昼前まで差しで酌み交わした。

ハイドが買ってきた昼食を平らげると、
シャウは私をハイドの寝台ベッドへ追い込み、
自身は隣の私の寝台で大の字になって仮眠した。
そして、爽やかな顔で
最終十七時の船に乗って帰国した。
全員でシャウを見送った帰路、
――私がとても料理できる状態ではなかった為――
夕食は懐かしのワケイザ料理店で、
皆が蒸し料理と酒に舌鼓を打つ横で
私はのんびりとかゆすすった。

呑み過ぎた。
人生半世紀で二度目の宿酔いだ
(因みに最初の時はシャウも酔いつぶれ、
勝者は幼馴染のソー一人だった)。
流石さすが伯爵殿と言うべきだろう。
社交の場数を踏んで
立ち回りが巧くなったな。
肝機能の強さなど鍛えられるものではないから、
私がまんまと乗せられて
ピッチを上げ過ぎてしまっただけなのだろうな。

シャウが聞きたがった話は、
ミュツール共和国我が祖国のある辺境伯についてだった。
リヴィールの友好都市である
キエイタミ共和国のグィルメンへ武力干渉し始めているから
穏便に手を引かせたいのだという。
現伯爵の名を聞いて驚いた。
生まれつきの加護は違った筈だからだ。
継承者を殺害して加護精霊を奪ったらしい。
顧客のプライバシーには最大限配慮する私だが、
幸い当人との取引は無く、
一歳上のその男の顔を思い出した途端に
噴出した学生時代の腹立たしい記憶が
口を滑らかにする潤滑油となった。
私には二人づつ姉と妹が居るのだが
其奴そいつは上の妹に冷たくあしらわれた恨みを
私にしつこく打ち当て続け、
反撃し続けた私と幼馴染ソー
不良少年に仕立て上げたのだ。
知りうる限りの其奴の揉み消された過ちを
私は精確にシャウに語って聞かせた。
ああ、そうか、
そうだな、酒も進んだ訳だ。
そんなに目が輝いていたか?
それは嘘だろ……。

シャウの兄貴ハイドが寝室へ引き揚げると
竹晴君のリクエストで話題は
ハイドの家出から帰還後の三十四年間に移った。
まあ、この話はいずれ。
今記すと色々と台無しになりそうだからな。

マリエラセス暦4044年9月7日黒曜日23:17。


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