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クリスマスのハナシ

老いも若きも浮かれてはしゃぐクリスマスに思い出すのは昔の彼女との甘酸っぱい思い出ではなく、今は亡き祖母の起こしたちょっとした事件である。

その年のクリスマス、祖母は家族の目を盗み、10ピースのフライドチキンの皮だけを平らげた。晩御飯の準備の際、つまみ食いをしようと箱を開けた幼い弟が、素っ裸になった鳥を見つけ怖いと大泣きし事件が発覚した次第である。祖母を問い詰めるもテカテカになった唇をへの字にしたまま食べていないの一点張りだった。

祖母は重度の糖尿病で食事制限を医師に言い渡されていた。しかしながらひとっつもいうことを聞かない祖母はいつもベッドの下に大量のジュースを隠し持っており、幼かった私はそのおこぼれをもらう代わりに他言しないという取引をしていた。

結局肝不全で亡くなるまで生活習慣を変えることはなかったが、多少入退院をしたくらいで家族にかけた負担は大きくなかった。亡くなる間際に見舞いに行った時、食べたいものを食べてきたから悔いはないと、黄疸がでようがいつものようにコーラを飲む祖母を見て、清々しさすら感じたのを覚えている。

もっと~~してあげれば良かったと悔いる遺族を何度も目にしてきた。ご近所さん達にまでファンキーな婆ちゃんだったと言わしめたうちの祖母の死に様に、残された我々がどれだけ救われたことかと今更ながら思う。

ふと祖母の事を思い出し、自分の仕事についても考えてみた。「これは○○に良くないからダメ、あれは××の危険があるからダメ。」そんなことちょっと勉強していれば誰だって言えますわな。「好きなものを好きなだけ食べてください。」然るべき患者さんには自信を持ってそう言える医療人に私はなりたい。

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