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Loose Leaf Room(2)

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短編小説集です。1話で完結するものを中心に入れています
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2024年3月の記事一覧

【短編小説】対話

【短編小説】対話

「ヤギさんヤギさん、あなたはどうしてヤギさんなの?」

私のこの頭のことを仰っているのですか?ふふ、これはただの被り物…レプリカですよ。

「れぷ…?」
偽物、という意味です。私のこれは創られたものであり、お嬢さんの想像の産物なのです。

「そうなんだ!ヤギさんは何でも知ってるのね!!」
私は総てを知っている訳ではありません。例えばお嬢さんが今、何を考え何を望み何を視ているのか、それは私の知るとこ

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【短編小説】最期の10分間

【短編小説】最期の10分間

ボクは、同居人のあの男が嫌いだ。

一緒に外出している時はボクの呼びかけを無視して、他の奴らに作り笑いを向けてヘコヘコしているし、かと言ってひとたび家に帰ればボクに気持ち悪い笑顔で近付いてきてベタベタするし。

毎日同じご飯しかくれないし、おやつはたまにしか買ってこない。撫で方も無骨で雑で慣れていない感丸出しの癖に、ボクの呼びかけには普段の低い声からは想像出来ない程の裏声で応えて、これまた気持ち悪

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【短編小説】声

【短編小説】声

あの人の声が、私は好きだった。

心地よく響く低音の中にある、優しさの滲み出たあの声が。
あの人の活動を知った日から、学校終わりに家に直帰し、あの人の音声配信を聴くのがすっかり日課になっていた。

毎週平日の火曜と木曜の夜7時。それが、あの人の定期配信がある日時。

『こんばんは。今夜も一緒に素敵な夜を過ごしましょう』

始まった。私は今日も、あの人の画面越しの声にじっと耳を傾ける。
やっぱりいい

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【短編小説】いい子の呪い

【短編小説】いい子の呪い

ぼくは、常にいい子でいた。

最年長だから、弟妹達の指針であれ。
名家の生まれなのだから、聡明であれ。
生徒会長になったからには、優等生であれ。

でも、それを褒められたことは一度だってなかった。そう言ってきた人達にとって、ぼくがいい子なのは当然であり、ごく自然なことだったから。

だから、みんなに誘われて繁華街に初めて立ち寄ったことが両親に知られた時は大変だった。母は泣き喚いた挙句卒倒してしまう

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