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【短編小説】いい子の呪い

ぼくは、常にいい子でいた。

最年長だから、弟妹達の指針であれ。
名家の生まれなのだから、聡明であれ。
生徒会長になったからには、優等生であれ。

でも、それを褒められたことは一度だってなかった。そう言ってきた人達にとって、ぼくがいい子なのは当然であり、ごく自然なことだったから。

だから、みんなに誘われて繁華街に初めて立ち寄ったことが両親に知られた時は大変だった。母は泣き喚いた挙句卒倒してしまうし、父は初めてぼくに手を上げた。
ぼくをあらかた殴った後、父は言った。

「そんな下卑た輩とはもう付き合わないと誓約書に記しなさい。一人一人の名前も書き出すこと。私が処理を施し終えるまで、一歩外出することも許さん」

目が醒める感覚っていうのかな。洗脳が解けた瞬間はみんなこんな気持ちになるのかな、と思った。
恥ずかしいことに、ぼくはそこで初めてぼくの家が異常だって気付いたんだ。

だからこそ、もうこれ以上この家にはいられないと、ここから逃げなきゃと決意した。それで脱出を試みた。その結果がこれだ。

ぼくは大丈夫、大丈夫だ。怪我も後悔もしていない。家に未練だって、これっぽっちもない。
それより、早くみんなと落ち合わなきゃ。初めて出来たぼくの大切な友人達の元へ。約束したんだ。
今夜何もかも捨てて、みんなで街を出ようって。


と。まぁ…これが、自らの家に火を放った理由だよ。真相を聞けて満足か?刑事さん。

あいつらには裏切られたとも売られたとも思ってねーよ。むしろ感謝してんだ。

あの時、俺の目を醒ましてくれて…一生いい子でい続けるはずだった一種の呪いを解いてくれて。
今でもあいつらは俺の大切なダチだよ。何があってもな。

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