ふわふわの イチゴムースを 半分こ 僕ら二人の ラストオーダー

ふわふわの イチゴムースを 半分こ 僕ら二人の ラストオーダー

「あ!イチゴのムース!ふわふわのヤツ!あれください!」
何でも先に決めてしまう彼。
そんな彼が最後に決めたのは、「別れるこの日をいい思い出にしよう!企画」の晩餐、グランドフィナーレの段取りだった。

僕は彼の、顔が好きで付き合って、体と体のお付き合いも良好、何でも先に決めちゃうところが気に入らない。
たまにちょい優しい。
ワガママなんだろうな.....と。

しかも彼が、ボクのどこが好きだったのか、ボクは知らない。
一回だけ聞いてみた事があるが、答えは・・・
「んー、あんまりわかんねーや。」
との事で。。
これが機嫌悪かったら、胸ぐら掴んで「一個ぐらい好きなとこ言ってみろ!」って言っても世界中が許してくれると思う位のヤル気のない彼の返答。
多分ボクにも一個くらい、キミに好かれる所あるよ。。料理上手いとか、、なんでも決めちゃうキミについていけるとか。。
はぁー、顔と体がダメなら付き合ってないわ。。

やっぱり恋とは、見た目や相性ではなく、心でするものだ!!
なんて思ってるうちに、別に好きな人が出来ましたw
2人でどこに行くか決めて、何を食べるか決めて、シェアして、「次はどぉする??」っていうのが、2人の合言葉の様な時間が楽しくて、、、顔と体がいい彼氏に別れを告げました。

好きな人が出来たから別れたい=明日残業で遅くなる。
同じくらいのテンションで伝えました。

「え?俺のこと嫌いになった?」
「うーん、嫌いじゃ無いけど、他の人の事を好きになちゃったんだよね。なんか今までの好きと質が違うっていうか。。」
「そっか。ちょっと考えさせて。。」

〜1週間後〜
「俺のこと好きじゃないのに一緒にいさせるのは悪いから。。
別れよう。。
でも最後に飯食って、楽しい感じにしようぜ!」
とのラインが届きました。

うーーーー。別れを告げられた事実を、何とかいい思い出に変えて終わらせたいのか?
こっちから別れを切り出した手前、断るわけにも行かず承諾。
この時点でボクは、新しい楽しみ(好きな人)を見つけていたので、まぁご飯位はいいか!と思ってました。

最後の晩餐にふさわしく、訪れた先は、付き合って1年の記念日を過ごしたイタリアン。
卵の味が濃いカルボナーラと、フカフカのフォカッチャ、しっとり仕上げた鶏モモのコンフィが美味しいお店。
まさか2回目が最後の晩餐とは。。
しかし料理にもシャンパンにも罪はない。
大いに食べて、しこたま飲んで、1年半の思い出を語り尽くした頃。

「只今のお時間でラストオーダーになりますが、デザートはいかがですか?」と、1年記念の時にも接客してくれた、長澤まさみに似たお姉さんが聞きに来てくれた。
ちなみに1年記念では、「フォーエバー」と書いてもらったデザートプレートを用意してもらったので、このお姉さんは僕らの関係性に気づいてるのかも。

お姉さん、、、今度は違う男と来ても黙っててね。

心の中でつぶやきました。

「ボクはお腹いっぱいだけど、、どぉする?」
彼も相当飲んでいたので、デザートは頼まないだろうと思ってましたが、、
「せっかくだからなんか食おうぜ。半分ずつでいいじゃん。あ!イチゴのムース!ふわふわのヤツ!あれください!」

はぁ。。・・・だから、勝手に決めるなよ。。
しかもボクは「イチゴはそんなに好きじゃない」って、今まで何度も言って来たのに。。
そうゆう所が気に入らなかったって言ったのに。
ホント自分勝手で、端々でがっかりさせるんだよね。キミは。
まぁこれで最後だから、イライラするだけ無駄か。。
ほとんど食わせてしまおう。。
ちょこちょこイチゴムースをつつきながら、不意に言われた言葉。

「今まで・・・ありがとうな。」

急に言われたボクは
「あ、うん。こちらこそ!」
なんだかビックリして、声がうわずってしまった。。
「オレさ、一緒にいると嬉しくて、色々先走ってたよな。なんかさ、すげー楽しくてさ。」
珍しく真顔で語り出した、自分勝手な彼。
「うーん。正直もっとボクの思ってる事とか、聞いて欲しかったかも。まぁ、でもさ、一緒にいて嬉しいと思ってくれてたんだね。それだけでちょっと満足。」
ボクはそう言って、グラスに残ったワインを飲み干した。

。。。あれ?どうして泣いてるの?

かれの右手のスプーンは、イチゴムースをすくうでもなく、テーブルに置かれるでもなく、チカラ無く彼の手の中にいる。
「おれ。別れたく無いんだよね。すげー悲しいのに、今一緒に飯食ってる時間も、やっぱ楽しい。普通に辛いわ。別れるとか。。」

彼に言われた言葉は、土に水がしみこむように、心の中を濡らして行きました。

「なんかボク、君のわがままに振り回されてるだけだと思ってた。行きたいとこも、やりたい事も、いっつも勝手に決めちゃうじゃん?話も聞いてくれないし。。もっと色々気にしてくれたら、、、好きでいられたかも。」
「おれは、、、どうしたら喜んでくれるかわかんねーから、男らしくドンドン決めた方が、お前が楽なのかな?って思ってた。。」彼がうつむいたまま呟くように、話した。
「そうだったの?あんま楽じゃなかったな。。ちゃんと言えば良かったね。ボクもゴメンね。」
なんだか、彼とまともに向き合ったのが、始めての様な気がして、俯いてる彼が少し愛おしくなってきた頃。
「間も無く閉店のお時間ですので、お会計よろしいでしょうか?」
長澤まさみ似のお姉さんが来ました。
時計を見たら23:05。閉店時間は過ぎていた様で。。
僕たちの様子を見て、そっとしといてくれた様でした。
「あ、遅くまでゴメンなさい。すぐ出ますね。」
泣いてる彼をそこに残しレジへ向かった。

・・・あれ?
今までどうして正直に話さなかったんだろう。。
もしかしたら、ちゃんと話してたら、好きなままでいられたのか、、な?
そもそも彼は結構頑張ってくれてたのか。
え?それなのに別に好きな人作って、別れたいって、、ボク、ひどくない?
彼の努力に気付かなかったって事だ・・・よね?

カードでの決済が終わる1分の間に、頭の中をグルグル回ってたのは、罪悪感、愛しさ、反省。

・・・ちゃんと向き合おう。

席に戻って彼に一言、「出ようか。」と声をかけて、先に階段を降りて行きました。
彼が泣き止んで、落ち着いてたのは見えたのですが、緊張と申し訳なさで、それ以上彼の顔を見る事が出来なかった。。
空気が澄んできた11月。
駅に向かう道には、ほとんど誰もいない23:15。
どうしたらいいかわからないまま、ただ真っ直ぐ駅に向かっているボク。
すると急に肩を掴まれて、振り向かされた目の前には彼の顔が。
彼は真剣な顔で「今日まで・・・ありがとう。ほんと色々ゴメンな。落ち着いたらまた会いたい。」
あー、本当に別れの時が来たんだ。。。
たった今言われた「ありがとう」、「ゴメン」、「また会いたい」
感謝でも謝罪でも、次の約束でも無くて。。
さようならって事だ。。
心の中でプツっと何かが切れました。

「ぼく・・・やっぱイヤかも。。。まだ一緒いたい。てゆーか別れたくない。。かも。。」ぐしゃぐしゃになった心と頭から絞り出された言葉。
他には何も言えず、彼のブルゾンの裾を掴む事しか出来なかったボク。
でもしっかり掴んでないと、離されてしまいそうで、掴むチカラがどんどん強くなっていく。
不安で。不安で。寂しくて。。

裾を掴んだボクの手に触れた、彼の冷たい手。
その手はゆっくり背中に回って来て、少しづつ体が締め付けられるような圧を感じた。
「オレもお前と一緒にいたいよ。ありがとう。」

あー。なんか今、幸せだ。

身近にあるもの。それが大事だとわかった瞬間。愛おしいってこういう事か。
しばらく抱き合ったまま、23:30の街は人影も無く、世界に二人だけの様な感覚。
この時間を忘れないで、大事にしよう。

彼のチカラが少し緩くなり、
「そろそろ帰ろうか。また逢えるようになったしな。」
ニコニコしながらいう彼。
「そうだね。ここのレストラン、またこようね(^^)」
そう言って駅まで歩き出した二人。23:35。
それぞれ逆のJR山手線に乗り、一緒にいる事の幸せを思い出した一日が終わりました。

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翌日。
自然に目が覚めた10:00。

天井を見つめたまま、昨日の夜の事を思い出す。
幸せな様で、甘やかな様だけど、小さなトゲひとつ。。

好きになっちゃった人。。さーて、どうすっかな。。

傷つく事は割と慣れてるんだけど、傷つける側に回るとは。。

さて、好きになっちゃった人には、ことの顛末をどぉ伝えようかと考えながらスマホを見ると、イチゴムースの彼からラインが来てました。

「昨日はありがとう。帰ってから色々考えたんだけど、やっぱりオレたち、離れよう。お前のこと振り回すのもう辞めるよ。今までありがとうな。」

,,,,,,,なんやねんな。
ここに来て最上級の自分勝手発動ですか??

思考回路は完全に停止してしまい、そのままラインブロック。
なんだか全てが面倒になり、好きになった彼にも「ごめん、もぉ会えない。」とラインしてブロック。
相手の勝手で振り回され、自分の勝手で振り回し、全てを手放した土曜の午前10:15。

出かける予定も恋も何もない土曜の午前10:15。
ただ何も考えず、また布団に潜り込むだけだった。
どうかなんの夢も見ずにぐっすり眠れますように。





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