3. 青春、再び
カガヤンデオロの空港に到着した3人。
空港からホテルまではタクシーで向かう。
車内からの景色、それは壮大な海、地平線まで続く畑、広い道を横切る牛、馬、豚、そして大量の野良犬....
うん、何もない。
予想をはるかに上回るほどに何もない。
もしかして、初めてこの土地に降り立った人類なのではないかと錯覚させるほどであった。
カガヤンデオロに向かう前、マニラにいる現地スタッフと話をしたところ、現地の人ですらカガヤンデオロに行くのは勇気がいることだと言っていた。
一言でいうと、『危ない』と。
不安と緊張が張り詰める中、市内に到着。
いつ襲われるかわからないという勝手な思い込みからくる興奮状態によって、3人は大量のアドレナリンを放出しており、車内は異様なテンションとなっていた。
なぜかラジオから流れるDJのテンションも上がり始める。
ラジオ: 「うごsvfさどkmん!!!!!!(現地語)」
3人: 「…………………….。(不安と緊張から無言)」
ラジオ: 「gほいdさsdflfがおがさbほ!!!!!!!!!!!!(現地語)」
3人: 「…………………….。(不安と緊張から無言)」
ラジオ: 「xvcんzklsとあぱsgkjpじゃめいgpjまp!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!(現地語)」
私: 「おおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」
ロン毛: 「どうした!?!?!?!?!?」
私: 「隊長ぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!」
ロン毛: 「だからどうしたぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」
私 :「現代のライフラインであるコンビニを発見いたしましたぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!」
ロン毛: 「でかしたぞぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!」
ロン毛: 「おい!!!!!!あれを見ろぉぉぉぉ!!!!!!!!」
ロン毛: 「ガッッッッコウ(学校)もあるじゃないかぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!」
私: 「しかもダイガクという最高学府ぅぅ!!!!!!」
私: 「基礎代謝さんっっっっっ!!!!!!
何かありましたかぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!?」
基礎代謝: 「お二人ともぉぉぉぉぉぉ!!!!!
あれを見てくださいぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!!」
3人: 「まぁぁぁぁくどなぁぁぁぁぁるどぉぉぉぉぉぉぉぉぉ♪♪♪♪♪♪♪♪♪
(マクドナルドもありますね)」
3人は生の喜びを表現するがごとく、視界に入るものすべてを意味もなく叫び続けた。
おそらく、タクシードライバーが一番恐怖を感じていたに違いない。
実際に市内に到着してみると、想像してものとは全く違った。
マニラやセブに比べるとまだまだ開発の余地は大いにあるが、街の雰囲気は非常に平和で穏やかである。
”黄金の友情の街(City of Golden Friendship)”と呼ばれているだけのことはあり、人々は非常にフレンドリーでホスピタリティに溢れている。
『マニラでタクシーに乗ったら、ぼったくられた』との話をよく聞くが、カガヤンではぼったくられるどころか、ドライバーにおつりが無い場合は少なめに払うことが許された。
バキを全巻読んで戦闘に備えていた私にとっては拍子抜けであった。
ホテルのチェックインまで、まだ時間があった私たちは先にオフィスに向かうことにした。
オフィスが入っているビルはカガヤンデオロ唯一の商業地域の中にある。
9階建てのビルが一棟あり、その周りには飲食店やBarが立ち並ぶ。
そのビルの8階に入居する予定であった。
実は3人がアサインされる前から、すでにこの立ち上げプロジェクトは進んでおり、東京オフィスとマニラオフィスのメンバーがオフィスの工事を進めていた。
しかし、誰かが現場で直接指揮を執っていたわけではなく、現地の業者に委託していた。
我々には、工事が予定よりも遅れているという情報のみが伝えられていた。
期待と不安が入り混じる中、8階に到着。
オフィスの中に入ってみると、そこにはブルーのカーペットだけが敷かれた広大なフロアが広がっていた。
私たちが立ち上げようとしていたのは「高度な英語教育人材のプラットフォーム」。
親会社を含め、日本を代表する英語教育機関のパートナーとしてサービスの開発/提供をするビジネスモデルである。
そのため、オフィスには講師用に250の個室を設置する予定であった。
しかし、オペレーションを開始する1ヶ月前にも関わらず、まだキュービクルは一つも設置されていない。
それどころか窓すら設置されておらず、吹き抜けの状態である。
そんな中、私が最も動揺したのはオフィスのデザインと設計であった。
コーポレートカラーは緑でありながら、オレンジを基調としたビビットなデザイン。
全く統一感のないオフィスインテリア。
無駄に広い受付がある一方、肝心な会議室や倉庫は一つもない。
国から義務付けられている医務室もない。
250人採用予定なのに、食堂には20名しか入らない…etc
ゼロどころか、マイナスからのスタート。
誰を責めるわけではない。
これが緊急発進したプロジェクト、そしてクロスボーダーで進めることの難しさである。
やらねばならないことは死ぬほどある。
寝ている暇なんてない。
一瞬、深い絶望感と焦燥感に包まれた3人ではあったが、この天井の低い体育館のような空間を目の前にして、ある一つのことが思い浮かんだ。
そう、それは手打ち野球である。
何を隠そう、基礎代謝さんは高校球児だ。
さらに、ロン毛さんはメジャーリーグオタクであり、アメリカでMBAを取得していた時はほぼ毎日球場に通っていたという。
そして、私は中高時代、雨の日には必ず廊下で開催された手打ち野球のエースとして、6年間君臨し続けた男である。
そんな3人が揃えば、試合が始まらないわけは無い。
私がたまたま持ち歩いていたピンポン玉を取り出し、肩を温め始める。
基礎代謝さんは落ち着きはらった様子でバッターボックスに入る。
そしてロン毛さんはキャッチャー兼審判としてポジションに着いた。
気付けば、3人は甲子園の定番応援歌を口ずさんでいた。
「おおーおおおーおおおーおおおーきっそ代謝、きっそ代謝♪」(アフリカンシンフォニー)
僕たちの伝説はここから始まる。
今は部員が3人しかいないが、いずれは甲子園で台風の目となって一世を風靡するんだ。
恐怖、不安、期待、興奮、安堵、怒り、焦り、悔しさ
今日のことは、絶対に忘れちゃいけない。
そして、初日にやったことが手打ち野球だなんて、親会社には絶対に報告できない。
いや、やることが死ぬほどあるからこそ、適度な休息によって生産性を上げるんだ。
むしろ勇敢な意思決定を讃えてほしい。
『プレイボール!!!!!!』
最高の仲間と
最高の場所で
最高の時間を過ごした思い出は
いつも色鮮やかに
蘇るだろう
『ストラァァァァァァイク!!!』
こうして僕らの長い長い、
そしてアツすぎる夏が、
今、幕を開けた。
つづく
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?