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見知らぬ選手の活躍を喜んでいたら、娘がちがう視点をぶっこんできた話。


 テレビの向こう側の人に、急に親近感を覚えたことってありますよね? え、ないの? 困ったな。話が終わっちゃうじゃない。
 いや、わたしはあるんですけどね。

 よくあるのが、インタビューや対談番組を見てるとき。
 その人のおすすめ本が自分の何度も読みかえしている本だったとか、高校時代に同じ部活やってたとか、旅行の荷物の考え方が似てる(最小限しか持ち歩かない)とか、出身地が近くとか。
 そんな、ささいなこと。

 画面の向こうのその人とは何の接点もないのに、共通点を見いだせただけで身近に感じたり、好感をもったり、応援したくなったりするんですよね。これって、結構あるあるなんじゃないかと。

 

 

 ついこの間も、そんなことがありました。

 夏の空気に触れたくて、どのチームを応援するでもなく甲子園の試合をテレビ観戦していたときのことです。
 スタメン、つまり控えではなく最初から試合に出ている選手のなかに、背番号17の野手がいたんです。

 背番号17といえば。
 2週間ほど前に公開した掌編小説の主人公も、背番号17でした。

 ピッチャー以外で背番号二桁をつけた選手が甲子園初戦のスタメンに名を連ねるのは、めずらしいような気がします(調べてないです。単なる感覚)。自分の産んだ主人公・健太と同じ背番号に、なんだか親近感が湧きました。

 

■ 追悼

 

 高校野球(硬式)の強豪校の世界には、残酷な数があるんです。
 それは、ベンチ入りできる選手の人数。
 地区大会では20人、選手権大会(甲子園)では18人。つまり「甲子園出場が決まると背番号がもらえない選手が必ず出る」という仕組みです。

 強豪校でよく聞くのが、地区大会前に背番号をもらえなかった3年生部員のための引退試合です。この引退試合を境に、ベンチ入りできなかった3年生は出場選手のサポートに回ります。
 でも、地区大会で優勝したあとで、甲子園での背番号がもらえなかった部員には、そんなイベントはおそらくないでしょう。勝ったから、チームは甲子園に行けるんだもの。続きを見据えているときに、背番号がもらえずいきなりハシゴを外されるんです。グラウンドの上でちゃんと終われていない。気持ちのやり場がないんじゃないかな。
 この小説のなかで描いた健太は、そういう高校3年生でした。

 

 

 テレビのなかの背番号17が最初の打席に立つと、実況アナウンサーはこの選手の背景を話しました。彼は地方大会ではベンチ入りしていなかったけれど、猛練習のすえ調子が上がり、甲子園のベンチ入りメンバーに選ばれたのだそうです。

 そんなアナウンスの直後、彼は二球目をレフト前へ運び出塁しました。結局、彼はその試合の5打席のうち、ヒットとフォアボールで4回も塁に出たのです。打てて選球眼もいい。しかも守備にもいいプレーが。ライト前方に飛んだ打球へのファインプレーは、ネットニュースでも写真が掲載されました。
 健太が失った「背番号17」の活躍に、心おどります。

 地方大会に出られなかったのに甲子園でベンチ入りしただけでもすごいこと。さらにスタメンで、攻守に活躍。
 すごい!!
 努力が実をむすんで、出場のチャンスをもらえて、本当に良かったね!

 

 

 帰宅した娘に背番号17の彼の活躍を熱く語ったら、こんな言葉が帰ってきました。

「うわぁ・・・それはないわー」

 え?
 意外な反応にびっくりです。

「だってさ、彼が入ることで背番号がもらえなかった選手が3人出たってことでしょ? うちは強豪校じゃないから3年生全員がベンチ入りできたし、18人にしぼる必要もなかったけど。みんなのうち誰かが入れて誰かが入れないなんて、しかもそれが入れ替わるなんて、そんなつらい場面を見なくて済んで、本当によかった」

 一気にまくしたてると、娘は最後にこう言いました。

「あぁもう、わたし、選手みんなのお母さん的視点なんで。誰かが選ばれないとかありえないから」

 あぁ、とってもいい笑顔。

 

 そっか。そうだよね。
 娘が口にしたのは、願いであり祈り。
 ずっと選手たちの陰日向の努力を見つめてきたマネージャーは、そう感じて当然です。みんなの努力が報われてほしいって。

 でも、競技の世界では勝ちこそが正義。より強い者が先に進めて弱い者は脱落する。その世界線では、娘の言っていることは極めて甘っちょろい。立場が変われば、ものさしは変わります。
 
 わたしにしても同じです。テレビの前のお茶の間で観戦してるから、彼のドラマティックなストーリーと活躍に感動するけれど、彼らを身近で見つめる人たちが必ずしも同じことを感じるとは限りません。
 そもそも、自分が書いた主人公の背番号とたまたま同じだったからって、勝手に注目してしまっただけですもんね。

 

 視点が変われば、モノの見方は変わる。
 そんな当たり前なことを、あらためて確認した夏休みの夕暮れでした。

 

 

 テレビで高校野球つけて、アフリカン・シンフォニージョックロックルパン三世とメガホンを打ち鳴らす音を聴きながら、写真を編集するお盆休みって幸せ (^^*

 ※ 文中の写真は、本文に登場した選手とは関係ありません。

ここまで読んでくれたんですね! ありがとう!