連載日本史287(最終回) 2023年8月15日
2023年8月15日、日本は78回目の終戦記念日を迎えた。直接戦争を体験した世代が年々少なくなっていく中、四半世紀以上にわたる平和のありがたみを改めてかみしめるとともに、世界に目を向けると、未だに戦火が続いている地域が少なくないという現状に憂いを抱かざるを得ない。
ロシアとウクライナの戦争は終わらず、パレスチナの惨状は変わらず、中東情勢は未だ混迷を極め、アフリカ各地では内戦が続いている。北朝鮮はミサイル実験を繰り返し、中国は国内での言論弾圧を強めながら対外的な勢力拡張を狙い、米国では格差拡大と社会的分断が進んでいる。環境破壊は進み、食糧危機に見舞われている地域も多い。国連はSDGs(持続可能な開発目標)を掲げて人類共通の課題解決に向けての共闘を促し、いくつかの分野では成果が上がってはいるものの、その道のりはまだまだ険しい。
2023年5月には広島サミットが行われ、G7(日・米・英・仏・独・伊・加)に加えて、特別招待の8ヶ国(オーストラリア・インド・ブラジル・韓国・ベトナム・インドネシア・アフリカ連合・太平洋諸島フォーラム)の代表が日本に集まった。途中からウクライナのゼレンスキー大統領が電撃参加したことで話題を呼んだサミットだったが、中国とロシアが招待されなかったという事実に、現在の世界の分断状況が象徴されているように思われる。
サミットでは、経済安全保障・食料・気候・エネルギー・保健・開発・地域情勢などが主要な議題として取り上げられた。とりわけ被爆地広島での開催ということで焦点になったのは、核軍縮を巡る議論である。各国首脳の被爆地訪問と原爆資料館見学を契機に核兵器廃絶への機運が高まることが期待されたが、最終日に発表された共同声明「広島ビジョン」は核兵器削減の継続を唱えながらも核抑止力を肯定する内容になっており、被爆者団体を筆頭に多くの人々を失望させる結果となった。
ロシアのプーチン大統領が核兵器の使用をちらつかせ、北朝鮮が核ミサイル開発を進めている現状で、一足飛びに核廃絶に至る議論に無理があるのはわかる。だが、少なくとも将来的な目標として核兵器の廃絶を明確に掲げ、そのために現状でも可能な具体的なステップを検討するのは必要なことではなかろうか。日本政府はノーベル平和賞を受けた核兵器禁止条約にも不参加の意思を示している。米国の核の傘に守られているという現状認識に基づけば批准するわけにいかないという政治的判断であろうが、オブザーバー参加の道は開かれているのだ。せめてそれだけでも参加し、将来的な方向性について被爆国としての姿勢を明確に示すべきだと強く思う。
8月6日と9日に行われた広島と長崎の原爆忌では、それぞれの首長が核抑止論を否定する声明を発表した。そこには核を巡る現状を変えようとせず、むしろ後退しているかのように見える日本政府の姿勢に対する抗議の意も含まれいるように感じる。直接被爆を経験した世代が存命のうちに、もっと積極的に被爆の実相と核廃絶の重要性を、世界に向けて発信していく必要があるだろう。
「平和とは戦争と戦争の間のわずかな期間にすぎない」という歴史学者の言葉がある。だが、それを一分一秒でも先延ばしにする努力こそが大切なのである。少なくとも戦後78年、日本はその努力を続けてきたと言える。戦前の歴史も含め、その長い道程から学ぶことは多い。「戦後」を再び「戦前」にしないために、これからも歴史を振り返りながら、今なすべきことを考えていきたいと思う。
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「連載日本史」はこれにて終了いたします。読んで下さった皆様、本当にありがとうございました。次は「連載中国史」を始める予定なので、引き続きお読み頂ければ幸いです。書く場を与えて下さったnoteのスタッフの皆様にも感謝をこめて――。
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