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うたうたい

冬の夜の砂浜
ひとりのうたうたいがギターを抱え
天を仰ぎ うたっていた
白い吐息も歌声も
虚空へ吸いこまれるようだった
無数の星が応えるように瞬いていた

凍えながら身を潜め 息も潜め
かれのうたに耳を澄ませた
海も凪いでいた
だが期せずして 切なさに身悶えした
かれのうたっていたのは挽歌だった
ひとのかなしみを思い知った

死のうとして赴いた夜だった
しかし死ぬ気は削がれた
すがすがしい敗北だった
白む空に背を向け 背を押され帰った
一方 かれは
その空を迎えるように佇んでいた


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