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怪談水宮チャンネル⑨


①猫たち鳥たち

傷つけられた猫たちの夢を見た。
私は恐れ、おろおろしながらも、ご近所のかたとなんとか助けようと必死だった。

数日後の今日。賽銭泥棒の第一発言者となる。しかも、よく行く近所の
『水神宮』で。(私の名前はここからいただいた。)


ずらされ荒らされた賽銭箱を見つけた私が直近の家に駆け込んでから駆けずり回るあいだ、猫たちはあちこちにその日いて、恐れ慌てる私をじっと見ていた。穏やかに。
「落ち着きなさい」と言うように。

最初に現れたのは以前後ろ脚を一本、何者かにナタで切断されてあまり敷地内からは出ない三毛猫の「ちゃこ」だった。しかもその拝殿のそばに寝そべって。
臆病ですぐ隠れる彼女がたっぷりとした風情で寝そべり、私に向かって目を細めた。普段見ない猫たちまで。雀たちは逃げずにそばで遊んでくれ、ヘレンとよぶダイサギも悠然と空を飛んでくれた。私の心は落ち着いた。


本当は、口から心臓が飛び出しそうになるほど恐かった。
だがいきなり警察に、ではなく、町内会の古株の人々や年当番さんに相談した。皆さんもそれを望んでおられた。ここは年輩の方の多い、小さな、静かな町なのだ。誰も騒ぎ立てることを望まなかった。最後は役員さんが請け負ってくれた。これでよかったようだ。そこの家の黒曜石のような猫のコウくんは、いつもの好奇心満々のひとみではなく、月のように澄んだまなざしで私を見ていてくれた。


愛する夫から、連絡も来た。うれしくて、ほっとして。でも、泣いた。
こわい。T兄。助けて。あなたでなければだめなの。こわいの。
「よく頑張ったな」
T兄は優しい言葉で労ってくれた。


夢の中の、傷つけられた猫たち。
猫たちは、夢でちゃんと教えてくれた。その上、実際の事件の時にはちゃんと皆表れて私を勇気づけ、正気に戻してくれたのだ。ありがとうしかない。


家の神棚に、封を切ったお酒を供えた。
イヤだったでしょう。こわかったでしょう。
もう大丈夫。


②85ページ

さて、なんとなくすっかり家も大掃除しお風呂も浴びて、珍しくお酒を飲まずにいる。
トイレに立つ時、神棚のあたりから
「85ページ。」
と声がした。
トイレには本を置く派。たまたま今置いてあったはタオの愛らしい本で…。

開くと、全くドンピシャの短い逸話が。はい。一人パニクった私が阿保でした。猫も鳥も「あわてないのよー」と笑ってくれてたのに。


ふとカレンダーを見る。ただの100均カレンダー。
明日だ。これは「来い」と言ってる。こういう時は色々重なる。大祓であれば今月末だが、私には明日来なさいってことだろうし、猫や鳥たちにお礼も言いたい。


と、清めた神棚から ほろり と何か出た。


白い小さな羽根。鼻息で飛んでしまうようなものだが、私にはさいさきのいい物でいつも神棚に置く。無くしてずっと探していたのだ。


これはいよいよですなあ。

③プレイリスト

あわあわしてる時、いつもなら同じ曲を聴きがちなのだが、ふと指が触れて。
いつもは全く聴かないプレイリストがかかった。
これがテキメンだった。

ヒリヒリ焼けつく気持ちを優しく鎮めるもの。
そして何も考えずに作業できるもの。


ある程度自分の聴きがちな傾向でかけてくれるとは知っていても、私はメタルも聴けばファンクもダンス音楽も祭囃子も聴く。


今日のプレイリストはあまりに出来すぎてるが。
誰よ、画面触ったの^_^分かってるけど、ありがとう。


④願い事

明日、神社に行く時。いつも願い事はしないけれど、ふとまた後ろから声がした。

「一つだけ、叶えてあげる。言ってごらん」

私は心のカクテルのおもてにふっと浮かび上がった色、あるいは形を見るようにそれを見ていた。

それだけ。

明日は、珍しく、七夕のお願い事をしようと思う。

声はほほえんだ。

「いいよ。でもお前、もう自分で出来るからね。」

大好きだった叔母の形見のアメシスト。
相棒「トカゲ」の赤いビーズのネックレス。そしてたくさんの…私の中にいてくれる存在。肉体があろうがなかろうが。
先日、その頓死を知った扉写真の白猫、ミルク。美しい最期でした、と飼い主さんは言った。静かで、ひそやかで、美事だった、と。

私は一人ではない。

しかし性質の合わないものはしぜんと離れてくれるように、そう言えばなっている。

「私がそんなこと出来てるんですか?」
「そうだよ。誰でもできるけど」

私はちょろりと舌を出して、質問してみた。
「悪くないことなら、想像するのはいいの?」
声は笑った。
「いいよ。お前はもう欲しくないものは分かって近寄らないし、欲しければ向こうは…」
「なんです?」
「向こうはお前の元へ来ざるを得ない。人であれものであれ、なんでも。いま、だいたいそうなってるだろう?」


私は笑って、ざくろのお酢を垂らした冷たい水を飲む。氷が鈴のように鳴る。

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