「自分の顔が嫌いなので、頭をレンジにしてもらった。」第1話

【あらすじ】
  20XX年。シナゴと呼ばれる敵が現れた現代。対抗すべく選ばれた超能力者の梨野春花は、戦う際のバトルスーツの頭をレンジにして欲しいと述べる。無事レンジにしてもらい戦う日々の中で、強い力を持つ彼女は人工授精を求められる。
 ある日、子の父を名乗る年下の美青年が現れる。夫婦のようなものであるとし、迫られた梨野はなし崩しに受け入れる。美青年の景と親交を深めた梨野は、恋人となる約束をする。
 だがその後、シナゴとの戦いで負傷し、戦えない事になる。これでは自分に価値はなく、恋人になることも出来ないと考えていたが、景はそんな事は関係ないとして、好きだからと梨野に改めて好意を告げる。

 *** 第1話 ***

 それは、世界規模のパンデミックとして始まった。
 ――なんとなく、肩が重い。
 ――なんとなく、頭が重い。
 ――なんとなく、腰が痛い。

 その後、共通項として、痔のような症状を呈した。そして急激な発熱を経る。最初が軽微な、いいや人により重篤ではあるのだが、いわゆる気圧の変化が原因では無いのかとして見逃され書けたのだが、痔類似症状と発熱という特有の経過を経るため、その病いは、病いとして認定された。しかしながら原因となるウイルスなどが見つからないまま、早二年。ある日、地球文明人類は、人工衛星で、その存在を捕そくした。

 木星の衛星付近から、月などを経由して、地球上に何がが降ってくる。
 そしてその物体からは、何かがまき散らされている。
 最初に採取された、その『粉』を解析し、実験動物に摂取させた結果、まさしく、その当時『rhume chronique de type anal』こと日本語名称『肛門型慢性風邪』の原因が判明した。黒いウニョウニョした巨体には、眼球型の部位と触手が何本もついている。それからまき散らされる粉が疾患の原因だと判明した。

 人類は対応に追われた。特にそれらを発見した欧州が主導し、対策のための様々な医薬品――そして、降ってくる謎のいかにも知的生命体風の物体に対しての兵器開発もなされた。そうして生み出されたのが、バトルスーツである。

 しかしながらこのバトルスーツ、操作するには、人間の創造性に関わるある脳の分野が一定以上活性している者でなければ、動かすことができなかった。理由は、想像力を駆使し、想像したとおりの行動で攻撃を行うからである。たとえば、『砕けろ』と念じて、それを上手く想像し、現実にそれが行われているイメージを構築できる者でなければ、使用できなかったのである。これは元を正せば、連綿と連なる魔術の視覚化の技法なのだが、詳しいことは割愛する。

 そこで適性がある者を調査するためのテストが開発された。
 そして全世界で一斉検査が行われた。

 ここまでは、ニュースでも繰り返し報道している、一般常識である。
 かくいう私も、そのテストを受けた一人だ。

 梨野春花と、試験用紙に名前を書いた。年齢欄には、四十歳と書いた。私は今では珍しくなりつつある昭和生まれだ。それも、第二次氷河期に襲われ就職活動に失敗し、ド底辺ザ底辺を地で行く喪女であり、これまでの間は、若くして交通事故で逝ってしまった両親の遺産を食い潰しながら、ジャージを纏って、引きこもり生活を送ってきた。だが、役所に人は、私のことすら逃してはくれず、怯えながらネット通販で私服を購入し、ボサボサの髪を結いゴムで整えて、私は試験会場へと向かった次第である。

 ちょっとだけ、ちょっと我慢すれば、終わりだ。
 何度も念じた私は、会話の仕方は――限界オタクなので、SNSの音声関連アプリで鍛えていたので問題は無かったので、無理にテンションを上げて喋りながら乗り越えた。

 それから、一ヶ月後。
 戻ってきた引きこもりの平穏生活の中、私はその日もSNSで世界を見ていた。
 どのようなジャンルのアカウントでも、落下してくる物質についてや病気の話ばかりだ。物質というか、眼球付きのその存在は、全身に、『シナゴ』と日本語のカタカナで読み取れる文字らしきものが書かれているので、今では公式的に『シナゴ』と呼ばれている。

 あと三日もすれば、最初の一体目が、よりにもよって日本海に落下するらしい。
 私の家は北関東なので、近いようで遠い。世界規模で見れば近いかもしれないが、東京湾なんてみたこともない。そう考えながら、冷房をガンガンにした室内で、私はもう六月も半ばだというのに長袖のパーカー姿でSNSに勤しんでいた。

 ピンポーンと音がしたのはその時で、そういえば昨日ネットでズワイガニを頼んだんだったなと思い出す。立ち上がって、私は玄関へと向かった。

「はーい」

 宅配業者以外来ないので、インターフォンを見ずに、私は扉を開けた。

「梨野春花さんですね?」

 すると眼前に、黒いスーツ姿の青年が立っていた。
 私より若く見える。多分、三十代前半だ。焦る。しかもイケメンだ。黒い髪に黒い切れ長の目をしている。繰り返すがイケメンだ。私は顔を背けた。眉毛はボサボサ、お肌はガサガサ、手入れをしていない私は、自分の顔が嫌いである。手入れをしてお化粧をしたらもうちょっとはマシになるかもしれないが、やる気も起きない怠惰な人間なのである。

「内閣直轄特別シナゴ対策班より参りました、遠藤と申します。先日の試験の結果、国内唯一の、日本人として初のバトルスーツ適合者に貴方を認定致しました。これより、三日後に迫る防衛戦に備え、スーツの試着を行って頂きます。ご同行願います」

 淡々とした声で言われた。
 私は吹き出しそうになった。ただでさえ世界は嘘くさくておかしいというのに、まさかの私が選ばれた?

「え、あのっ……」
「残念ですが、貴方に拒否権はない。五分待ちます。最低限の荷物をまとめて下さい」

 これが契機だった。


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