【AIがすべての芸術を生み出すようになった社会】第14話

「私……貴方に恋、出来る自信が無い」
「安心しろ。俺もお前を愛する未来予想図はまるで描けない」
「なら、他の人が良いよ」
「探してみるが、期待はするな。見つかるまで、その希望は保留とする。ところで篝」

 そう告げると、青山はアイランドキッチンを見た。その眼差しは、冷めている。

「家事がしたいのだろう? 食材は補充しておいた」
「あ……うん」
「試しにやってみたらどうだ?」
「う、うん!」

 それを聞くと、篝が大きく頷いた。その顔には表情らしい表情は無かったが、声が僅かにうわずっていた。着替えた篝が、キッチンへと立つ背中を、青山が腕を組んで見守る。これは希望を叶えた形でもあるが、半分程度は観察するという仕事だ。

「ええと……」

 篝はまず、包丁を手に取った。御堂学園の調理実習で、二度だけ触れる許可を得た事がある。それから、流しの上にあったカゴの中から、ピーマンをとりだした。

 まずはそれを切ってみる。歪な形になってしまったが、自分としては上手く切れた。
 続いて、トマトに取りかかると、まな板の上がべちゃべちゃに汚れてしまった。
 それでも気にせず、トマトとピーマンを切り続ける。

「篝、一体何を作るんだ?」
「え? ええと……何が出来るかな? 生じゃ、食べられない?」
「その大量のトマトとピーマンが、そもそも俺達二人の胃に入りきるとは思えないが」
「青山も食べてくれるの?」
「問題点はそこでは無いだろう……」

 青山は嘆息してから立ち上がった。そして切り刻まれたトマトとピーマンを見て、呆れた顔をする。

「トマトはソースにして密閉し、八割は保存しておく。残りのソースと、ピーマンでパスタソースを作ることを俺は提案する。鍋に塩を入れてパスタを茹でることは出来るか?」
「や、やる! 塩はどこにあるの?」
「すぐ目の前に、SALTと書かれた瓶があるだろう。それが塩だ」
「な、なるほど。パスタは? 鍋は?」

 一つ一つ丁寧に、青山は位置を教える。これは、篝の希望を叶えるために必要な事柄だと判断しての行動だ。こうして二人は、なんとかパスタを完成させた。それを皿に盛り付けて、二人でテーブルに並べて座る。


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