【AIがすべての芸術を生み出すようになった社会】第15話

「料理……できた……私、料理が出来た!」
「ああ」
「一紗は絶対に私にはできないって言ってたの。見せなきゃ。一紗は何処にいるの?」
「兄は……病院だ」
「え? 怪我? 病気?」
「――機密事項だ。次に面会に行った時に、機会があれば俺から伝えておく」

 脳死状態の兄の横で、雑談を披露することで、嘘を回避できるのならば、易いものだろうと青山は考えていた。ただ漠然と篝が兄の件を知らないと言うことは、別行動中だったのだろうかとも考える。できれば、兄を撃った槇田特別刑務官に一度話を聞きたい。別に恨んでいるわけではない。単純に、正確な状況が知りたいだけだ。だが今のところその機会はない。

「そっか……じゃあ、青山も辛い?」
「ん?」

 篝の声で、青山は我に返った。

「兄弟……なんでしょう? 家族が、入院してたら……辛いと思って」

 本当に芸術家は、想像力が豊かで困ってしまうなと青山は考える。

 ある意味において、それは優しさであり弱さである。それらが芸術を生み出すのかもしれないが、優秀な蒐集家であり鑑賞能力を保持する青山には、理解が困難な事項だ。だが、言うことは決まっている。これもまた、ケアの一環だ。

「――優しいんだな、篝は」

 笑顔を浮かべることも忘れない。日常的には笑う方ではないが、表情の作り方の訓練は受けている。唇の両端を僅かに持ち上げて、青山は続けた。

「この世界には、芸術家の手で家族を失い、もっと辛い目に遭っている者が大勢いる。犯罪者の排除のために、力を貸してくれるな?」

 バディたる特務級の感情表現者との信頼関係の構築は、特別刑務官の業務の一つだ。内心はどうあれ、と、青山が考えていた時だった。

「別に、そんな事を言われなくても、作り笑いなんかしなくても、私は殺るよ。それしか、私が生き残る術はないし。一紗も最初はそうだった。その顔、決まってるんでしょう? その台詞も」
「――ああ、兄も余計な知識を与えてしまったようだな。その通りだ。では以後、俺はお前に優しくしない。だが、お前は働くように」

 パスタを巻き取りながら青山が言うと、篝が神妙な顔で頷いた。


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