【AIがすべての芸術を生み出すようになった社会】第16話

 ――三日後。

『青山班長。現場の区画N72商業施設エンモラルにおいて発見された紙片に、〝ヨセフ〟の文字が確認できました』

 運転席で自動走行モードから手動に変更しつつ、指輪型端末上に表示された画面を見て、青山は頷いた。助手席には、声帯と食道を圧迫して封じた状態の篝がいる。手足の指先まで現在は管理下にあるが、薬物投与はしていないので、本人の自発意思がある状態だ。この状態ならば逃亡は不可能だが、なにをするか分からないのが芸術家だ。

「急行する」

 こうして青山と篝が現場に到着すると、そこにはまだ血の臭いが残っていた。
 それもそのはずで、被害者の遺体も検分のためにそのままである。

 そこには規則正しく女性の右足が並んでいる。断面が地に着き、つま先が天へと伸びている。芸術家の犯行を疑う要素も無い猟奇殺人である。しかし、断定するのは、バディの仕事である。芸術家の犯罪は芸術家にしか見抜けないのだから。指輪型のシステムで、青山は篝の声帯を解放した。

「どう思う?」
「うん……えっと……こんなに陳腐な作品は、芸術家の仕事じゃないと思う」
「なに?」
「これはただの猟奇殺人だよ。芸術性が感じられない」
「――俺には遺体を品評する趣味は無い。だが、芸術家以外の一般市民がこのようにむごたらしい事をするとも思えない」
「だったら青山の意見を採用すれば良いよ。私は違うと言った」
「……お前が断言した以上、これは特別刑務官の仕事ではなく、警邏庁警察課の事件となる。帰るぞ」

 こうして青山は、再び篝の首輪を操作してから、車へと引き返して本部に報告をした。
 結局、五日後に逮捕されたのは、ただの猟奇殺人鬼だった。一般市民である。


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