ターニングポイント
note記事募集"スキな3曲を熱く語る"が目に留まる。
人生の岐路に流れた大切なメロディーが奇しくも3曲ある。
これは書いてみるしかない。
Desperado / Linda Ronstadt
数年前、長年勤務していた部署が廃業となった。
巨大な石油関係の工場だったが、小さな町工場にあるような風情が漂う職場はとても大好きだった。みんな愛情を持って工場を必死に守り抜こうとしている姿が印象的な職場だった。叡智と情熱、そしてハイセンスな笑いを身にまとった仲間との関係は、未来永劫続くものだと信じていた。
そんな家族に近いような存在が、時代の流れと共に消えた。
またいつでも会えると、サヨナラを言わずに笑って解散した。
あの日流れていた曲が、哀愁漂う泣きメロの名曲”Desperado”だった。Eaglesのオリジナルではなく、Linda Ronstadtのカヴァー。あのローファイな歌声に魅了されてやまない。
”前を向いて歩いて行くんだ”と励ましているように聞こえる歌詞
今でも挫けそうになった時、自分を鼓舞するために口ずさむメロディ。
大切なメロディ。
You've Got A Friend / Carole King
海外の企業に勤務していた時のこと。
起業プロジェクトのサポートのため、中東に滞在していた。当時の私は海外プロジェクトどころか、起業そのものを経験したことがなかった。そんな不安を打ち消すには根拠の無い自信と情熱、初期衝動で乗り切る以外に術がなく、未だになぜあのプロジェクトに参加させてくれたのか謎である。
おぼつかない英語、文化やルールの違いによる軋轢、灼熱と屈辱の連鎖に何もかもが蝕まれていった。それでも現地人と共に生活していく中で、微かに信頼関係が芽生え、少しずつ環境に慣れていく自分がいた。
そんな中、私を大切にしてくれる現地人の友人ができた。何もできない私にいつも手を差し伸べてくれてくれて、とても慕ってくれた。
一緒に食事をしたり、仕事サボってドライブしたり、彼の友人と仲良くなったり、彼のおかげでいろんな景色を見ることができ、毎日が楽しくなってきた頃には、帰任へのカウントダウンが始まっていた。
帰国当日、最後に交わした言葉は、普段と何も変わらない"じゃあまたね"と軽いものだった。
別れを惜しむとお互いが辛くなるからと、彼なりの配慮があったことを、後に送られてきた彼からのメールで知った。
辛くて涙が出たと。
空港に向かうバスで聴いた"You've Got A Friend"
あの日の景色を鮮明に思い出す。
Cavatina / Stanley Myers
「ディア・ハンター」のテーマ曲として有名になったクラシックギターの名曲。この曲を聴く度に、大切な家族や仲間を思い浮かべる。
ディア・ハンターはベトナム戦争で仲間が引き裂かれていく悲劇や葛藤、仲間を失う悲しみを見事に描いた名作。何度見ても涙を流してしまう。
この映画に出会う、ずっとずっと前の私達の話。
バカ全開で駆け抜けた少年達は、気が付けば大人になり、自然と離れ離れになっていった。互いの連絡が少しずつ減っていくなかで、みんながあたりまえの日々を過ごし、会いたきゃいつでも会えると思っていた。
ある日突然、その仲間のひとりがこの世を去った。
あれから数年後、私はディア・ハンターを観た。物語に仲間と過ごした時間を重ねた。
誰かと過ごす平穏な時間が幸せだと感じた。
時が過ぎて、ポーランドのアウシュビッツ強制収容所を訪れた際、同じことを感じた。そこで見た光景や傷跡が訴えるものは、とても言語化することができなかったが、唯一触れた感覚だった。平穏な時間は幸せであると。
犠牲者への弔いとして、ホテルに戻る列車の中で、おもむろにカバンからイヤホンを取り出し、目を閉じて"Cavatina"を聞いた。
平穏な時間の大切さを思い出させてくれる不朽の名曲となった。
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