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雨の日のスープパスタ



雨はいつから降り続いているのだろう。




ぼくが元気になるために必要な時間しっかり寝たはずなのに、頭も体も重くて、うんうん唸りながら午前中にやるべきことをこなしていた。

息抜きのために、筋トレをしてみたり、コーヒーを淹れて飲んでみたりする。それでも元気にならない。痛みがあるわけじゃないから、頭痛薬を飲むのは違う気がする。


ずっと沈んだままなのはいやだから、11時から昼寝をすることにした。ぼくはよく昼寝をするけれど、午前中はあまりしないかもしれない。「午前」というだけで「活動しなくては」と急いてしまう心をなだめつつ布団に横たわる。窓を叩く雨音のリズムを探る。リズムをつかむ間もなく、グウと眠っていた。



目が覚めて体を起こしたとき、頭も体も先ほどとは打って変わって非常に軽かった。寝足りなかったか、朝の目覚めのタイミングがよくなかったようだ。冷めたコーヒーをひとくち飲んで、顔を洗うと、すっかり元気になっていた。


時間は12時、お昼時。 無性にスープパスタが食べたい気分。インスタントのスープパスタを棚から出し、やかんでお湯を沸かす。 

お湯が沸くのを待つ間に、賞味期限切れの小さなパンを焼く。既にできあがっているパンを「温める」と表現するのと「焼く」と表現するのでは何が違うのだろう。ぼくは何となく「焼く」の方が好きだ。


やかんが「ボコボコ」と鳴り始めたとき、ぼくのお腹が「Go!」と叫んだ。ぼくのお腹はいつも非常にうるさくて、困っている。急いでスープパスタにお湯を注いだ。 

スープパスタの粉は、どんなにかき混ぜても、たいてい底に溶け残っている。恐らくぼくの混ぜ方が悪いのだが、それをわかったうえで、いつもと同じやり方で、一生懸命にかき混ぜる。ここに人生を感じる。うそ。壮大なことを書いてしまいました。  

パスタが柔らかくなるまでの3分間を待てた試しがない。いつもギリ、と固いパスタを噛むことになる。パンを食べながらスープパスタを待つつもりだったのに、パンをかじるとスープパスタも食べたくなってだめだった。今回もギリ、と噛む。


少し時間が経ち、パスタが十分に柔らかくなってスープにとろみが出てくると、格段においしくなる。それがわかっていても早く食べ始めてしまう。「食べているうちにおいしくなるからいいや」と思っている。


しばし、くるくるのパスタの形状を観察する。くるくるでスゲー、と思った。それ以上のことは何も考えられず、また食べ進める。



ふと思い立ち、部屋の明かりを消した。

暗い浴室で、湯船の底に沈んでいるようだ。うっすらと青く光る窓の向こうから、はたはた、と水の音。ひんやりとした湿っぽい空気を感じながら、湯気のたつスープを飲む。


ぼくは、昼間は明かりを消して薄暗い部屋の中で過ごすのが好きだ。紙媒体の何かしらを扱うときと食事をするときは、暗すぎる場合は明かりをつける。何となく、ぼくは食事中に部屋が暗いのはあまり好きではなかった。 

でも、雨の日に明かりを消して食事をするのはけっこう楽しいかもしれない。 味覚や嗅覚が研ぎ澄まされる……というわけではない。少なくとも、ぼくが昼ごはんを食べている間にこれらが研ぎ澄まされた感じはしなかった。むしろ、ぼんやりとしていた。

このぼんやりが、とてもいい。雨の日にふさわしい。暗い部屋にひとりぼっちで、水の音を感じながら、体が内から温まるのを感じている。ぼんやり。こういう安心がとても好きだ。




パスタもパンも食べ終えて最後にスープを飲むとき、もう少し食べたいな、と思った。毎回思っている。でも、もう1カップ開けるのは違う気がするから、これでおしまいにした。

カップの底を確認する。スープはきれいに溶けていた。



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