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ブータンからウェルビーイングを考える。 Part4

幸せの国ブータンの不都合な真実 その①

ブータンの公立学校の朝礼に参加した時のこと。
休み明けの始業式のような日だったと思う。
日本の全校集会みたいな感じで、生徒が並んで立っているところに、校長先生が前に出てきて話し出した。

「残念なことに、この休みの間に、一人の生徒(中1)が薬物を使用してしまって保護されました。しばらく学校には来られません。」

えええええー・・・・
幸せの国訪問2日目にして、ディープな問題に直面してしまった。

ブータンの不都合な真実 その① ドラッグの問題

ブータンの薬物問題は結構有名なので、聞いてはいたけれど、目の当たりにすると、やっぱりショック。(しかも中1かぁ…。)

ちなみに、ブータンでは大麻は特に問題にならない。
よく見ると、すごく立派なのが地域によって普通に生えている。

問題になるのは、インドから簡単に入ってくる若者をターゲットにしたような薬物だ。

前回、「ブータンの若者は都会や発展した国に憧れる人も多い。」

と書いたのだが、ブータンの一番身近な若者の文化の中心はインド。
地理的にも近いし、インドはブータンの兄貴分みたいな存在。色々蜜月そう。
テレビも映画もインドのものをよく見ている。

もちろんインドに限らないけれど、海外の映画やメディアなどの情報で、ファッション感覚で薬物に手を出してしまう中高生が結構いるらしい。
(日本も似たようなものだけど…)

就職難もブータンの問題。

ブータンの80%は農家だけれど、やはり日本と同じで若者には人気がない。
仕事の選択ができるようになったのは良いことかもしれないけれど、農家を継ぐことをやめて首都ティンプーに来ても、残念ながら仕事はほとんどない。

ブータンには産業と言える産業がほとんどないのだ。
(しかも建設系の仕事は、なぜかほとんどインドの人がやっているイメージ)

結局、都会に来ても就職できる仕事はなく、フリーターとなった多くの人たちが、することもなく薬物に溺れていく、という現実もあるらしい。

滞在期間中に、新聞で国営の航空会社の乗組員とパイロットが薬物で捕まったというニュースも出ていた。

単なる現実逃避だけじゃなく、本当に安易な気持ちで始めてしまう人も多いんだろうな…。

解決策はあるのだろうか?

政府の対策機関である「Bhutan Narcotics Control Authority」というところも訪れたが、こういった問題を減らすためには、「教育」が必要だと言っていた。

これまでは、ドラッグの恐ろしさやその影響を教えられる教員もいなかったし、教材もなかった。
けれども、これからは教員の研修などを通して、若者にドラッグの危険性を伝える機会を増やしていくという。

教科指導だけじゃなくて、命や生活に直接関わるような教育って本当に大事。
しかもこの教育は、子どもたちだけじゃなく、親世代にとっても大事かも。

残念ながら、親の世代もドラッグやその危険性を教えられる知識を持つ人は少ない。

こんな話を聞いた。

ある日、子どもが親に「風邪を引いて風邪薬を薬局で買ったから、お金をちょうだい」と言う。
親は、その風邪薬を見るけれども、英語で表記してあるし、何かよく分からない。見た目はなんとなく薬っぽいので、結局、親は子どもにお金を渡してしまう。

でも、それは風邪薬ではなく、ただのドラッグ。
親は自らのお金で子どもがドラッグ漬けになっていくのを手助けしていることがある。
ショックな話だった。
これは、次回に書く言語の問題とも繋がるのだけれど、子どもと親との情報格差を物語っている。

なんせブータンは1999年までテレビすら解禁されていなかったのだ。
しかも、同年にテレビとインターネットをどちらも解禁したという急速な近代化の歪みは、どうしても出てしまうよね。

******

冒頭の朝礼の校長先生のお話の続き。

「薬物を使用してしまった子は、しばらくは体や心の回復のために休むと思います。でも、必ずまた戻ってきます。その時は、皆さん、あたたかく迎えてあげて、休んでいた間のサポートをしてあげてください。」

と校長先生は締めくくった。

日本だったら、まずこの学校に戻ってくることはあり得ないかもしれないし、あたたかく迎えられることは、まずないかもしれない。
そもそもこういったスピーチを、マスコミ沙汰にでもならない限り、全校生徒にすることもないだろう。

罪を憎んで人を憎まずといった校長先生の言葉も懐が深いと思ったし、
本当にそれを受け入れてくれる友達が待っていてくれる学校や社会であるなら、きっと更生して戻って来れるんだろうなと思う。
そう願いたい。

次回は、ブータンの不都合な真実 その②「失われる母国語」について書こうと思います。

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