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心は孤独な狩人

「マターナリズム」という言葉を知っていますか?
「パターナリズム」の対義語です。という説明で分かるのであればわざわざ意味を知っているかどうかなど尋ねないので、僭越ながら説明させていただきます。

「マターナリズム」とは、相手の同意を得て、寄り添いつつ進む道を決定していくという方針。と、ウィキペディアに記述があり、「パターナリズム」の対義語ともある。では、「パターナリズム」とは、強い立場にある者が、弱い立場にある者の利益のためだとして、本人の意志は問わずに介入・干渉・支援することをいう。と、これまたウィキペディアに記述されている。
「パターナリズム」は父権主義、「マターナリズム」は母性主義という定義もされている。確かに、父親と子供の関係、もしくは、母親と子供の関係に似ている。
しかし、「マターナリズム」の意味に少しだけ注釈を入れたい。ウィキペディアの「マターナリズム」の説明だけでは、一見相手の意志を尊重する寛大な心(母性のように)を思わせるが、この「マターナリズム」の中には実は選択肢を促す側が自分の望む選択を相手に選ばせているという意味が隠されている。それは偏見があるかもしれないが、母親が行う躾(教育)のように、あなた(子供)のやりたいようにやりなさいと口では言いながら、実は選択肢を与える側(母親)が自分が望む都合の良い選択肢しか相手に提示せず、そして、選択した責任は選択した側に押し付けられるところが、(誤解を恐れずに言えば)典型的な母と子の関係に類似している。私もこのような母子の関係に身に覚えはあるし、そんな話を聞いたこともある。
つまり、「パターナリズム」と「マターナリズム」の大きな違いは、選択する側が自分の意志で選べるかどうかであるが、実はどちらも選択を提示する側が相手の選択権を支配しているところがミソである。そしてさらに言えば、「マターナリズム」の関係性の一番の問題は、実際の選択権が隠蔽されているので、選んだ側が嫌悪感を抱かずに「共依存」に陥りやすいところにある。

上記に長々と「マターナリズム」の説明をしたが、何故この説明をしたかというと、とある本にこの「マターナリズム」が、未来の人間とAIの関係になると提言されていて、私は得心がいったからである。
身近なもので説明すると、大手通販サイトのアマゾンで買い物をしたことがある人は思い浮かべやすいが、ある商品を選んで買い物をした後に、オススメ商品として買い主が興味を惹かれる商品を提示されることがあると思う。だが、それは自分の買い物履歴等のデータを収集したAIから戦略的に提示されている商品かもしれない。自身の趣味趣向をAIに学習されたとすると、AIは常に人間の先回りをして、しかもわざとらしくなく、偶然に見せかけたようにしてその人の欲しい物を提示していく。そのようにAIに作為的に提示された選択肢に人間は不快感を感じなくなる。何故ならAIに自身の志向を把握されているからで、むしろ自身の志向品を学習して提示してくれる合理性を歓迎するようになるかもしれない。
その不快感を感じないシステムに慣れていくと今度は人間がそのシステムを好むようになり、更に慣れていくとそのシステムに依存するようになってしまう。そして、最後にはそれが無くなると生きていけない状態になるだろう。

過去のSF小説や映画のように、AIにわかりやすく支配された未来は訪れないかもしれない。わかりやすい支配にプライドのある人間は抵抗するはずだから。しかし、わかりにくく心地よい支配にはゆっくりと飲み込まれていくはずで、実際は人間が支配されたと気付かれないようにAIに支配されていくかもしれない。そんな未来が正しいとか間違っているとかはわからない。

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