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【小説】にわとりたまご🥚 第13羽

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≪第12羽をを読む🐥

🥚みいあちゃん

「みいあちゃん、最終公演」

ゴシック体の横断幕がかかっている。これはほのかちゃんが、「ださいよねこれ」と笑いながら作ってくれたものだった。

たしかにちょっとダサかったけど、でもダサいものすら自分の小道具にして、愛したくなったから、採用することにした。

コンクリート打ちっぱなしの広々とした部屋には小さなほこりがふよふよと浮いていて、ライトがあたると反射して空間を小さな光の粒で満たした。

この部屋にはわたしと、私の体よりも大きな正方形のキャンバスと、カメラが設置されている。

メイド服みたいなアイドル衣装に、すっぴん女はカメラの前に正座する。目の前には小さなローテーブルがあって、わたしの家にあるすべての化粧道具が並んでいる。

わたしはこれから人生最高の化粧をする。それを世の中がみればいい。

「みんな、かわいくなっていこうねッ」
いつもの挨拶、口癖、わたしの仕事をするうえでのモットー。

曇った時の空みたいな色をしたカラコンをいれて、パープルとピンク色のまじったアイシャドーを目に塗っていく。

「誰かを憎んで、怒って、どうしようもないときってあるよね」

瞼のうえに層として重なっていく色は、わたしが最近よく見る夢の中の世界みたいにぼんやりしたピンクパープル色だった。

魔女がいて、かわいいラブポーションをつくっている。ゆげもピンク色。そんな中に交じることを妄想しながらメイクをする。きっとそっちの方がいいから。

「ずっと、それを原資にして活動してきてたんだけどさ、わたし気づいたのね、それってずっと、憎んでる相手のことを思ってることになるって」

アイラインは直線すぎず、曲線すぎず、目をひらいたときにねこみたいになるようなイメージで。チークはモモを食べたときみたいな新鮮さで。

「言ってることわかる? つまりね、憎んでる相手からわたしが離れられてないってことなの!」

化粧を終えたわたしは立ち上がり、さきちゃんとほのかちゃんに準備してもらったバケツ一杯の黄色のペンキの取っ手をつかんで、わたしの体を軸としてぐるぐるとまわる。

ぐるぐる、ぐるぐる。

もともとめいっぱい入っていたペンキは、わたしの足元にぽたぽたと落ちていき、あたりに充満する鈍い匂いが鼻を通過していく。体の中心から50センチほどを半径とた円状に、まわりに黄色い輪っかができた。

遠心力をつかってぐるぐるまわる。

バランスがとれた、と思ったタイミングで待ち構えているキャンバスに、黄色い絵の具をぶつける。

しぶきが跳ね返って、フリルに黄色い液体が付着した。

「そんなこともう気にしてらんないの、わたしは」

今のキャンバスには、中心に黄色く激しい主張をする黄色いペンキがくずれた楕円形に描かれている。

「みんなさあ、これなににみえる?」

スマホを取り出して、自分の配信を見る。
たくさんのコメントと、スパチャが目の前の流れていく。


たまごじゃね?
これなに?

🥚
まるかな

そうなんだよ、そうなんだよなあ。

「これさ、たまごにみえる人もいるかもしれないし、ただの黄色の楕円形にしかみえない人もいるかもしれないし、あのとがった部分をとさかにみたててにわとりだって言う人もいるかもしれないね。

こういう感じなの! 絵も人間も変わらないの! 

わたしは、みんなにこの絵みたいに見られたい。時にはたまご、にわとり、楕円形。みんなみんなわたしだけど、どれもわたしではない。そんなことばでは尽くしきれないところに、わたしはいるの」

打合せをした通り、ほのかちゃんが「みいあちゃん」としての新しいデビュー曲を流し始めた。

「じゃあ、うたうよ」

耳の中を跳ね返っては消えていく、電子音が波のように訪れては去っていくようなイントロ。

「誰かのためではなく、自分自身の願いのために!」

他人ではなく、自分がいいなと思うことをする。

第14羽につづく🐥≫


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