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【小説】にわとりたまご🥚 プロローグ

🥚高橋さき 白いプラスチックのローテーブルにたまごを打ち付けた。 ECサイトで2000円で買ったもので、十分な硬さがないから何度もこっそりとたたく、でも下に敷いてあるピンク色のカーペットは汚したくないから手に力が入りきらなくて、何度も打ち付けないと割れてくれない。 殻から身を出した卵はそのなめらかな体を滑らせて、電子レンジであたためられたご飯にあけた穴の中に埋まるように流し込まれていった。 かき混ぜると、湿度のある音が六畳一間のワンルームを満たしていく。 解凍された

    • 【小説】にわとりたまご🥚 最終羽

      📍はじめから読む ≪第13羽をを読む🐥 🥚高橋さき みいあちゃんの最終公演が終わった。 ほのかちゃんからの熱い要望だったとびきりのメイクアップと、ペンキをつかったライブパフォーマンス。 どこかなまめかしさもありつつ、こころを針で突き刺されるようなクールさすら覚える化粧をしたみいあちゃん。 彼女はあの場にいて、ペンキと一緒に乱れ、乱発的にしゃべって、ほとばしる思いの丈をまき散らした。 あの真剣な顔、ペンキが頬に飛び散ったときに手の甲でぬぐう姿、アイドル衣装のフリルに

      • 【小説】にわとりたまご🥚 第13羽

        📍はじめから読む ≪第12羽をを読む🐥 🥚みいあちゃん 「みいあちゃん、最終公演」 ゴシック体の横断幕がかかっている。これはほのかちゃんが、「ださいよねこれ」と笑いながら作ってくれたものだった。 たしかにちょっとダサかったけど、でもダサいものすら自分の小道具にして、愛したくなったから、採用することにした。 コンクリート打ちっぱなしの広々とした部屋には小さなほこりがふよふよと浮いていて、ライトがあたると反射して空間を小さな光の粒で満たした。 この部屋にはわたしと、私

        • 【小説】にわとりたまご🥚 第12羽

          📍はじめから読む ≪第11羽をを読む🐥 🥚武田みか - みいあちゃん わたしがYouTuberになったのは、動画を投稿しはじめたからで、何か決定的な意思や意図があったわけではなかった。 取材を受ける、みいあちゃんという名前のついたイベントが実施され、ブランドがつくられ、本が書店に積まれていく。 取材。 ──どうしてYouTuberになろうと思ったんですか? みいあちゃん もともとメイクが好きで、動画を投稿してみたら伸びちゃって、どんどんはまっていって気づいたらこう

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        【小説】にわとりたまご🥚 プロローグ

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          【小説】にわとりたまご🥚 第11羽

          📍はじめから読む ≪第10羽をを読む🐥 🥚笹本ひだか メモアプリに記録していた番号を入力し、電話をかける。 スイーツコーナーをながめていた青髪の橋本マネージャーのポケットが振動し、肉付きのいい体がびくっと揺れて波打った。つながったんだ。 それを確認して僕は発信をやめ、隣にいたアタラさんに小さく目配せをした。彼はうなずき、自動ドアの電源をこっそり落とす。もう、扉は自動で開くことはなくなった。 「橋本ゆうきさんですね」 レジから僕は出ていき、彼に近づく。 不審者に声を

          【小説】にわとりたまご🥚 第11羽

          【小説】にわとりたまご🥚 第10羽

          📍はじめから読む ≪第9羽をを読む🐥 🥚高橋さき ガラス張りの高層ビルに隠されて橙色に染まった西の空はみえないけれど、その光の一部がビルに反射してきて、8時間近くブルーライトを浴び続けて ドライアイ気味の目がチクチクした。 「おわるときって、どうあるべきなんだろう」 「終わるとき?」 「花みたいに綺麗に散るか、爆弾みたいにボカンと跳ねるか、そもそも何もしないで去ってしまうか」 みいあちゃんは、ピンク色に染まった髪の毛を一束つまみ、ふぅっと息を吹きかけた。シルク素材のパ

          【小説】にわとりたまご🥚 第10羽

          【小説】にわとりたまご🥚 第9羽

          📍はじめから読む ≪第8羽をを読む🐥 🥚高橋さき 一週間で、みいあちゃんの最後に投稿する動画とライブを企画する。 みいあちゃんから直々に指名され、ファン代表として私とほのかちゃんは、それぞれの仕事や学校が終わったら、ほのかちゃんの家に行って当日まで毎日相談しあって進めていくことになっていた。 だけれど、好きで、ずっと憧れていた人だったからこそ、みいあちゃんに見合うような企画が何一つ思い浮かばなかった。 どちらかといえば、スケジュールやお金の問題ばかりが頭をよぎってし

          【小説】にわとりたまご🥚 第9羽

          【小説】にわとりたまご🥚 第8羽

          📍はじめから読む ≪第7羽をを読む🐥 🥚笹本ひだか レジに立ち、客の来ないのをいいことに、バックヤードでコンビニの運営が求めているかのように、僕はみいあちゃんから受け取った投稿を眺めていた。 投稿した動画や、出版した本の宣伝の投稿。 リプライ欄をのぞくと、大抵最初の方はファンの応援コメントが多いけれど、下にいけばいくほど人の怨念がたっぷり詰まったことばが並んでいる。 そもそも、いつからここまで執拗に、苛烈に攻撃される対象になったのだろう。過去にスクロールして、一番最初

          【小説】にわとりたまご🥚 第8羽

          【小説】にわとりたまご🥚 第7羽

          📍はじめから読む ≪第6羽をを読む🐥 🥚高橋さき 「ほんとごめんなさい」 みいあちゃんは、ほのかちゃんがつくったたまごサンドをほおばりながら、うつむいている。 「お酒、飲みすぎちゃったかも」 自分がずっと好きで、私が人生を頑張れた理由が目の前にいる。大学受験も就活も、恋愛も何もかも、私のゆらぐこころを支えてくれていた人。 YouTuberだから距離が近い、ような気がしていた。実際に会ってみると、たしかに私と同い年に思えるような顔の若さはあるけれど、吸って吐いている

          【小説】にわとりたまご🥚 第7羽

          【小説】にわとりたまご🥚 第6羽

          📍はじめから読む ≪第5羽をを読む🐥 🥚高橋さき みいあちゃんは、ほのかちゃんの家に運び込まれてからずっと横になっている。私が到着してしばらくしても起き上がらないから、相当疲れがたまっているようだった。 「ここに必要なのは救急隊でも警察でもないなと僕は判断して、さきさんをお呼びしました」 さっきのひだかさんのことばを思い出す。 どのような意味だったのかを問いかけたけれど、 「なんとなくです、気配りができそうだからかな」 と、猫みたいにうっすらと口角を上げて、微笑ん

          【小説】にわとりたまご🥚 第6羽

          【小説】にわとりたまご🥚 第5羽

          📍はじめから読む ≪第4羽をを読む🐥 🥚高橋さき 電話が鳴った。 壁にかけた時計を見るとまだ朝の7時10分。 一般的には営業時間外のこの時間にわざわざ電話? ついに私にもシステム障害対応の順番が回ってきてしまったということか、と血の気が引いていく。 「はい、もしもし高橋です」 覚悟を持って応答したものの、電話の相手はありがたいことに同僚やクライアントではなかった。 「あ、昨日はありがとうございました、笹本ひだかです。すみません、こんな朝早く」 昨日会ったひだかさ

          【小説】にわとりたまご🥚 第5羽

          【小説】にわとりたまご🥚 第4羽

          📍はじめから読む ≪第3羽をを読む🐥 🥚笹本ひだか 僕の勤める勤務するコンビニは、証券会社やら外資系のコンサルティング会社、小さくも勢いのあるベンチャーが乱立するオフィス街の中心地にある。 この業種業態は漏れなく激務になりがちだった。 昨今のコンプライアンス意識の高まりから、過剰な残業をさせないような風潮は高まっているものの、朝まで仕事をする仕事人の割合は0にはならない。 朝5時くらいにコンビニにワイシャツで黒いサンダルで入ってくるような人は、たいてい外資系コンサル

          【小説】にわとりたまご🥚 第4羽

          【小説】にわとりたまご🥚 第3羽

          📍はじめから読む ≪第2羽をを読む🐥 🥚笹本ひだか 「ひだかさん」 「はい」 さきさんと別れ、22時を少し過ぎた店内には、僕と店長のアタラさん、そしてシフトが終わったばかりのほのかちゃんしかいない。自動ドアの外の人手もまばら。 しっかりと確認したうえで、彼女は僕に話しかけてきた。 「また、マッチングアプリしてましたね」 「いいでしょう」 「いいですけど……」 彼女は目を伏せて、小さくため息をつく。 右肩に下げている、ピンク色の人型のシルエットが描かれた黒いトートバ

          【小説】にわとりたまご🥚 第3羽

          【小説】にわとりたまご🥚 第2羽

          ≪第1羽をを読む🐥 🥚高橋さき 「高橋さんってどんな仕事されてるんですか?」 緊張で、目を合わせることができない。 目の前に置かれた汁たっぷりのだし巻き卵。 わざわざ一口で食べられるよう四等分にされていたのに、手元のとりわけ皿でまたさらに二等分にしてしまう。 「私は、SIer、開発会社に勤めてます。小さめですけど」 私は八分の一ほどになった小さなだし巻き卵の切れ端を口にいれ、レモンサワーを流し込んだ。 前のヒモ彼氏と別れてから1か月半がたった。 関係を解消して直

          【小説】にわとりたまご🥚 第2羽

          【小説】にわとりたまご🥚 第1羽

          ≪プロローグを読む🐥 🥚高橋さき 「おはようございます」 9時に会社に出社するとすでに黒田部長はパソコンを開いていて、モニターの向こうから「おはざす」という声が聞こえてくる。学校の給食の時間に机を合わせていたように、私は彼と向かい合うような形で席が割り当てられた。 「昨日の資料、レビューしておいたよ」 モニターからひょっこりと顔を出して言う。くっきりした二重の澄んだ瞳と力強い眉毛が、おずおずと席に座る私の背筋を伸ばす。うまくやれただろうか、期待に応えられただろうか、

          【小説】にわとりたまご🥚 第1羽

          「いい喫茶店」と人生

          「……いい店ですね」 「いい店って……。いい店にするために少し人生を犠牲にしなきゃいけなかったんだいね」 喫茶店。 庶民にコーヒーを提供する憩いの場。……というよりかは最近では哀愁を求める場所の一面が強くなってきている。 「古き良き」おしゃれスポットとして、よくも悪くもインターネットの1ジャンルとして確立し、消費されている(当の私も消費している)。 絶対にクリームソーダを出してくれて、透き通ったガラスに技巧が施された器にプリンアラモードが盛られていて……。モーニングには

          「いい喫茶店」と人生