見出し画像

心理学やってる人って、自分が病んでるんじゃないの?

悲しき心理学者、よくある初対面のシチュエーション

誰かと初めて知り合ったとき、よく聞かれるのは
「仕事は何してるの?」という質問。

私のお決まりのフレーズはこれ。
「心理学者で精神科のクリニックで働きながら、精神分析的精神療法士の研修をしてるよ」

ドイツでは精神分析が幅広い層に浸透しているだけあって、
「なにそれ?」
とはならないけれど、

それでも直座に目に入ってくるのは、
かなりひきつった相手の形相(これは人間の表情筋によるマイクロエクスプレッションであり、一秒以下のスピードで反射的に出てしまう操作不可能なものであるため、致し方ない)。

それに伴うのは、
なんとか失礼に当たらない言葉を必死に頭の中で探している最中なのであろう、なんとも曖昧な「へー・・・」という、うすーいリアクション。

その後は、急にものすごく歯切れの悪い会話になる(苦笑)。

そして、それに続くのがこのお決まりの一言。
「え、それって、私のこととか分析できちゃうってこと?話すこと気をつけなきゃー!」

確かに、心理学を職業としていない人より、気づくことは多いだろうし、
あらゆることを変に深読みしてしまう職業病のようなものはあると思うけど、プライベートの時間にパーティーで知り合った人のことまでは分析しないよ。失礼やし。

なにはともあれ、心理学をやっている、
さらには精神分析をやっているなんて言おうものなら、
度々なんとも切ない初対面の場が待っているのです。

もちろん、初対面の場で「え、なんで心理学やろうと思ったの?自分のためとか?」などとダイレクトに聞いてくる人はそうそういませんが、
それでも「この人、どっか変なのかなぁ?」という考えが頭をよぎっているだろうというのは、想像に難くないわけであります。

そこで、普段は直接聞かれないであろうこの質問に、この場をお借りして答えたいと思います。

実際どんな人が心理学を勉強したり、心理療法士になったりするの?

私の個人的な観察によると、
心理学をやっている人には、ざっくり分けて2タイプいるように見受けられます(私はドイツ移住後に心理学を始めたため、このタイプ別けもドイツに限定したものです)。

1タイプ目は極めて健康そうなタイプ。
とにかくお勉強が出来て、すくすく育った印象の人たち。
純粋に人間の心の動きなどに興味を持ったようなタイプ。

こういう人たちは最終的に経済心理学とかスポーツ心理学とか、
いかにも健康そうな道に進みます。

2タイプ目は、わずかながらどこか闇を抱えてる感がありそうな人。
話してみるとどこか独特で、彼らが放ってるオーラがキラキラしていることは極めて(もちろん全員ではありません。あくまでも私のものすごーく主観的な印象です)。

こういう人たちの多くは心の病理を扱う臨床心理学を選択し、
卒業後にさらに職業としてセラピストの道を選ぶ傾向があります。

その中でも、特に精神分析の道に進む人は「考え込む」タイプが多い。
精神を分析するのを職業にしようと思うくらいなのですから、
相当考えるのが好きとしか思えないですね(笑)、自分も含めて、ははは。

それとは対称的に、認知行動療法を選択する人は、その名の通り行動派の人間が多い。私の印象では、なんとなくちょっとせわしなく、極めてパワフルな人が多い気がします。

専門家は、この質問についてどう言っているの?

ドイツナチスのユダヤ人強制収容所を生き延び、その後精神科医となった、かの有名なフランク・ヴィクトール氏は実際この質問にどう答えたでしょうか?

『精神科医や精神分析家になるような人間は、間違いなく、かつて自分の中に病理を発見した人間だろう』¹

やっぱり!!!

と、巨匠のお墨付きに安心感を覚えたところで、
どうしても個人的に追加させていただきたい文があります。

それがこれ。

「…そして、自己の回復への道を学問に見出し、最終的に心の苦しみに苛まれながら生きざるを得ない人々と、共に戦っていくことを生業(なりわい)にすると決めた人間だ」

これは、私が実際に精神療法士の道を目指している仲間をみていて気が付いたことです(というように、あたかも周りの人間の話であるかのようにいう時はだいたい自分の話であることが多い…!それにしても、かなりクサいフレーズですこと、ははは。)

結論

心理学をやっている人は、自分自身が病んでいるのか?

・筆者の考えとしては、傾向として、心理学の中でも臨床心理学の道に進む者の方が「病んでいる²」可能性は高いと思われる

・精神医学の巨匠ヴィクトール教授も、精神医学や精神分析の道に進む人間の中にある、原点としての病理の存在を肯定している

・精神医学や精神分析の道に進むということが、彼らの回復への挑戦であったではないか

注釈

1 引用元 https://www.youtube.com/watch?v=TFVCS6q5uIo 5:55 筆者訳

2 この「病んでいる」という表現は、ICD-10 (疾病及び関連保健問題の国際統計分類:International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems) の診断基準を満たすような精神疾患があるという意味ではりません。

サポートをよろしくお願いします。頂戴したサポートは、より面白い記事が書けるように、皆様のお役に立てるようになるため、主に本の費用に当てさせていただきます。