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金の行方(ショート・ショート)

太陽の光が真っ直ぐに進むように、俺も人生の目的に向かって最短距離を突き進むつもりだった。効率性重視は今や法律を越えたルールになっていた。守れない者は社会という世界から追放された。だから俺も、この世界から追放されないためにも真っ直ぐに進むしかなかった。

人生の目的、それは金持ちになること。
今の世界では金だけが権力になる。金持ちにならなければ、やはりこの社会は簡単に俺を見捨てるだろう。

俺はひた走りに走った。前を行くやつらを追い抜き、追い越し、とにかくテッペン目指して走り続けた。
そのおかげで成功し、金持ちになった。

しかし、人間というのは1億の金が貯まれば2億の金が欲しくなるし、2億の金が貯まれば5億の金が欲しくなる。欲望に限度はなく、俺は欲望のままに走り続けた。女と付き合う時間も無駄だと思い、人生をすべて金儲けに注ぎ込んだ。
そしてとうとう日本でも有数の金持ちになった。

72歳のときだった。肝臓に癌が見つかった。体調が悪いのには気づいていたが、病院へ行く時間が無駄だったから、一度も病院には行かなかった。とうとう我慢できなくなり、病院に行ったら、余命3か月と伝えられた。

病院のベッドで俺は自分の人生を振り返った。若い頃の夢を実現できたことに自己満足していた。ただ、まだ死にたくなかった。死ぬわけにはいかなかった。まだまだ金儲けがしたかったからだ。

俺は手術を何回もした。貯金が医療費に使われることは大変なストレスになった。

病気は治らず、初めて死を意識し始めた。再び人生を振り返ってみた。このまま死んだら今まで俺が稼いだ金はどうなるのか? 相続人のいない俺の財産はすべて国庫に入ってしまうらしい。いったい俺は何のために働いてきたのだろうか? 国に財産を渡すためだけに生きてきたのだろうか? そう思うと、自分の人生が本当に馬鹿らしく感じられた。

どうせならば俺の財産は有意義に使ってほしかった。国庫に入れて、無能な政治家のポケットに入るようなことは絶対に避けたかった。だから俺はある自然環境保護団体に財産の全額を寄付することにした。
そして俺は満足げに安らかな眠りについた。
その環境保護団体の理事長が狸親父の政治家だったことも知らずに。

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