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村田沙耶香『消滅世界』を読んで

大家族時代は終わり、核家族化が進み、今やさらに個の時代へと変わっていく。家族の価値観という言葉は死語になりつつあるのか。

愛し合う男女が結婚して、結ばれて子供が生まれる。それが幸せだという時代がひと昔前まであった。
しかし、いまやそんなことを人に押し付けようものなら、それが親切心からだとしても非難の的になる。

今回村田沙耶香は、恋愛とセックスと結婚と出産をすべて分解してみせた。家族というシステムを破壊し、個の集団としての新しいシステム(エデンシステム)を作り上げた。

恋愛はするがセックスはしない。セックスはマスターベーションのひとつ。結婚してもセックスはしない。(夫婦がセックスしたら近親相姦になってしまう)出産はセックスではなく、すべて人工授精となる世界。そんな世界を著者は提示してみせた。

そんな世界はあり得るのか?

二次元アイドルを追いかけ、人間の異性を避ける若者たち。恋人を作る時間があれば、自分の好きなことをしたいというアンケート結果。そんな状況を見ていると、少子化対策も人工授精に頼らざるを得ない時代が近未来にやってくるのではないかと本気で思わせられる。(殺人出産のときも少子化対策を皮肉っていたが、こちらのほうが現実的か)

ただ、愛と性欲とセックスを完全に切り分けられる時代はまだまだ来ないと思うし、この物語のような世界を望む人もまだまだ少ないだろう。ただ、時代の流れが指し示す方向のひとつとして、まったく無視するわけにもいかない気もする。

話は変わるが、女性のほうが男性より感受性が強いのは、性に対する感受性の幅が女性のほうが広いからなのではないかと思っている。

女性はそこはかとない感情を言葉にするのがうまいと思う。特に恋愛に関する言葉の豊富さには、羨ましさを感じる。その中でも村田沙耶香の表現力は、個性の果実から薄皮をはいだように瑞々しい香りがする。

最後に、村田沙耶香がなぜ小説を書くのかがわかる文章を紹介したい。(間違っていたらごめんなさい)

「正常ほど不気味な発狂はない。だって、狂っているのに、こんなにも正しいのだから。」

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