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第6話 ぼくとおもいでどろぼう

ぼくとおもいでどろぼう

第6話 ぼくとおもいでどろぼう


へんてこりんのなまえはおもいでどろぼうと言うらしい

おもいでどろぼうははうたう

ぼくはひとりで旅にでた たったひとりで旅にでた
ワクワクしちゃう大冒険っ
とにかく、ぼくはつきすすむ 前へ、前へとつきすすむ

おもいでどろぼうは、くるくる回ってうたう

ぼくはひとりで旅にでた たったひとりで旅にでた
ワクワクしちゃう大冒険っ
とにかく、ぼくはつきすすむ 前へ、前へとつきすすむ

ひとりねぇ
と、おもいでどろぼうはつぶやいた

どうして
どうして、ぼくのおもいでをぬすんだりしたんだよ

ぼくはおもいでどろぼうに聞く

おもいでどろぼうは言う

キミがいらないって言ったからだよ、ワクワクする旅がしたいんだろう?だからオイラがぬすんでやったのさ

おもいでがなければ、どこへ旅してもたのしいじゃないか

世界は 知らない で、あふれているんだからさ

オイラはキミのためにぬすんでやったのさ

ぼくは何も言えない

それにキミは」
「なんのおもいでをぬすまれたかだって、おぼえていないだろう?

そう、ぼくはこのへんてこりんに何を言われても
何もおぼえていないんだ

でも、それでも、
ぼくは前に進みたいんだ

同じところをぐるぐるするのはつまらない
同じところをぐるぐるするのをやめるためにも
ぼくにはおもいでがひつようなんだ

じゃあ、どうして
どうして、前に進むためには、おもいでがひつようなんだと思う?

キミは、おばあさんに言われるまで おもいでが大切だって、考えたこともなかっただろう?

たしかに、そうだ
ぼくはおもいでのことなんて考えたことなかった

だって、ぼくはひとりで旅に出たんだから
だから、おもいでがなくても、ひとりで旅ができる
こわいものなんてないさ

ふーん
と、おもいでどろぼう

ほんとうに、キミはひとりだったのかい?

ぼくはしばらくかんがえた

うーん、うーん
うーーーーーーーーん

ぼくはわからない

前にすすむために、おもいでがひつようなことも
ぐるぐるしないために、おもいでがひつようなことも
ぼくがひとりで旅にでたかどうかも

ぼくにはわからない

ずーっと、ずーっとかんがえた
でも、やっぱりわからない

おもいでどろぼうはため息をついた
はあ

オイラはおもいでどろぼうだけど、いじわるをしたいわけじゃないんだ
キミがいらないって思ったから、おもいでをぬすんだのさ

じゃあ、かえしてよ
ぼくがそう言うと

キミがちゃんとおもいでの大切さに気がついたらかえしてあげるよ
おもいでをかえすのも、かんたんじゃないんだよ
と、おもいでどろぼうはためいきをつきながら言う

おもいでの大切さ、、、
ぼくは、ぼくは、、、わからない、、、

しかたない、キミにこの世界のひみつとやらを教えてあげよう

おもいでどろぼうはぼくに近づき、ぼくの手をにぎった

あたりがまっくらになって、
とつぜん、目の前にテレビがでてきた

これが、キミのおもいでだ
と、おもいでどろぼう

スイッチオン!
ぼくのおもいでテレビにがながれだした




そこにはぼくがいる
小さいときの、昔の、ぼくだ

昔のぼくはリュックをしょって、どこかにでかけている

「あっ」
と、ぼくは思わず声をだした

昔のぼくがころんだからだ

おおん おおん
おおん おおん

泣いている

おおん おおん
おおん おおん

ずーっと泣いている

おおん おおん
おおん おおん

ずーっと、ずーっと泣いている

ぼくは、誰か助けてあげて、と心で思った

昔のぼくは、おおんと泣きつづける

すると、そこに、おとなのひとがやってきた

それは、、、

お母さんだ

あれは、ぼくのお母さんだ

ぼくはどうして忘れてしまっていたんだろう?

ぼくにはお母さんがいたんだ

ながい旅で、忘れてしまっていたんだ

お母さんは、昔のぼくの頭をぽんぽんとなでて
ポケットからアメをだして、昔のぼくにあげた
昔のぼくはアメを食べて、ついに泣きやんだ

アメをもらった昔のぼくが泣きやむと同時に
ぼくが泣いていた

お母さん、お母さん、お母さん、、、

ぼくのなみだはとまらない

テレビにうつる昔のぼくは、またリュックをしょって
どこかへでかける

そして、ルンルンしながらおうちに帰る

おうちにつくと、昔のぼくは止まってしまった

お母さんが、たおれている

昔のぼくは、ただそこに立っている

いや、立つことしかできないんだ
ぼくはそう思った

ショックで、何もできないんだと思う

そうして、昔のぼくはひとりになった

泣く、泣く、泣く

おおん おおん
おおん おおん

ずーっと泣いている

でも、助けてくれたお母さんは
いつも、アメをくれたお母さんは、
もういないのだ

テレビにうつる昔のぼくは
ずーっと泣いている

おおん おおん と泣いている

すると、そこに
ひとり、またひとりとやってきた

みんな知らないひとだったが、
昔のぼくの頭をなでたり、アメをくれたり、食べものをくれたり、ともだちになってくれたり、おうちにしょうたいしてくれたり、おふとんをかしてくれたり、、、

気づくと、そこはわっかになっていた
昔のぼくはわっかの中にはいって、笑っている

にこにころ笑っている

昔のぼくはもう、ひとりじゃなくなったんだ

そうして、元気になった昔のぼくは
またリュックをしょって歩きだした

旅にでて、ころんでも、おなかがすいても、
いつも誰かが助けてくている

そして、ポケットにはアメがたくさんはいっている

テレビにうつる昔のぼくは、どんどん旅をして、成長したみたいで
今のぼくと同じくらいになった

そして、テレビの中のぼくの前には昔のぼくがあらわれた

手を繋いで、いっしょにうたい、笑い、旅をする
コーヒーにミルクとさとうをいれたものもいっしょに飲む

でも、ある日
楽しくなさそうな日に

テレビの中のぼくは

「いなくなっちゃえば良いのに」
と、言った

そうすると、昔のぼくは消えてしまった





テレビが消える
あたりがまた明るくなる

キミは、キミのおもいでを、泣いたいたころのキミをいらないって、いなくなっちゃえば良いって言ったんだよ

だから、オイラはぬすんだんだ
おもいでだって、そんなこと言うやつとはいっしょにいたくないと思うからさ!」

おもいでどろぼうはぼくに向かってそう言った

ぼくは、いっしょに旅をした昔のぼくを、
ぼくのおもいでを、いらないと思ってしまった

それは、本当のことで、
その時はそう思ってしまったんだ

昔のぼくが、おもいでが、おもたかった
旅のじゃまになると思ったんだ

ほんとうに、キミはひとりだったのかい?

おもいでどろぼうは、ぼくにしつもんする

キミは、キミのお母さんや、たくさんのひとに助けられて、生きているんだよ
と、おもいでどろぼうはつづけて言った

ぼくは、ぼくは、
どうして、ぼくは忘れてしまったのだろう?

テレビで見たように
ぼくは、お母さんに、そしていろんなひとに助けてもらったんだ

旅はひとりじゃなかった
いつも誰かがそばにいてくれてたじゃないか

ぼくは、また、泣いてる
なみだがとまらないんだ

おもいでどろぼうは、やれやれという顔をする
忘れないでおくれ、と話をつづける

旅をすることは、今を生きることだ

でも、今を生きることは、おもいでを忘れることじゃないからね

今を生きることは、旅をすることは
おもいでを忘れることじゃない

つらいことも、たのしいことも
泣いたことも、笑ったことも
ぜんぶがおもいで ぜんぶがおもいで

けっきょく、おもいでどろぼうは
どうして前にすすむためにおもいでがひつようかは
教えてくれなかった

でも、ぼくはわかった気がした



ぼくとおもいでどろぼう
第6話 ぼくとおもいでどろぼう

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