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過ぎ去りし時を求めたくない

by DRAGON QUEST Ⅺ

求めたくなかったのだけれど、それでもなんだかんだ求めた先は幸せだった。

どっちが正しいなんてないのである。


ドラクエとの付き合いはFFよりも長く、物心つく頃から身近なゲームだった。Ⅳ〜Ⅷまでを少女時代にプレイしており、深いストーリーと花嫁を選べるという特徴のⅤが1番好きだった。Ⅺをやるまでは。

学生生活も終わり実家を出て社会人数年を過ごし、ゲームというものから完全に離れていた私に兄からスッと手渡されたのがこのゲーム。これは間違いない、という目を彼はしていた。

ドラクエな時点でハマるのは分かっていたが、まさか一番好きなナンバリングになるとは思わなかった。

ストーリーを言えば、何かの間違えで悪魔の子と呼ばれ追われる身となってしまった心優しき主人公が、信頼できる仲間たちと出会い、勇者として敵を倒し世界を守るというほぼほぼRPGの王道に則ったものである。とあるイベントを除いて。

以下ネタバレ注意

とあるイベントとは、大惨事の苦しみを耐え共に世界を救った仲間たちを残し、主人公1人が大惨事が起きる前の過去の世界に戻るという内容である。

その時渡りの理由は、大惨事を防ぎ救えなかった命を救うため。それは過去を変え今現在を捨てるという意味である。

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たしかに命は救いたいし立派な理由なのだが、仲間を捨てて過去になんて本当に戻りたくなくて、1週間放置した。

大体のプレイヤーはそうだったと思うが、仲間が大好きになってしまったから。

この作品は仲間たちが本当に全員魅力的なのだ。

作中では主人公とだけでなく、仲間同士のやりとりも多く、描写されないシーンで彼らが過ごす時間を想像させてくれる。ある時は勝手に喧嘩を始め、ある時は仲間の秘密に気づき、ある時は誰かの背中を押す。仲間同士が本物の絆で勇者を取り囲んでいるのだ。

特にセーニャという推しのキャラクターがいる。出会った頃はおっとりとしてどこか頼りなかった回復特化の彼女は、とあるきっかけで成長を遂げ涙も見せず毅然と魔物たちへ炎の魔法を放つようになった。過去へ戻るということは、あの時の彼女の決意や成長を無に返すというわけである。

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さてさて疑問や戸惑いはあっても、それでも過去へ戻らなければ前へ進めないところがこの作品の賛否両論な部分である。だが、この善とも悪とも取れる決断こそ、ドラクエ慣れしたファンたちの心に衝撃を与えることに成功した理由だろう。

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あぁ、涙なしには見られない。震えながらに画面と向き合い、苦楽を共にした仲間がどんどん離れていく深夜3時。我が分身である主人公は一瞬で過去へ。(そのイベントを終えブラックアウトした画面にはぐちゃぐちゃな自分の顔が映り、一気に私は現実へ)

結果、過ぎ去りし時を求めた先にあったのは人々全員の笑顔だ。完璧な勝利と平和。仲間はこちらにも確かにいる。だがあの大惨事を過ごした記憶は勿論ない。過ごしていないのだから。

どうも釈然としない。

しかしそのまま進めていくと、だんだん分かってくる。記憶こそないが、あの時置いてきた仲間はたしかにこの時間軸の彼らの中に生きている。そんなことを匂わせるエピソードが所々にある。その辺りはドラクエらしいハッピーエンドだ。

それは良いことではあるが、それでも何か釈然としない人々が今でもやはり議論を続けているらしい。

「いなくなってしまった大切な人を救えます」

「けれど今そばにいる大切な人とは2度と会えません」

「傷を得る前の日々に戻せます」

「けれど傷だらけの世界を生きた日々は消えます」

正解なんて無いのだろう。

選択の良し悪しは主観の域を超えず、人々はいつまでも答えを求めて悩み、議論し、疲れ果てて眠るのだ。

だからこそこの作品は愛されるのだろう。

「あれは過去に戻るべきじゃなかった」

「いや、戻った方が結果的に良かった」

そうやって本気で悩み抜くからこそ執着が生まれ、答えが出ないからこそ愛は醒めない。

そんな選択の天秤に掛けられたのが魅力的な物同士であるならば、余計に。


新作のドラクエⅫ、ハードル上がったなぁ。

良いゲームでした!!


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