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愛すべきわたしの父


わたしの父はすごく可愛い。

どんな風に可愛いかというと、ずっと様子を見守っていたツンツン野良猫がわたしがいなくなるとふと近寄りスリっと頬を寄せてデレるような、そんな可愛さがある。分かりやすく言うと、ようはまあ、ツンデレなのだ。


昔の父は、よく怒る人だった。
ツンデレの

ヅン!!!!!!!!!

みたいな人で、デレが0%なだけではなくツンが500億%くらいだった。

短気で自分の思い通りにならないと感情の抑制がよく効かなくなる人で、今もまあそうなのだけれど、たまに少し遠くに住む親戚がよっ!と顔を出す程度になった。そしてわたしもその父のDNAを確かに受け継いでいたので、物心ついた時から常に喧嘩していた。

普通に会話する声色で冷静に喧嘩することは1度もなく、怒鳴り合いか胸ぐらの掴み合いかという激しい喧嘩。まるで野良猫同士が縄張り争いをするようだった。毎日のように怒号が飛び交い、かなり家の雰囲気は荒れる割には、喧嘩の内容なんて鼻くそ程度のしょーもないことばかり。これ以上喧嘩するなら家出する!!と母に言われたので、喧嘩は週3回程度になるよう抑えていた。

だいたい喧嘩になる理由は、父がデレられないことが主な原因だった。
デレがヅン!!!になってしまう人だったので言い回しが下手くそなのだ。そしてその事実に気づけるほどわたしも大人ではなかった。

喧嘩が減ったのは、ヅン!!!がデレへ徐々に変わり始めてからだったのか、ヅン!!!をデレの裏返しだとわたしが気づいたからなのか、どちらが先なのかはあまり覚えていないがそんなタイミングだった。

わたしも大人になったし、父も歳をとった。
素直になるにもエネルギーはいるが、怒るにもエネルギーがいる。
お互いいい年齢になったのだと思う。

初めてのデレのかけらを見せられた時、わたしは驚きと困惑が口から飛び出そうになるのをグッと抑え、“素直になるにはまずは自分が素直になること!“という母のアドバイスが頭をよぎり、わたしも同じようにデレた。

すると当たり前だが、途端に会話がスムーズになり、まるで縁側で日向ぼっこしているかのように空気が平穏になった。兎にも角にもものすごい平和。普通の家庭ってこんなに平和なんだろうか…すごい…と感動した。それが癖になり、今までの戦争はなんだったのか、始めからそんな時間はなかったのではないかと思うほど、お互いにデレていくようになった。

一番デレた時は、ふいに「わたしのこと、好き?」と聞いた時のことだ。
父はすぐに「きらい」と言った。(酷い)そしてすかさず「お前はお父さんのこと好き?」とも言った。わたしが「好きだよ」と笑顔で言うと、父は嬉しそうに少し微笑み「お父さんも(わたしのことが)好き」と言った。
生まれてこの方、父からまともな愛情表現をされたことがなかったのでかなり驚いた。この出来事は衝撃的なデレぶっちぎりのNO.1で、きっと一生忘れないし、思い返してはかわいいなあと一生ニヤニヤする出来事なんだと思う。

それからわたしが一人暮らしを始めるタイミングでさらにデレるようになり、うつ病になってからはデレを通り越して菩薩のようになった。
病気になった理由に、自分が小さい頃から怒鳴りつけていたからではないかと思い後悔しているようで(発症原因は仕事だが生育歴も関係していることは明らかだったので)、この世に存在している人の中で誰よりも自分のしたことと向き合い、わたしに寄り添ってくれていた。自分を許してくれとも言わず、ただ黙って心配し見守ることなんて、誰にでもできることではない。父は昔から不器用だが、誠実な人だった。その姿にわたしの心は打たれ、この先何があっても父の面倒はわたしがみようと密かに心に決めた。


今でも父と言い争いになることはある。
話が通じなくてヒートアップして怒鳴り合いになって大泣きするような夜もある。このクソジジイ!!とむしゃくしゃすることもたっくさんある!!!
でもそんな時は史上最上級にデレた、父の姿を思い浮かべる。
あの時の父の嬉しそうな顔はどうしても忘れられなくて、もう、可愛いんだから!と何をされても許してしまいそうになるのだ。(許さない時もある)

野良猫のように気性は荒いが、デレる瞬間が最高に可愛いこの父と、
できるだけ長く、仲良く、一緒にたくさんの思い出を作りながら、生きていけたらな。と思っている。






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