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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#50

11 公儀と朝廷と戦と(1)

 その頃聞多は下関で暇を持て余していた。下関で相も変わらず、来る船に対して接遇していた。確かに仕事はないわけでもないが、忙しいほどではなかった。いろいろと行き違いの結果だ、と聞多は認識していた。時間はあるので三味線の稽古をしてみたり、茶の湯やそんなことで一日を過ごしていた。そんな日々も他の人達の働きを見ると、どんなものかと考えていた。

 木戸は大坂や京に長州から入れ替わりに、いろいろな人を状況確認のため送り込んでいた。ほかの人たちはあれこれ活動しているのに、我が身はと落ち込むばかりだった。木戸さんの構想から外されたかなとか。取り残された気分で落ち込み気味だった聞多を、京から帰ったばかりの俊輔が訪ねてきた。

「俊輔、帰ってきたのか。京で色々見聞きしてきたのであろう。ええの」
「あくまで薩摩の裁量の範囲内の事だが。それにしても公儀とくに慶喜公の動きは要注意じゃ。土佐もなかなか難しい」
「そうか。わしは、茶の湯と三味線の稽古じゃ。これでこの地の商人などと、話をして過ごしてるんじゃ」
 ほとんど自虐気味になっていた。
「聞多の事、木戸さんにも話をしておいた。大丈夫。このままほっておくわけないじゃないか」
「そうか。今度のことで、わしには友人がおらんことが身に染みた。愚痴を言う相手も相談する相手もなかなかおらん」
「聞多、僕のことは友人ではないと」
「すまん。俊輔は特別じゃ。そんなつもりじゃないぞ」
「三味線か。高杉さんにはかなわないけど、僕や山縣だって頼ってくれてええんじゃよ」
「そうだな。そうじゃな」
 聞多はつぶやくように言うと窓の外を見ていた。
「僕は梅をやっと正式に妻にすることが出来そうだ」
「それはめでたい。よかったの。梅さんも山口に連れて行くんか」
「そうだ。梅ならうまくやっていけると思う。聞多は相変わらずおなごとは続かんの」
「仕方ないじゃろ。これも縁じゃ。わしは運命の人を待っとるんじゃ」
「あぁそうじゃの」
 何を望んでいるんだかと、俊輔はおかしくなった。
「元気づけに、僕がおごるよ。ぱっとやろう」
「おう、そりゃええ」
 聞多も少しは元気な声を上げていた。


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